画像生成AIに「アーバン熊2.0」とだけ打ち込んでつくった画像
世代交代がもたらす凶悪な性質
問題は、このアーバン熊が世代交代している点だ。アーバン熊を母に持ち、人間を知り尽くし、より人間をナメ切った第二世代「アーバン熊2.0」が登場してきたのだ。
2023年12月7日、東京郊外の八王子市に出没した熊は、明らかにそうした「アーバン熊2.0」だった(イノシシとする説も有)。その証拠に、この「2.0」は市の中心地である八王子市役所近辺をうろつき、地域住民を震撼させている。人の少ない市の郊外より、人と建物の多い市の中心部のほうが「安全」と学んでいるのだ。
事実、熊被害問題では、駆除を依頼された猟友会と住宅地での発砲を許可しない警察との間でトラブルが何度も起こってきた。
これは熊用の猟銃弾の破壊力がすさまじいからである。コンクリートの壁も一撃でぶち抜く威力があり、住宅地で発砲して外れた場合、簡単に建物を貫通する。住民に被害が出かねないために安易に許可できなくなっているのだ。
では警察で対処すればいいと言う声もあるが、熊は分厚い脂肪と有刺鉄線でもケガすらしない頑強な体毛で覆われている。当然、警察官が持つ拳銃では殺傷できず、手負いとなって大暴れして被害を拡大しかねない。対テロや凶悪犯を射殺する特殊部隊のライフルでも、心臓を一撃しなければ仕留めることはできない。熊は四足歩行する。立ち上がるまで待ち続けるのか、となる。これは自衛隊の小銃も同様で、肉体の脆弱な人間向けの対人用銃弾は精密射撃と連射性、携帯性を優先させているので威力が弱いのだ。
逆に大型動物用の猟銃弾は、仕留め損ねた場合、反撃を受けることを想定して一撃で動きを止めるように威力を高めている、それでかえって人の多い場所や住宅地では使用が難しくなった。先の「アーバン熊2.0」は、これを理解しているとしか思えないのだ。
人間の活動域に侵入し、パトカーなどのサイレンで騒ぎになったら、山へ逃げるよりも住宅地へと進んだほうが「安全」。その住宅地で餌を漁ったあと夜にかけて逃走すればいいと「アーバン熊2.0」はすでに理解している。完全に人間をナメ切っているのだ。
そんな「アーバン熊2.0」が母熊となればどうなるか。当然、住宅地近くをテリトリーとするだろう。そして高齢化が加速している僻地の住宅地や農地では、熊が何度も出没すれば、現実問題として「人が住めなくなる」。農地に電気柵を設置しようとすれば莫大なカネがかかる。駆除するにせよ、餌環境のいい放棄里山が熊のテリトリーのままなら、空いた縄張りに別の熊がやってくるだけ。まったく解決策にはならないのだ。出没多発地帯の地価はタダ同然となり、人間は、このエリアを「放棄」せざるをえなくなる。
この流れを「アーバン熊2.0」は理解して、それを「アーバン熊3.0」へと伝えていった場合、熊による本格的な人間領域への侵攻が始まるのではないか。その可能性は、もはや絵空事ではなくなりつつあるのだ。(後編につづく)
取材・文/西本頑司
