初監督作『五十年目の俺たちの旅』が2026年1月9日公開予定(C)「五十年目の俺たちの旅」製作委員会
「自由に生きよう」という非常識さ
そして今年、彼は思いもよらぬ貴重な経験をした。『五十年目の俺たちの旅』の監督である。
「『俺たちの旅』は、ちゃんと就職して働こうという時代に『会社なんか入るなよ』とか『自由に生きよう』とか言って、非常識なことばかりやってるんです。それでも支持してくれる人が多くて、香港でも放映されました」
時代も国も超えて人気があるのは、若者たちが抱える特有の鬱憤を晴らしてくれるような番組だったからだろう。
「監督をして驚いたのは、こんなことまでやるのかと思うほど、仕事が多いんです。監督の仕事が10あるとすれば、役者を動かすなんて作業は1か2くらいです」
監督を引き受けた際、真っ先に頭に浮かんだのは、これまでのドラマで最も多く付き合った斎藤光正監督の演出だった。
「こんなとき、斎藤監督ならどうするだろうか、と何度も考えましたね。でも、途中からプレッシャーが楽しくなってきた。なにかと大変だったけど、仕上げたときには凄い達成感があってね。監督業が中毒になるかも」
最後に理想の夫婦にも選ばれた淳子夫人との日常を尋ねてみた。結婚48年にして新婚気分というのは事実なのか。
「俺はデビューしてから休む暇なく働いていて、ずっと忙しかった。それがコロナの流行で仕事がなくなってから、家にいる時間が増えて、一日中(彼女と)一緒でね。今は楽しんでいるというか、仲良くしてますよ」
ためらいもなく「彼女とは相性がよかった」と言い切るのだ。
芸能生活51年。大学を卒業直後に主役で俳優デビューし、同時に歌手デビューも果たした彼には、下積みの時代がない。
それでも驕りは感じさせず、むしろ謙虚に自分を見つめている。
彼が持っているSomethingは、人々に愛される温かく誠実な人柄そのものだろう。
(前編から読む)
【プロフィール】
中村雅俊(なかむら・まさとし)/1951年2月1日生まれ、宮城県出身。1973年、文学座附属演劇研究所に入所。1974年、『われら青春!』(日本テレビ)の主役でデビュー。テレビドラマの主演は34本を数え、歌手としてもシングル55枚、アルバム42枚をリリース。全国コンサートも1600回を超える。初監督作『五十年目の俺たちの旅』が2026年1月9日公開予定。
取材・文/松田美智子(作家)
※週刊ポスト2025年11月7・14日号
