「OSO18」が襲ったと見られる牧牛(写真提供/北海道猟友会標茶支部)

「OSO18」が襲ったと見られる牧牛(写真提供/北海道猟友会標茶支部)

返り討ちに遭う危険

 OSO18は、行動範囲が広いことも大きな特徴だ。東京23区の1.6倍ほどの面積を持つ標茶町のほか、隣接する厚岸(あつけし)町でもOSO18によると見られる被害が相次いでいる。

 猟友会厚岸支部の根布谷昌男事務局長は、「オスのヒグマは一晩で40kmほど移動することも珍しくない」としたうえで、こう話す。

「その中でも、OSO18は特別。とにかく人目につかないところを選んで移動している。藪の中だったり、車道の近くでもうまくドライバーから目が届かないところを選んで歩く。過去に痛い目に遭った経験があるからこその行動ではないか」

 OSO18は神出鬼没だ。行動は夜間に限られ、どこに現われるか予想しにくい。「遭遇すれば、銃を持ったハンターでも大きな危険が伴う」と前出・後藤氏がいう。

「ライフルの射程は4kmあるが、クマを仕留めるとなったら100m以内に近寄らねば撃てない。手負いのまま逃してしまうと凶暴なクマを野に放つことになるからです」

 頭を狙っても仕留められるとは限らない。

「眉間に当たればいいが、少しでも逸れると硬い頭蓋骨に阻まれる。だから、狙うのは心臓。ところが命中しても息絶えるまで100mくらい走ることがある。急いで次の弾を撃たねばならず、ハンターも命懸けです」(後藤氏)

 根布谷氏もこういう。

「とくに秋口だとクマは体にたっぷり脂肪を蓄えているから、腹や胸に弾を撃ち込んでもダメージにならない。その下の胸骨もかなり頑丈。仕留めたクマの胸に、たくさんの銃弾が食い込んでいたこともあります」

 ハンターが返り討ちに遭う危険性も高い。

「昔から、クマが出たら鉄砲を持っている人が真っ先に襲われるといわれる。おそらく火薬の匂いがわかるからではないか。クマの嗅覚は想像以上。立ち止まってキョロキョロしているのは匂いを嗅いでいる時で、4km先に鹿の死骸があることまでわかる」(根布谷氏)

 クマの駆除に参加すれば自治体から駆除費が支払われるが、金額はごくわずかだ。現場に駆けつける車のガソリン代や弾薬、銃器の維持費などを考えれば「命懸けだけど完全にボランティア」と根布谷氏は笑う。

(後編に続く)

※週刊ポスト2022年9月2日号

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