「足す」よりも「引く」ことで見えてくるもの

表情だけでなく所作に至るまで「引き算」を心がけたという  (c)テレビ東京

表情だけでなく所作に至るまで「引き算」を心がけたという (c)テレビ東京

 映画専門学校出身の監督は、母校に呼ばれて演出の授業に参加することがあるが、「経験が浅いと、何かさせたがりがち」だと指摘する。

「私もそうでしたし、今も気をつけていることです。役者さんに何かをさせないと、自分がいる意味がないって思ってしまうんですよね。何か爪痕を残したい、こういう演出ができる、自分のオリジナリティはこれですっていうものを提示したくて、余計な要素を足していく。何もしなくて伝わらなかったら不安、っていう心理もあるでしょうね。

 でも、足していくことによって、余計なものが増え、本来伝えたいことがどんどん見えなくなっていく。引いていったほうが、“本質”が残る気がします」

松本若菜という女優の「凄さ」

“密”に欠かせない存在となっていく斉藤真言(桐山漣) (c)テレビ東京

“密”に欠かせない存在となっていく斉藤真言(桐山漣) (c)テレビ東京

『復讐―』では、主演の松本とも、たくさん話し合った。ドラマは密が夫に代わって復讐していく話だが、その行為自体、密が、夫を救えなかった自分自身に対する復讐でもあるのでは、と意見が一致した。

「そういった内面的な部分は、明確に表に出るものではありません。でも、内にそういったものを抱えているということは踏まえて演じていきましょう、みたいな話をしました。ミステリアスな印象をブレさせないために、演技、テンションは押さえ気味で、動きも極力なくす。密の衣装もベースは白で、柄物もなし」

 演出では、原作にはないが、夫の優吾と密が、想い想われていたことを象徴するアイテムを取り入れた。

「すでに亡くなっているので、実際の優吾は出て来ないんです。回想でしか登場しない。そういう時に、ただ密がそれを見ているだけで、彼を思っているんだなとわかるものがあったらいいなと」

 目線さえろくに動かさない密の、究極まで削ぎ落とされた佇まいの中にこそ活きる演出だろう。そして、監督が松本の凄さを感じた部分は、その「スイッチ」だ。

「“入る”瞬間が、明らかにわかるんです。普段はすごい気さくでチャーミングな方なんですけど、スイッチが入った時は、目が変わっている。でもそれは、若菜さんが持っている別の面でもあるんですよね。『自分』と『役』のチャンネルを合わせるのが上手だなと思いました」

 余談だが、今作の撮影のあと、『やんごとなき―』の放送があった。はっちゃけた松本の姿に大笑いしたことを明かしながら、監督は「あれを見た後だと、密を演じているのが、同一人物とはとても思えないのでは…」と、松本のチャンネルの幅広さに感嘆する。

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