コラム

木造でも「火事に負けない」賃貸住宅! 法改正で木造の可能性広がる。地域と住民のハブにも アーブル自由が丘

(写真撮影/片山貴博)

木造建築は、環境負荷の低さや、性能がここ数年で格段に進化していることで注目されているだけでなく、2020年の建築基準法の改正以降、耐火・準耐火に関する基準の見直しや整備により、利用の可能性が広がったこと、2021年の「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称、改正木材利用促進法」によって、木材利用の推進対象が公共建築物から一般建築物に広がり、「高層木造ビル」といった今までには考えられなかった建築物が続々と登場しています。

植物の緑に木のあしらい。まるで昔からあったかのような佇まい

今回は話題の木造建築のなかでも、今年2月に誕生した店舗+集合住宅の複合施設「アーブル自由が丘」(東京都目黒区)を取材しました。地球環境や安全に配慮しながら、その街らしさを色濃く打ち出したこれからの住まいのカタチとは、どのようなものでしょうか。

スイーツや雑貨店などが集まり、おしゃれな街として知られる自由が丘(東京都目黒区)。「アーブル自由が丘」は、自由が丘駅から徒歩5分の場所に、今年2月に誕生した複合施設です。1階には自家焙煎のスペシャルティコーヒーショップ「ONIBUS COFFEE(オニバスコーヒー)」、ワインのセレクトショップ(角打ちも可!)「VIRTUS(ウィルトス)」、ごま油でおなじみの「かどや製油」による初のカフェ「goma to(ごまと)」のテナント、2階と3階はTECH人材向けのコミュニティ型賃貸住宅「TECH RESIDENCE JIYUGAOKA(テックレジデンス自由が丘)」(全22室)、さらにオーナーがお住まいの2住戸から構成されています。

1階のテナントが設けているテラス席では、植物の緑がつくる心地よい木陰で、ご近所の人たちが思い思いに過ごしています。その風景はあまりにもなじんでいるため、ずっと前からあったかのような佇まいです。

「アーブル自由が丘」があるのは、準防火地域(市街地における火災の危険を防ぐために定められる地域)。敷地に対して最大限のボリュームを確保するため、1時間耐火建築物(※)とし、さらに1階は鉄骨造、2~3階は木造という「混構造」にしています。火災にも強い、今、大注目の木造建築物というわけですが、ここに至るまでの道のりは平坦ではありませんでした。話の始まりは、なんと10年前、2012年~13年ごろになるといいます。

※耐火建築物……建物の主要構造部(柱・梁・床・耐力壁など)が耐火構造または所定の性能を満たし、延焼のおそれのある部分に設けられた開口部には、防火設備(防火サッシやシャッター)が用いられたもの

木造で自由が丘らしい建物を目指し、10年かけてコンセプトを詰めていく

「もともと材木商を営んでいたオーナーのご家族から、『実家を建て替えたいので、相談にのってほしい』ともちかけられたのがきっかけです。そのころ、私は世田谷区下馬で、5階建の木造集合住宅を手掛けていたのですが、できたら木造で建て替えられないかというお話からスタートしました」と話すのは、設計を手掛けた内海彩建築設計事務所の内海彩さん。

もともとは、お隣も合わせた約2倍の広さの土地(借地)に4棟のアパートやご自宅がありました。ちょうど商業地域と住宅地の境目にあり、都市計画道路予定地(※2)でもあります。

完成した現在の敷地はL字型になっていますが、建て替えの話がもちあがったときは、どの範囲が敷地になるのか決まっておらず、敷地面積や建物の床面積・用途に応じてチェックするべき都や区の条例が異なるので、さまざまなケーススタディを繰り返したそう。それにしても、今でこそゼネコン各社を含めて木造高層建築に注力していますが、依頼者から希望はあったとはいえ、なぜ当時はまだハードルが高かった“木造”を想定していたのでしょう。

※2 都市計画道路予定地……都市計画法に基づいて計画された道路が予定されている地。計画であり決定ではないため、土地の売買や建築は可能だが建築物の構造や高さ、階数などに制限がある

「オーナーさんが元木材屋さんということで、木造建築物への関心が高かったこともあり、クリアしなければいけない課題は多くあったものの、『木造でいけたらいいね』という方向性は一貫していました。木造ならではの温かみ、風景との調和など木の持つ良さ、価値を共有できていたんだと思います。一方で、従来の『裸木造』(防耐火性能のない木造のこと)のイメージも強く、耐震性などへの不安もおありのようでしたので、CLT(繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料)といった最新の木質材料もご紹介し、これからの時代にふさわしい耐震耐火性能を備えた『都市木造』を目指すことにしたのです」(内海さん)

もともと、内海さんが木造建築に注目したのは2000年前後。建築士として独立した直後で時間もあり、勉強会に参加して、「鉄筋コンクリート造や鉄骨造ばかりの都市に『木造』という選択肢をつくれたらおもしろそう」と夢を思い描いていました。ただ、「世間的には木造というと2~3階建ての一戸建てがイメージされてしまうもの。中高層の木造集合住宅といっても理解されずに、聞きかえされることもしばしばでした」

