アメリカ製の日本の古地図に星条旗と人々を描いた作品。黒田さんは「これが僕のアメリカ観」と話す
伝えなければ、根腐れしてしまう
野坂氏が一編の原稿を黒田さんに渡したのは、『戦争童話集』の刊行から30年が過ぎようとしていた頃のことだった。ちょうど沖縄に滞在していた黒田さんが受け取った原稿は、『ウミガメと少年』と題されていた。この作品は2001年、『戦争童話集』の沖縄編として絵本となった。
門司港の「描き場」で黒田さんは戦争の記憶を話しながら、ふと「僕は自然が好きなんです」と言った。
「川や魚や虫を観察していた子供時代が、今もずっと続いているような気がする。命って全部がつながっているって思う。虫も、魚も、人間も、命をもらって生きている。その命を、勝手に奪うのが戦争なんですよ」
野坂氏は『戦争童話集』について、あるときこう話していたという。
「伝えなければ、根腐れしてしまう、と野坂さんは言っていました。そうして出来上がった『戦争童話集』という絵本は、もう野坂さんのものでも僕のものでもない。『戦争』の記憶を伝えるみんなのものだと僕は思っています」
【プロフィール】
黒田征太郎(くろだ・せいたろう)/1939年、大阪府生まれ。画家、イラストレーター。1969年にデザイナーの長友啓典氏とともにデザイン会社「K2」を設立。1990年代から2000年代にはニューヨークに拠点を構え、国内外で活躍。2004年、発起人のひとりとして、アートによって核廃絶を訴える「PIKADON プロジェクト」をスタート。2009年から北九州市・門司港のアトリエで活動。
取材・文/稲泉 連 撮影/太田真三
※週刊ポスト2025年7月11日号