しかし、東京の臨海部は大規模開発がいまだに進行中で、タワーマンションも次々と姿を現している。タワーマンションが一棟竣工すると、人口が一気に500人増えることは珍しくない。タワーマンション乱立により、臨海部は通勤・通学者数が急増している。東京都が臨海部で公共交通の整備に力を入れるのは、そうしたタワマン住民のラッシュ対策という面が少なからずある。
「臨海部は今後も引き続き発展が見込まれるエリアです。そうした理由もあり、東京都は臨海地下鉄が開業しても東京BRTの利用者が減ると想定していません。東京BRTと東京臨海地下鉄は、棲み分けができると考えています。東京臨海地下鉄が開業した後も、引き続き東京BRTを運行する予定で整備計画を進めています」(同)
2040年までに計5者が運行する未来の東京臨海部
臨海部には、東京BRTと臨海地下鉄のほか、東京臨海高速鉄道りんかい線(りんかい線)やゆりかもめ東京臨海新交通臨海線(ゆりかもめ)といった2つの鉄道路線がある。りんかい線とゆりかもめは、東京BRTと臨海地下鉄の動線として重複していないので一見すると棲み分けは可能のようにも思えるが、例えば東京BRTとゆりかもめは、新橋と東京ビッグサイト間で競合する。
また、臨海部には都営バスが複数の路線を有し、運転本数も多い。都営バスには東京駅と東京ビッグサイトを結ぶ路線があるから、これも臨海地下鉄と競合関係になる。
これらの競合が激化して乗客を奪い合うことになれば、採算を悪化させる鉄道路線も出てくるだろう。路線数が増えて便利になると思いきや、運転本数が減って使い勝手が悪くなるという事態が起きるかもしれない。
東京の臨海部と一口に言っても、その範囲は漠然としている。当初、東京都が開発に傾注したのはレジャースポットが多く立地するお台場一帯で、ここは13号地と呼ばれる。2000年前後、お台場を中心に13号地全体が熱狂に包まれ、週末になると若者や家族連れでにぎわった。
現在、13号地の熱狂は落ち着き、近年は来街者数が減少傾向にある。もっとも来街者数の減少は、新型コロナウイルスに起因するところも大きいから、回復することは十分に考えられる。
来街者のほかにも、オフィスワーカーや住民が公共交通を使うが、13号地の就業人口と居住人口はここ数年で頭打ちになりつつある。就業人口と居住人口が伸び悩んでいることは、臨海部の魅力が薄れていることを意味している。そして、13号地の就業人口・居住人口が伸び悩めば、当然ながら公共交通の需要も下がる。
これは東京都にとって、想定外の事態だったに違いない。他方で、同じ臨海部でも東京駅や銀座に近い勝どき・晴海・豊洲は依然として開発が続き、人口も増加傾向にある。
臨海地下鉄や東京BRTは東京都の期待に応えて臨海部、特に13号地に再び熱狂を生み出すことはできるのか? それとも利用者の奪い合いになってしまうのか? 臨海部の趨勢は、今後の開発と発展にかかっている。