コラム

パリの暮らしとインテリア[15] 芸術を愛するパリジャンが猫と暮らす、アートと植物いっぱいの70平米アパルトマン

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

フランス・パリの北東19区には、市内最大級の緑地といわれる約25ha(東京ドーム約5.3個分)のビュット・ショーモン公園があります。ナポレオン3世の時代19世紀に造園された公園で、起伏に富んだレイアウトと高台からパリを一望する景観は、今もパリ市民を魅了してやみません。ここから徒歩10分ほどのアパルトマンに、ヨアン・メルロさんはパートナーのティエリーさん、愛猫フォアンと暮らしています。RMN-GP(フランス国立美術館連合)に勤務し、私生活ではアンティーク探しを楽しむヨアンさん。芸術を愛する彼の、個性的な70平米を訪ねました。

連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。

玄関を中庭側につくる! 思いがけない選択肢

「このアパルトマンを購入して10年になります。地上階(日本でいう1階)の35平米と、地下の35平米、合わせて70平米の物件で、もともとはショップでした。それをロフト風に改装し、私たち好みの住まいにつくり替えて暮らしています」
と、緑いっぱいの玄関先で迎えてくれたヨアンさん。

ここは、通りに面した建物の後ろ側にある静かな中庭。集合住宅の共有スペースです。ヨアンさん宅は、住まいそのものは歩道に面した地上階ですが、玄関はいったん建物の中に入った中庭側にある、というアクセスです。なかなか個性的ですね。いったいどうやって見つけた物件なのだろう、と不思議になり聞くと、ティエリーさんが近所のカフェで元オーナーと出会ったことがきっかけなのだそう。まるでフランス映画のシナリオのようですが、思えば30年くらい前までは、部屋探しをしている人に「あそこのカフェで聞いてみるといいよ、あそこの親父はこの界隈のことならなんでも知っているから」と、パリジャンたちは言ったものでした。今では不動産会社をあたるのが一般的になったとはいえ、こんな出会いもまだ健在というのは心温まります。もしかすると、ティエリーさんは、コミュニケーション力のある方なのかもしれません。そしてヨアンさんも、引き寄せる力の持ち主なのかも。

というのも、中庭に配された美しいグリーンのほとんどが、2人が道端で「保護した」ものだからです。

「植木鉢が25個もありますから、みんな『ここの住人はガーデニングが趣味だ』と思うようです。でも実は、ここにある植物の品種すら知らないのですよ。例えば一番大きく成長しているこの木、道端で見つけた時は乾ききって本当に助けが必要な状態でした。それがご覧ください、今では屋根を越えているでしょう。葉が大きくてきれいだね、と、いろんな人から品種を聞かれますが、そんなわけで答えられないのです」

パリの道端には古い家具や食器類が無造作に置いてあったりするものですが、観葉植物は珍しい! 道端で保護したり、友人から分けてもらったり、旅先から持ち帰ったり。そうして集まった名も知らない植物たちを、こんなに元気に育てられるとは驚きます。北向きながらも一日中柔らかい光で満たされた中庭は、カンカン照りにならず、植物にとってちょうどいい環境なのかもしれません。優しげに葉を揺らす植物に迎えられながら、ヨアンさんは玄関のドアを開けました。

物件の個性を活かして改装

「もともとは通りに面したドアが玄関でした。それを塞いで中庭側の元裏口を玄関にしたおかげで、プライベート感がぐっと高まりました。反対に、中庭に面した壁全体に一直線に続く窓をつくり、開放感を出しています。こうしたことで、ショップだった当時のロフト風の雰囲気を、効果的に活かすことができたと思います」

玄関前は、愛猫フォアンのコーナーです。レジのあった一角は、箱のようなキッチンに。ダイニングコーナーに向かって開く窓をつけた、半オープンキッチンです。家の中に窓というのは意外ですが、この窓があるおかげで中庭からの自然光がキッチンの中まで届きます。装飾的な効果と実用性の、両方を兼ね備えた開口、というわけです。

ダイニングコーナーは、石造りの壁が印象的です。これは改装工事中に偶然見つけたオリジナルで、せっかくの持ち味を活かすために専門家に依頼し、漆喰(しっくい)で修復してもらったこだわりの作。

「そもそもの物件がクラシックなアパルトマンではありませんから、あえてこの物件らしいボヘミアンな雰囲気を活かしたい、それをインテリアのテーマにしよう、と思いました。ティエリーはここを初めて訪問したときから、地下へ下りる階段が気に入っていたのですよ」