そんななか、2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称、木材利用促進法)」ができて、国交省の「木のまち整備促進事業(現・サステナブル建築物等先導事業)」に採択されたことが大きな追い風となり、2013年、世田谷区下馬に5階建の耐火木造集合住宅が完成しました。設計プランとしては注目されていたものの、竣工したことにより、「『本当にできるんだ……!』と多くの方が関心を寄せてくださったんです」と内海さん。

今回の「アーブル自由が丘」はすべて民間で開発・実現しました。都市計画道路予定地のため、高さ制限や構造制限があり、また、1階は当初より店舗として貸すことが決まっていたため、区画内に柱や壁をつくらず、できるだけ天井高を確保できるよう鉄骨造に。住空間である2・3階を木造とすることにしました。どこにでもある店舗ではなく、暮らしや食に豊かさを感じられるような「自由が丘らしい建物にしたい」というオーナーさんの思いを汲んでテナント募集が進められました。

「コンビニやファミレスへの1店鋪貸しではなく、小ぶりでもセンスの良い、ちょっと入ってみたくなるようなカフェやベーカリー、ギャラリーやフラワーショップなどが並ぶすてきな街並みをつくりたい、というお考えでした。もともと自由が丘に長くお住まいなので、いい街にしたい、この街にふさわしいものをという想いがおありだったんです」(内海さん)

共用ホールにテナント。住民の居場所が複数ある構造に

こうして「木造建築物」「自由が丘らしい」などのコンセプトが固まってきた一方、シェアスペースがあったらいいという話もでてきました。

「この街にふさわしいものを、という話の中で、シェアオフィスもいいねという案が出てきました。単なるワンルームマンションではなく、暮らす人たちが交流・休憩・触発されるような共用空間があったなら……。
シェアオフィス単体で成立させるのは事業計画上難しそうだったのですが、そんな中、テナント募集を進めていた東急さんより、賃貸住宅部分の運営会社としてCEスペースさんのご紹介がありました。CEスペースさんは、IT人材専用コミュニティ型住宅『テックレジデンス』を都内数カ所で運営されています。そのノウハウもプランニングに盛り込み、2・3階を『TECH RESIDENCE JIYUGAOKA(テックレジデンス自由が丘)』として、IT系エンジニアに入居してもらうことになりました。
もともとワンルームだけではなく、2LDK、3LDKと混在させる計画でしたが、これらをシェアタイプの賃貸住戸として利用できるよう調整しました。状況が変われば、シェアハウスの3DKを2LDKに改修できるよう考慮しています。

目黒区の『自由が丘街並み形成委員会』との事前協議でもこの建物の話をしたところ、応援していただきました。自由が丘は、これから駅前を中心に再開発が進みます。そんな未来の自由が丘に才能ある若いIT系エンジニアが集まり、新しい価値観を発信していく、ということに大きな期待があるようでした」(内海さん)

こうして、ワンルーム住戸5室とシェアタイプ住戸内の個室17室、共用ホールという構成が決まり、さらに細部のプランを詰めていき、ついに着工。途中、ウッドショックの荒波に揉まれつつも、1年の工期をかけて完成しました。

入居が始まって約半年が経過した今、共用ホールに至る廊下にはさり気なくオーナーが選んだアートが飾られているほか、トップライトから日光が降り注いだり、木のぬくもりがあったりと、職業はデジタルな「ITエンジニアの住まい」でありつつも、どことなく「アートな香り」「あたたかさ」などアナログの良さを感じられる住まいとなっています。

吹き抜けの共用ホールは、住民のみが利用できる場所です。ここで仕事をしてもいいですし、気が向いたときは1階のカフェやワインバーも利用できます。自分だけの水まわりがあるワンルームタイプと、キッチン、バス、トイレを3~4名で共用する3~4DKのシェアタイプが混在するので、自分にあった住まい方、暮らし方ができるのもいいですね。家賃は9万4000円~12万6000円。自由が丘駅徒歩数分、共用スペースがあるので感覚的な“広さ”は十分。住む、働くが一体化していることを考えると、納得なのではないでしょうか。

「1階カフェと連携したサブスクリプションサービスが提供されているので、自分がコーヒーを飲むだけでなく、仕事の打ち合わせ、友達とのおしゃべりにも活用できますよね。仕事の打ち合わせでも、共用スペースや1階のカフェ、レストランなどを”自分のテリトリー”として利用できると、人を呼びやすいだろうなと思います。そこからどこかに出かけてもよいし、そういうときに魅力的なスポットがあちこちにある『自由が丘』という地の利もより活かせると思います」と内海さん。

注目されている木造耐火建築、その街らしいテナント、シェアタイプの住戸と、通常の開発よりも手間と時間をかけて完成した「アーブル自由が丘」。それを実現したのは、オーナーさんと建築家さんの「よい街にしたい」「木とともに心地よく暮らしてほしい」という強い思いでした。

「シェアハウスとワンルームの混在」「共用スペース」「一階に店舗がある」「入居者がITエンジニア限定」「木造」など、この物件の魅力の感じ方は人それぞれでしょう。ただ、暮らしの多様性、生き方や地域への関わり方が増えていることは確かです。成熟した街・自由が丘に、今までにない木造の建物ができ、若い世代/才能がともに暮らす。街をよりすてき・魅力的にするような、そんな化学反応が起きるのではないでしょうか。

●取材協力
内海彩建築設計事務所 内海彩さん

(嘉屋 恭子)

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