通算勝利数は日本競馬史上10位で現役最多という名伯楽・国枝栄調教師
私には先に前に出たアパパネをサンテミリオンが捉えたように見え、少なくとも「勝った」とは思えなかった。写真判定にはなったが、よくて同着か、と半ば諦めに似たような気持ちだった。
結果を待つ間、いつもはオーナーサイドやスタッフと「どうかな、やられたかな」なんて話していたりするのだが、金子オーナーは腕組みをして検量室の着順掲示板をじっと睨みつけ微動だにしない。私も隣にいて、結果を直視するのが恐ろしいような気分で長い時間を過ごした。
12分後、GI史上初の「1着同着」という判定結果が出た時は、ああオーナーの念が通じたんだ、と思ったよ。やっぱりこの人は胆力が違う、ビジネスでも常にこういう場面で勝ってきたのだろうと改めて畏敬の念を抱いた。
【プロフィール】
国枝栄(くにえだ・さかえ)/1955年岐阜県生まれ。東京農工大学農学部獣医学科卒業後の1978年から美浦・山崎彰義厩舎で調教助手。1989年に調教師免許を取得して1990年に開業、以後優秀調教師賞7回、優秀厩舎賞7回。主な管理馬はほかにブラックホーク、マツリダゴッホ、サークルオブライフ、ステレンボッシュなど。
※週刊ポスト2025年11月7・14日号
