【書評】『タリバン台頭――混迷のアフガニスタン現代史』/青木健太・著/岩波新書/924円
【評者】山内昌之(神田外語大学客員教授)
アフガニスタンのケシ栽培作付け面積は、2020年を通して22万4000ヘクタールに及ぶ。農場出荷価格は約3億5000万ドル(約400億円)に達する。
アフガニスタンは、世界最大のケシ産出地であり、とくにロシアは麻薬流入を不法な人身・武器売買と並ぶ犯罪と見なしている。自国の安全保障を脅かす要因としてケシ栽培を警戒するのだ。ロシアはいまやタリバンとの協力なしに国内治安と国民厚生の維持を図れないのである。
他方、著者は米軍のアフガニスタン撤退について、米中対立という戦略的競争を念頭に置いて下された決定だとする。米中という巨大なプレートがうごめき、その震えによって地政学的要衝にあるアフガニスタン周辺がヒビ割れを起こし、一般市民が暗部に落ち込んでしまったようだ。このように2021年のタリバンの権力掌握を語る著者は、欧米・日本・インドが主導した国家建設が失敗に終わり、代わってタリバンが台頭したと考える。アフガニスタンの将来は中国・ロシア・域内諸国の手に握られたのである。
なかでも中国は、東トルキスタン・イスラム運動を中心とする新疆ウイグル民族運動がアフガニスタンを根拠地として使わないように注意を払っている。豊富な資源国でもあるアフガニスタンは、同時に「帝国の墓場」であり、ロシアやアメリカをブラック・ボックスに吸い込んだ複雑な歪みを持つことを知っている。中国は、経済的利益とテロ対策の両面からタリバンを支持せざるをえない。タリバンも政治承認をする国がない中で、中国の支援を受けるのは貴重な財産となる。
しかし、外国からの信頼を恒常的に得るには、タリバンも国内で極端なイスラム純化政策や女性差別を避けなければならない。国家独立のためにはイデオロギーを希薄にし、イデオロギーに固執するなら革命国家の純化を図らねばならない。この二律背反に悩むタリバンの現状を知る上で頼りになる最新の書物である。
※週刊ポスト2022年5月20日号