2002年、ソニー(SONY)のミニディスク(MD)デスクトップオーディオシステム・サウンドゲート「LAM-Z10」(時事通信フォト)

2002年、ソニー(SONY)のミニディスク(MD)デスクトップオーディオシステム・サウンドゲート「LAM-Z10」(時事通信フォト)

 当初から抱えていた技術的なCDやDVDの弱点は本旨ではないため言及しないが、確かにアナログレコードに比べれば、という面があるのは筆者もわかる。レコードプレーヤーは大切に維持しているしこれからも、とは思うが、DVDプレーヤーやCDプレーヤーは「まあ、潰れたら次は適当なのでいいかな」という感覚である。マニア度の濃いレコードは一部とはいえ逆に残った。さらにごく一部とはいえ、DJ機器に重宝されたのも幸いだった。

「MDがまさにそれだったでしょ、うちでもMDソフトは買い取らないとは言いませんが二束三文ですよ。MDプレーヤーもまあ、完動品で中級機から上なら考えなくもないですが、オークション見てもそのクラスが1000円、2000円とかですからね。そもそも、いまの子だとMD知らないですよね」

 筆者もまさしくその中級クラスのMDプレーヤーを持っている。持っているというだけで、そもそも再生するディスクすらない。取材の録音が大半だったとはいえ、ずいぶん前にみな処分してしまった。

 拙筆『好きなものに囲まれて逝った40代オタク男は「孤独死」だったのか』でも、こうした古の映像メディアについて言及したが、「永遠に記録される媒体」として売り出されたCDやDVDといった光学メディアにもレーザーディスク同様、永遠なんか無かった。例えば、いまはそれなりに値のつくDVDボックスもこの道を辿るのか。

「まあ、そうなる前に売っちゃったほうがいいですよ。円盤、本当に終わりますから。私のように長く買い取り業者やってきた身だからこその忠告です。儲けたいから言ってるわけじゃないですよ、あんなもの、全然儲かりませんから、本当に親切心ですよ。私だってレーザーディスクで散々な目に遭ったんですから」

 そう言って苦笑する。筆者も苦笑するしかない。自宅には映画、アニメを中心に数千枚以上の「円盤」がある。言い方は難しいが、配信サービスでいつでも観られる上に本格的なオーディオシステムで構えて視聴するほどでもない作品は、さすがに円盤で手元に置くほどでないように思う。多くの方々もそうした事情も含めて円盤を買わなくなったからこそ、大手セルショップやレンタルショップは業態の変化を強いられ、円盤の売れ行きは以前に増して「爆死」なのだろう。

「ビデオだってそうだったでしょう。マニアすら、ビデオでしか出てない作品以外は処分した人が大半だったはずです」

 ビデオデッキは昨年、ついに処分してしまった。思い出の数本だけとっておいたが、もうデッキを買い直してまで再生することはあるまい。思えば昭和、1980年代にVHS『風の谷のナウシカ』を親の仕事の手伝いをして買った。妹が欲しがったのでVHS『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』も買った。いずれも1万円以上したが、もはや物質としての価値はない。新星堂のガラスケースに飾られたその作品をやっと手に入れ、繰り返し同じ作品を観た兄妹の思い出だけだ。

「懐かしいですね。日本も豊かだったし、豊かでなくても何とかなるって思えた。その象徴だったメディアが次々に消えるって、私だって寂しいのが本音ですよ。CDを初めて買ったときなんかキラキラ光ってて嬉しくて、大滝詠一とかボズ・スキャッグスとか、大事にケースの中に別売りのクッション(CD保護マット)まで入れて傷から守ったりね、もうそういう時代じゃないんでしょうね」

 文中、円盤についていろいろ厳しいやり取りとなってしまったが、残るはそうしたノスタルジーでしかないのだろう。筆者も購入者としてだけでなく、のちにメディア側で多くの円盤、とくにアニメDVDを手掛けてきただけに寂しい気持ちもある。

 いよいよその円盤がインターネットによって消えようとしている。これまでも2000年代から似たような言説が唱えられては消えたが、今回は数字上も本当(とくにDVD)なのだろう。もちろんCDなら数十万枚を売り上げるアーティストはいまもあるが、円盤で回収できなくなったアーティストから徐々にネット配信のみ、サブスク前提のなどの発表形態にシフトして行くのだろう。なんだかんだ、日本語圏のみに限れば円盤のほうが大きな売り上げの見込めるのが実態だ。川本真琴さんのサブスクを巡る意見もそうだったが、とくに90年代の円盤黄金時代を知る人にとっては円盤とDL(ダウンロード)の収益は桁が違う。だからこそいまもレーベル側は特典のコストをかけてもなるべく円盤で売ろうとする。しかしそれも限界の時が来たようだ。

 時代の流れといえばそれまでだが、個人の価値観はそれぞれとはいえ、かつてのビデオソフトやレーザーディスクと同様、思い出だけを残して売れるうちに売る、というのが賢明なのかもしれない。もちろん世代によっては「円盤の山とともに死す」もありだろう。かつて世界でも珍しく円盤がちゃんと売れる「円盤大国」だった日本、その良きこの国のガラパゴスもまた、世界的な動画配信サービスとサブスクの波に終わろうとしている。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

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