「あいつら、歌舞伎町から飛んだよ」
フクちゃんの動きは速かった。1週間ほどで隠されたプレイヤーであった佐藤かよ子の存在にたどりつき、それだけでなく、彼女を口説いて味方に引き入れたのだ。
「まあ、単に金の話だけどね」
お礼に渡した高価な紙巻き煙草のブラック・ロシアンをふかしながら、フクちゃんはニヤッと笑った。佐藤は、小栗さんの父親の定期預金を解約して400万円を詐取した女だが、平山と美咲からは、もっと多額の謝礼を約束されていたらしい。しかし2人は約束を守らず、のらりくらりと催促から逃げ回っていた。
「あいつら、歌舞伎町から飛んだよ」
この1週間、小栗さんが店に顔を出さなかったことで、平山と美咲は異変を察知したのか。素知らぬふりで連絡した佐藤のメッセージにも返信がこなくなった。しかし、フクちゃんは佐藤を弁護士役の国本に接触させて、2人の居場所を突き止めた。平山と美咲は、大阪に豪奢な部屋を借りていた。
私は、新宿警察署の署長宛てに告訴状を提出した。そこには、2人の潜伏先の住所もしっかり記載する。
告訴状が受理されると、あとはすべて狙い通りに進んだ。告訴の事実を知った平山と美咲は激しく動揺し、直後に接触した私の示談書にサイン。小栗さんに9000万円を支払った。小栗さんからさっそく「歌舞伎町で1杯やりましょう」と言われたので、私の友人たちの店を紹介しつつ遊んだ。彼らなら、小栗さんを騙すことはしないだろう。
残念ながら記事にできなかったフクちゃんには、お礼としてさる大物を紹介したのだが、ここには書けない。
(了。第1回から読む)