密漁品をさばくルートはいくらでもあったというから、密漁がいかにヤクザにとっての資金源だったかがわかるだろう。船から上げて荷を運ぶ際は、海保ではなく警察の動きに気をつけたという。
「警察の動きは常にチェックし、検問をやっている所は避けた。密漁は地元のヤクザなどの協力がないとできるものではない。北海道の田舎の漁港あたりでは、誰がヤクザかヤクザと関係があるかは周知の事実。誰がよそ者かは一目瞭然だ。よそ者がおかしな動きをしていれば、すぐに警察に通報される。検問にひっかかればあれこれ聞かれ、車の中を調べられる。もし密漁したアワビやウニが見つかれば”港で拾った”と言えばいい。俺たちが密漁したという証拠はない」
密漁者を捕まえるのは、存外に難しいようだ。
密漁と聞けば、上記のようにオホーツク海のカニ漁が思い浮かぶが、実のところ密漁は瀬戸内海でも見逃せないほどの規模になっているのだという。瀬戸内海では近年、アワビやナマコの密漁が多発しており、改正漁業法でこの2つは特定水産動植物に指定された。そのため密漁すると3年以下の懲役または3000万円以下の罰金が科される。個人に対する罰金としては国内で最高額だ。
瀬戸内海で密漁が頻発するのは、アワビやナマコが獲りやすいというだけでなく、瀬地内海の地形が関係しているとA氏はいう。「小さな島が沢山あるから、島影に隠れ、船を岸に着けてしまえば見つからない。オホーツク海の冷たい荒波に比べれば、瀬戸内海は穏やかで温かく安全。今ではヤクザ以外の人間の方が多いのではないか」。
密漁の取締りはどこまで行ってもイタチごっこのようだ。