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【書評】『コージーボーイズ、あるいは四度ドアを開く』登場人物たちの言動や著者本人の文章に漂うそこはかとない「品の良さ」がたまらない

『コージーボーイズ、あるいは四度ドアを開く』/笛吹太郎・著

『コージーボーイズ、あるいは四度ドアを開く』/笛吹太郎・著

【書評】『コージーボーイズ、あるいは四度ドアを開く』/笛吹太郎・著/東京創元社/2090円
【評者】川添愛(言語学者・作家)

 何気なく手に取って一話目を読み終わったとき、はたと気がついた。これは、おいしいお茶とお菓子を用意してから読むべき本だ、と。翌日から毎日一話ずつ、お茶の時間に読むことにした。そのおかげで何日にもわたって、至福の時間を過ごすことができた。

 本作には、ミステリを愛する四人組〈コージーボーイズ〉が、カフェ〈アンブル〉に集まって謎解きをする話が七編収められている。持ち込まれる謎はけして大がかりなものではなく、日常のちょっとした出来事。しかし、気がついたら「いったい何が起こっているの?」と謎に引き込まれている。そして、作中のキーパーソンであるカフェ店長、茶畑さんが用意するお茶とデザートがとてもおいしそう。思考と味覚が一度に刺激される。

 どの話も、人の心の機微を巧みに捉えた奥行きの深い良作だ。人間の感覚や記憶の心許なさをコミカルに描き、長い時を経て打ち明けられた真実を柔らかく受容する。それでいて、暴走しかけた欲望にはほんのちょっとだけ釘を刺す。登場人物たちの言動や著者本人の文章に漂う、そこはかとない「品の良さ」がたまらない。

 社会問題や人間の業の深さを扱ったミステリや、床いっぱいに散らばったパズルを解くような大作をガンガン読み進めるのも楽しいが、本作のように一つ一つ丁寧に作られた短編をゆったりと、味わうように読むのもまた格別だ。

 本作はシリーズの第二集にあたるが、ここから読んでもまったく問題ないし、どの話から読んでもいい。読み終わったら第一集に手を伸ばせばいいし(言うまでもなく、私はそうした)、さらにそのあとには著者が各話の最後で紹介してくれている関連作品を読む楽しみもある。ミステリにくわしくない人、普段ミステリを読まない人にも安心してお勧めできる一冊だ。

※週刊ポスト2025年11月7・14日号

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