拿捕と銃撃の暗黒史
FAXは「国後島西沖でロシア警備艦が救命胴衣を着けた漂流者を発見したが、荒天のため見失った」という内容だった。引き揚げられたリュックサックには乗船者名義の銀行カードが入っていたという。
「捜索救助についての二国間協定に基づき、(ロシア側に)本件概要を伝えて情報提供をお願いしており、それを受けての連絡でした。(ロシアからの)情報は基本的にはFAXです」(同前)
日露の緊張関係のなか、捜索で協力できるのか。FAXでは連絡を密に取りづらい印象もあるが、東海大学海洋学部の山田吉彦教授はこう解説する。
「ロシア国境警備局と海上保安庁の関係が完全に崩れたということはなく、ローカルチャネルとして現場同士の関係は続いている。海難事故など人道的な話でいがみ合うことはない。ただ、ロシア側がどこまで捜索に本気かは疑問です。積極的に探しているなら、荒天でも救命胴衣を着けた漂流者を見失うとは考えにくい。
FAXという連絡手段はアナログだが、国境警備局はそういった水準の組織。FAXだとウイルス攻撃の心配がないということもあるでしょう」
現場が日露にとって「緊迫の海域」である歴史も影を落としているようだ。北方領土周辺は世界有数の水産資源の宝庫で、操業する日本の漁船がロシア側に拿捕される事件が相次いできた。
「この海域でロシア国境警備局に拿捕された数は、戦後から昭和の終わりまでの1946~1989年に1200隻、8600人にのぼりました」(北海道庁水産局漁業管理課)