外から敷地内を歩く女性を撮影した映像があった(写真提供/イメージマート)
根拠のない噂やデマによって経済的・社会的被害を受けることを「風評被害」と呼ぶ。それが社会的評価を低下させるものだとして法的に風評を否定させ償わせることはできても、いったん広まったことを訂正、変更させるのは困難だ。ライターの宮添優氏が、成人向け動画への「なりすまし大学生」が出演が広げた被害についてレポートする。
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「ある日突然、一般の方数名からメールや電話で”本学の生徒がアダルトビデオに出演している”などといったご連絡をいただきました。情報を元に確認をしましたが、本学にはそのような学生はいなかったのです。しかし、SNS等にはすでに、本学の学生が出演している、といった書き込みもございました」
鎮痛な面持ちで取材に答えたのは、首都圏にある私立X大学の職員だ。職員が見せてくれたのはそのビデオの一部で、ネットなどで販売されているというが、モザイク処理などの施されていない、日本国内では制作や販売が禁じられている違法なものであった。
大手の作品にも”なりすまし”っぽいものがある
問題の映像は、X大学の近くの駅から歩く女性へのインタビューから始まっていた。出演女性は「近くの大学に通う」などと話し、大学敷地内をその女性が歩く様子を遠くから撮影したものも使われている。女性は決して「X大学に通っている」とは言わないが、映っている場所を調べればすぐに「X大学」であることはわかるため、制作者が意図的に「X大学の学生」を想起させるようにしていることは明らかだ。女性がこの大学の関係者ではなく、撮影目的で無断で立ち入っていた場合には、何らかの罪に問われる可能性だってあるだろう。さらに、本物そっくりの学生証が何度も映し出され、そこには確かに「X大学」と記載されていたのである。
だが前述のように、出演女性が名乗る氏名の学生は在籍していない。学生証はよく出来たコピー、偽物の可能性が極めて高い。そして、女性が語る内容などがフィクションだという説明は一切、映像には出てこない。見る人にX大学の女子学生だと思い込ませるこのやり方は、悪質な「なりすまし」と言えるだろう。
視聴者の間違った認識を誘う手法そのものは、長年、業界で横行してきたもので目新しくはないという。かつて、大手制作会社に所属し、数百本にのぼる作品の制作に携わってきた元アダルトビデオ監督の男性が振り返る。
「”なりすまし”とまではいいませんが、出演女性が有名企業に勤務しているとか、有名大学の学生だという”設定”で撮影することはよくありました。しかし、あからさまに実在する企業名や学校名を出したり、実際の企業や大学の私有地内で撮影するなどはしません、逮捕されますから」(元アダルトビデオ監督の男性)