前の試合で弓達にスタメンを奪われた2年生の山崎壮太が再び4番に座り、3打点を挙げて、聖隷は袋井に9対6と勝利、準々決勝進出を決めた。
準々決勝・三島北戦の日、今度は部長の姿がベンチになかった。次々と不測の事態が襲うなかで、この試合でも山崎が活躍した。初回に3塁打を放ち、5回にはレフトスタンドに本塁打を叩き込んだ。聖隷はこの試合を10対3という、大会を通じて初めてのコールド(8回)で勝利した。
高校生が160キロを記録し、150キロ台の投手も珍しくない時代に、聖隷の投手陣はケガによって登板できない弓達を除き、球速が130キロにも満たない。今久留主は、120キロ台前半の直球と、スライダーを武器とする投手だが、コースを狙いすぎるあまり、どうしても球数が多くなってしまう。そして、走者を背負うと、執拗に、しつこいほどにこれでもかと牽制を放る。
一塁手が一球ごとにサインを送って、緩い牽制、素速い牽制を指示していた。確かに、今久留主の牽制はモーションが速く、走者を牽制する文字通りの意味合いよりも、攻撃的な牽制であり、時折、走者をアウトにして自身を助けていた。上村監督やエースの弓達から叩き込まれているという。球威がないのであれば、他の部分でカバーする。熟練の牽制技術もまた上村野球なのだろう。
ここまで長かった……
一見すると、今久留主は凡庸な投手で、如何ともしがたいテンポの悪さが目立つのだが、勝ち上がっていく様を眺めていると、そんな一面も相手打者の困惑を生んでいるのではないかとさえ思えてしまう。
そうした今久留主の真骨頂といえたのが、準決勝だった。
雨による1日の順延があった準決勝・静清戦は、あらためて雨によるサスペンデッドとなり、7月28日に3回表1死二塁の状況から始まる継続試合に。再開した直後、今久留主が2連打を浴びて1点を許す。
前日、静清の長身エースである久保陸弥はオーバースローとサイドスローを使い分けて聖隷打線を翻弄しようとしていたが、継続試合となったこの日はサイドスローに終始した。聖隷打線には力の入ったオーバースローのボールよりも、横にスライドしていくサイドハンドからの変化球の方が有効だと判断したのだろう。
聖隷は早打ちが目立ち、チャンスというチャンスが作れない。だが、0対1で迎えた5回裏に一打逆転の場面が訪れる。1死から3連打で満塁のチャンスを作ると、4番の山崎を迎えた。ところが、山崎の打った当たりは二塁手の正面へ。4-6-3と渡って、ダブルプレーに。