吉田みく「誰にだって言い分があります」

定年後再雇用のリアル 「給料泥棒扱いされても辞めるわけにいかない」60代男性の葛藤

定年後再雇用のリアルな姿とは(イメージ)

定年後再雇用のリアルな姿とは(イメージ)

「70歳定年制」などを定めた改正高年齢者雇用安定法が施行されて1年余りが過ぎた。「2021年版高齢社会白書」によると、就業者と完全失業者を合わせた「労働力人口」に占める65歳以上の割合は13.4%(2020年)。同8.8%だった2010年以降、右肩上がりに増えている。高齢になっても働く意欲や元気のある高齢者が増えたと言うこともできるが、現実には「生活のため」に働く高齢者も多く、そこには様々な困難が伴う。定年後再雇用のリアルな姿はどのようなものか。フリーライターの吉田みく氏が、60代男性の話を聞いた。

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 都内在住のフミオさん(仮名、62歳)は、定年後再雇用制度を利用して働いている。「収入はあるけれど、会社に居づらい」と、現在の悩みを打ち明けてくれた。

「正直、私は“邪魔者”なんじゃないかと思っています。仕事はほとんどなく、定時を待つだけの毎日。原則、希望者は再雇用してもらうことができますが、この先、継続雇用の対象から外れてしまうかもしれません。私はこのままでいいのでしょうか……」(フミオさん、以下同)

 フミオさんは、約20年前から建設会社の事務職として働いている。前職ではリストラにあい、ハローワークにて現在の職場をみつけたそうだ。定年前の年収は400万円ほど、再雇用後の年収は300万円弱まで下がったとのことだった。

「主な業務内容は請求書の作成ですが、最近は30代の事務職の女性が1人でこなしているのが現状です。手伝おうとすると嫌な顔をされることが多いので、あえてしないようにしています。

 やることがないので電話応対をしていたのですが、新規取引先のなかには英語やカタカナの聞き取りにくい社名も多く、周囲に迷惑をかけてしまうことが多かったです。あまり考えずに受けた電話を営業部に回したらセールスの電話だったようで、注意されたこともありました。次第に億劫になり、今では電話が鳴っても出ないようにしています」

 最近は、換気のために職場の窓を開け閉めしたり、観葉植物に水をあげるなどの社内美化業務に力を入れているそうだ。しかしこの業務だけでは定時まで時間を持て余してしまうとのこと。そこで最近始めたのは、社会で起こっているニュースをチェックすることだった。

「世の中では色々な出来事が起こっているんですよ。職場の仲間に最新の情報を伝えると、『フミオさん、情報通ですね!』と、褒められることも増えました。特に盛り上がるのは、芸能ニュース。きっと30代の娘よりも芸能情報は豊富だと思いますよ。以前よりも社内が明るくなったような気がします」

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