「入れちゃったことについては争う余地がないでしょう」
私は、沖縄県警に電話をかけ、強行犯係の刑事を呼び出した。仮に、水田刑事としておこう。こちらが弁護士であれば、基本的にはどの警察署であろうと、呼び出された刑事は受話器を取る。
「水田です」
こちらも正面から、グラディアトル法律事務所の若林だと名乗り、キャリア官僚の弁護人になったことを告げる。
「先生、(依頼者の主張は)否認ですか?」
刑事が仕掛けてきた。
「依頼者の話を聞くかぎり、強制性は感じられないです」
私は的をズラして返した。
「性器を入れちゃったことについては争う余地がないでしょう」
また直球だが、その手には乗らない。
「被害届は強制性交ですか?」
「強制性交致傷ですね。診断書も出ています」
どうも引っ掛かる。女性と店の手際がよすぎるし、何より水田刑事が一方的だ。任意の聞き取りを行うための連絡ならまだしも「被害届が出されたら、我々警察も動かざるを得ない。穏便に済ませたいなら、店に連絡しなさい」とは、いったいどういう了見なのか。喉ぼとけのあたりまで出かかった苛立ちを呑み込み、こちらも変化球を投げる。
「実は、被害を訴えている女性のユウさんですが、以前にも同意に基づかない性交を強要されたと主張なさって、うちの依頼者と示談しているんです」
「今回もお店に連絡して、しかるべき手を打ってはどうですか」
依頼者から「穏便に……」と指示されているので派手には戦えないが、この水田刑事の態度はあまりにも不自然である。というより、店側の誰かと裏で手を握っているとしか思えない。
「私の依頼者以外にも、ユウさんとお店から同様の訴えが出ていると、小耳に挟んだのですが」
「他に訴えや届があるかどうかは言えないですねえ。現場検証はもう終えましたよ」
こちらの牽制を気にする素振りもない。「現場検証を終えた」ということは、被害届はすでに受理され、捜査も始まっているということだ。
「こちらとしては、暴行や脅迫はなく、あくまで同意のもとに性行為をしたと考えておりますので、そのあたりは慎重な捜査をお願いします」
ひとまずは、そう伝えて電話を切った。状況はなかなか厳しい。美人局が疑わしいような風俗トラブルで、ここまでスムーズに警察が動いているとは──。