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【新刊】残暑の納涼ホラーと思ったら大間違い!廃墟が舞台となる背筋氏の新刊『穢れた聖地巡礼について』など4冊

山奥の変態小屋、廃病院や廃墟のラブホ。冒頭の“それらしき写真”がめっちゃブキミ

山奥の変態小屋、廃病院や廃墟のラブホ。冒頭の“それらしき写真”がめっちゃブキミ

 日中の最高気温が30度を下回り、さすがに秋の風を感じられるようになった。やっとのことで「読書の秋」を楽しめそうなこの時期におすすめしたい、新刊を紹介する。

『穢れた聖地巡礼について』/背筋/KADOKAWA/1430円
 心霊スポット突撃系ユーチューバー池田のファンブックを企画したフリー編集者の小林。煮詰めた内容にすべく、有名神社の娘で霊が見える宝条を仲間に加え、3人でそれらしき怪異考察を練り上げる。残暑の納涼ホラーと思ったら大間違い。菌床で野心や保身、欲や恨などが繁殖するような粘っこさがある。三者三様の訳あり過去を書いた中盤の「愚かな三人」が全体を引き締める。

母は作家、娘達は姉妹ユニットの漫画家。実素材を基に紡ぐ創作&幸福論(猫も参加)

母は作家、娘達は姉妹ユニットの漫画家。実素材を基に紡ぐ創作&幸福論(猫も参加)

『赤パンラプソディ』/桐衣朝子/小学館/1980円
 古都子は57歳で文学賞を受賞するも、2作目を出せないでいる還暦作家。10年以上家庭を放置した夫とは家庭内別居の関係だが、姉妹で漫画を描いている娘達とは仲がいい。本書の特徴は、漫画や小説が生まれる創作の現場を見せてくれること。かつ、一緒にご飯を食べ、笑ったりケンカしたりする日々を「宝石のよう」とするシン・幸福論でも。かけがえのない日々が愛おしい。

「我々はみなどこからか来て」「どこかへ 過ぎゆく途中なのだ」(収録のエッセイより)

「我々はみなどこからか来て」「どこかへ 過ぎゆく途中なのだ」(収録のエッセイより)

『夜明けを待つ』/佐々涼子/集英社インターナショナル/1980円
 佐々さんの人生や仕事を見晴るかすような本書は、エッセイとルポルタージュの2章構成。前者で佐々さんが20代前半で2児の母親になったことや、22kgのダイエット成功譚、御母堂の10年闘病を御尊父が支えたことなどを知り、後者で作家としての姿勢と実力を改めて思い知る。この9月1日逝去、享年56。生と死を書き続けた方がさらりと別れを告げた「あとがき」に胸が泡立つ。

戦後、香川でうどん屋を始めた祖父。湯気の向こうに祖父の真実が浮かび上がる

戦後、香川でうどん屋を始めた祖父。湯気の向こうに祖父の真実が浮かび上がる

『タラント』/角田光代/中公文庫/946円
 タラントとは才能のこと。主人公のみのりは大学時代に海外ボランティアもしたが、夫と二人の今、どこか自信なげに暮らす。そんなみのりの現在と並行するのが、ある男性の戦争体験だ。やがてそれは戦争で左脚を失った香川の祖父のことだと分かるのだが……。個人的にカクタミツヨの戦争シリーズと呼んでいる開幕作(2作目は『方舟を燃やす』)。祖父の長い旅路に感極まる。

文/温水ゆかり

※女性セブン2024年10月10日号

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