四文字熟語からやまと言葉まで褒め言葉の貯金を増やそう──齋藤孝氏の『上手にほめる技術』
そろそろ梅雨どきに差し掛かってきて、ジメジメし始めるころ。こんなときは部屋の中で読書でもしてゆっくり過ごすのもいいのでは？ おすすめの新刊4冊を紹介する。
『上手にほめる技術』／齋藤孝／角川新書／1012円
昔「海千山千のライター」と言われてギョッとしたことが。でも相手は褒めてる感じ。なので勝手に「百戦錬磨」と変換した。気持ちよくなる褒め言葉、下さいな。「神韻縹渺」「面壁九年」など知らない四文字熟語は使いこなすまで時間がかかりそうだけれど「水際立つ」や「たおやか」「小気味好い｣などのやまと言葉はすぐ使えそう。分断の時代だからこそ、褒め言葉を潤滑油にしよう。
『カンヴァスの恋人たち』／一色さゆり／小学館／1870円
結婚や転職に揺れる女性学芸員に80才の女性画家が伝えたもの（『カンヴァスの恋人たち』／一色さゆり／小学館）
小都市の美術館で学芸員として働くアラサーの貴山史絵は、山奥でひっそりと絵を描く80才のヨシダカヲルを特集する個展の担当者になる。転職や結婚など史絵自身が直面する女の難問がヨシダとの交流で温かく解きほぐされる一方、謎めいた経歴のヨシダの全貌が解き明かされる純愛小説でも。小説内には世代を超えた女性達の声が響く。どの声にも今を生きるリアルを感じる。
『テムズとともに──英国の二年間』／徳仁親王／紀伊國屋書店／1100円
友と語らい、テニスに興じ、18世紀テムズ川の水運を研究した青春（『テムズとともに──英国の二年間』／徳仁親王／紀伊國屋書店）
青葉の瑞々しさ。オックスフォード大学で学んだ1983年からの2年4カ月を綴る。思わぬ所にユーモアが。巨大レバーが供された時の動転、日本人女性に｢ウッソー！｣と叫ばれた時の戸惑い、初洗濯に初銀行。雲上人への忖度は礼を失する行為だが、今上天皇にこんな『ローマの休日』があったと想うと胸がキュンと鳴る。30年を経ての復刊。留学記は青春譜との思いを新たにする。
『パリの砂漠、東京の蜃気楼』／金原ひとみ／集英社文庫／660円
文学賞は総なめにしていても、エッセイ集はこれが初めて（『パリの砂漠、東京の蜃気楼』／金原ひとみ／集英社文庫）
薄手でも読み応えたっぷり。前半で6年のパリ暮らしを描き、後半で突然帰国を決めた東京暮らしを描く。帰国の動機は体がパリを拒み始めたこと。決壊した感情は元に戻らない。帰国は「地獄からの脱出で､新たな地獄への旅立ち」と書くあたりも“世界の凶暴さ”に怯え続けてきた著者らしい感受性だ。長女と次女の存在が明るい。金原ひとみという女性に最も近づけた気がする。
文／温水ゆかり
※女性セブン2023年6月8日号
