デビューした頃は5年先すらわからなかった
「こうふくろう」の一員となり、連絡が取れなくなった娘の行方を捜す新見は、元バーテンダーという設定で、事件の展開に、この設定が効いてくる。
薬丸さん自身、その昔、バーテンダーの仕事をしていた時期があるという。
「もう30年以上前ですけど、バーテンダーを目指していて、実際に働いたこともあります。いまも飲食関係の友だちは多いので、コロナの時は、いろんな話を聞かされました。『お昼だけコーヒーを出してはどうか』みたいな相談をされているときに、『これだけ時短営業、営業自粛してたら窃盗とかできちゃうよね』って作家の悪知恵が思い浮かんだんです」
どこに小説のヒントがあるかわからない。
『こうふくろう』は、家族をめぐる小説でもある。登場人物の家族は全部違っているが、まるで何かひとつの型があるかのように、小説の若い人たちは、そこから外れた自分の家族のありかたに苦しむ。
「意識的に家族を描こう、と思っているわけではないんですが、確かにぼくの小説は、家族をテーマにしていると言われることが多いです。たぶんそれは、家族が人間関係の一番核になっているとぼくが感じているからで、犯罪の事件報道を見ても、加害者・被害者と同じかそれ以上に、その人の家族のことを考えてしまいますから」
今年、作家生活20年を迎えた。
「振り返ってみて、あっという間でしたね。デビューした頃は5年先すらわからなかったけど、歴代の担当編集者をはじめ、先輩や同世代の作家、読者のみなさんにも、周りの人にすごく恵まれた20年だったと思います」
【プロフィール】
薬丸岳(やくまる・がく)/1969年兵庫県生まれ。2005年に『天使のナイフ』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年に『Aではない君と』で吉川英治文学新人賞、2017年に「黄昏」で日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。『友罪』『悪党』『死命』『刑事のまなざし』など映像化作品も多数。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2025年7月24日号