リビングにニュッと飛び出た階段の柵を、規格外と捉えるか、魅力と認識するか。人それぞれのジャッジの分かれ道であり、物件との相性がものをいう部分だといえそうです。

空間を有効利用して、ものを厳選する

地下の35平米には、ベッドコーナーとドレッシングコーナー、書斎コーナーがあります。やはり地上階と同じで仕切りは設けず、ロフト風のレイアウト。地下なので窓はありませんが、スケルトン階段の開口のおかげで、思いのほか自然光が入ってきます。その階段下を書斎コーナーにしてデスクを置き、スペースを最大限に活用。

「スペースの有効活用という点では、収納家具を使わずにドレッシングコーナーをつくったことも効果的でした。自分の持ち物に合わせて、一番下には靴、その上にTシャツ類、その上にはコートやスーツなどを掛け、さらにその上には帽子という具合に棚を組み、地厚なカーテンで覆っています。収納家具以上の収納力があって、しかも存在が邪魔になりません」

確かに、収納家具の存在感というのは威圧的なもの。それを置かずに、ベージュのカーテンの向こう側全てをドレッシングにする、という選択は、結果として空間全体をスッキリさせ、広く感じさせています。家具はどうしても凹凸がありますが、カーテンはペタリと平面になり、視界の邪魔にならないせいでしょう。

アートを身近に! パリならではのメリット

地上階と地下、元ショップだった70平米を大改装してつくった、ショーモン公園そばのスイートホーム。自分たちのライフスタイルに合った快適な住まいを完成させ、そこに暮らす喜びは、格別に違いありません。ところがそれだけでなく、なんとヨアンさんカップルは、ノルマンディーの海沿いにも一戸建てを所有しています。毎週木曜日から週末をノルマンディーで暮らし、週の始まりをパリで過ごす、行ったり来たりの生活を始めてもう5年とのこと。パリの住まいとノルマンディーとの距離は約200kmで、車や電車で大体2時間半で移動しているそうです。コロナ禍以前からリモートワークがメインだったからこそ、こんな贅沢も可能なわけですが、それならいっそノルマンディーに引越してしまっても良いのでは? この物件なら、いいお値段ですぐに買い手が決まりそうですし……。

「いえいえ、それはできません! ギャラリー巡りをしたり、エキシビションを見たり、そういうパリ暮らしが私には不可欠なのです。先日、興味本位で査定をしてもらったところ、10年前の購入時の5倍ほどの値段がついて驚きました。でもできるだけ、金銭的な必要に迫られない限りこの住まいは売らず、パリとノルマンディーを行き来する生活を続けたいのです。いざとなったら貸すこともできますから」

職業柄、そしてまた趣味や娯楽の面からも、芸術の都パリから切り離された生活は考えられないのでした。でもそれができるなら、それに越したことはありません!
そんなヨアンさんのインテリアは、もちろん、アートがいっぱいです。

ものとの出合いを楽しむ秘訣、実は……?

趣味はアンティーク探し、というヨアンさん。蚤の市を巡るのはもちろんのこと、オークションの「ドルオー」にも足を運びます。

「オークションと聞くとみんな高いものを想像しますが、実はものすごく安いものも出されるのです。この間は80ユーロ(約1万円)のテーブルを買いました。大きくて立派なテーブルなので、ノルマンディーの家で使っています。オークションには本当にいろんなものが出品されるので、細かくチェックするのがコツです」

幼いころから両親に連れられ、競売場(オークションハウス)に出かけていたヨアンさんには、オークションは特別なものではなく数ある買い物の手段の一つ。オークションを利用している人たちが口をそろえていうのは、特に面倒な手続きはないし、何よりも専門家が査定しているので品物や価格に間違いがなく安心、ということ。そう聞くと、一度くらいは体験したくなります。

「アンティーク以外には、友人からプレゼントされたものも多いです。みんな、私が集めているものを知っているので、ドアに貼るマグネットやらオブジェやらをよく贈ってくれます。ものを集めている割には整然としていますか? そうですね、確かにパリの住まいに置くものは厳選しています。そのかわり、ノルマンディーの家は集めたオブジェであふれかえっていますよ!」

パリとノルマンディー、二つの住まいを行き来する生活は、それぞれの良さを享受しながら暮らせるところがいい。ヨアンさんの話を聞きながら、そう思いました。一つの住まいに完璧を求めないで済む分、ストレスが少なく、それぞれの持ち味を冷静に見極めて、それらを十分に楽しめる気がするのです。人やものとの出会いも、そんな心の余裕があってこそでしょう。

多くの人は、二つではなく一つの住まいに暮らしていると思います。自分が暮らしている住まいを、ヨアンさんになった気分で眺めることができたら、別の捉え方ができるかもしれません。不満やあら探しではなく、いいところを認めて、それをもっと謳歌したくなる。そんな気がします。

(文/Keiko Sumino-Leblanc)

●取材協力
ヨアン・メルロさん
インスタグラム
フランス国立美術館工房

(Manabu Matsunaga)

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