独特の譜割りが中島みゆきらしさ
中島みゆき(時事通信フォト)
「中島みゆきファンで好きな歌はたくさんありますが『糸』の歌詞が最も心に沁みます」(66歳・会社員)というのは、中島みゆきの『糸』だ。
音楽評論家の小倉エージ氏(76歳)が解説する。
「糸偏のついた漢字に『縁』や『絆』があります。いずれも人のつながりを意味するもの。それを集約してテーマにしたのが『糸』です。赤い糸で単に結ばれるというより、縦糸と横糸が合わさって仕合わせになるという人の絆が、親しみあるメロディに乗せて描かれています。
東日本大震災の時に多くリクエストされた曲の一つというのも頷けます。よく聴くと、サビに入る前に中島さんはブレスしていません。その前の歌詞からひと息につなげて歌っています。こうした独特の譜割りと息継ぎが中島みゆきらしさなんです」
音楽評論家の小倉エージ氏
北国の怨念のような世界に驚いた
石川さゆり(写真/女性セブン)
「20年ほど前に単身赴任した時、津軽海峡を見に行きました。 歌詞のイメージのままだったので、深く心に残りました」(66歳・会社員)、「歌詞がとても素晴らしいなと思います」(53歳・会社員)という声が聞かれたのは、石川さゆりの『津軽海峡・冬景色』だ。
作家の三田完氏(66歳)が語る。
「『津軽海峡・冬景色』は、カラオケ黎明期の歌です。当時、大学4年だった私は、スナックの8トラックのカラオケでよく歌っていました。私にとって石川さゆりさんは演歌歌手のイメージはなく、ハンチングをかぶってテレビに出ている、桜田淳子さんと同じ路線の歌手でした。
それが、突然、金切り声で北国の怨念みたいな世界を歌ったので驚きました。後年、阿久さんが怨念を詞にしたのではないと知りましたが、当時の私にとっては北の怨念でした。ですから、寺山修司の芝居みたいな感覚で唄っていました」
作家の三田完氏
【プロフィール】
山本譲二(やまもと・じょうじ)/1950年生まれ、山口県出身。『みちのくひとり旅』などヒット曲多数。新曲『睡蓮』、初のエッセイ『いつか倖せ来るじゃないか 大腸がんと乳がんをふたりで乗り越えて』(KADOKAWA)発売中。
スージー鈴木(すーじー・すずき)/1966年生まれ、大阪府出身。昭和歌謡から最新曲まで幅広く評論。『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)など著書多数。近著に『桑田佳祐論』(新潮新書)がある。
小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年生まれ、兵庫県出身。レコード会社勤務や音楽雑誌創刊などを経て、音楽評論活動を開始。洋邦問わず幅広い音楽に精通する。著書に『ニュー・フォークの世界』(主婦と生活社)などがある。
三田完(みた・かん)/1956年生まれ、埼玉県出身。慶應義塾大学を卒業後、NHKに入局。歌謡番組の制作に携わる。退職後、作詞家・阿久悠のブレーンとして活動。00年に作家デビュー。著書にオール讀物新人賞受賞作『櫻川イワンの恋』などがある。
※週刊ポスト2022年11月18・25日号