事件後もタケノコ採取目的で事件発生域に入山する人は減らず、秋田県警が検問を設置するなどして対策を行った
生き残った人喰い熊が再び人間を襲う可能性
この人喰い熊が射殺されたわずか5日後、4人グループが別のツキノワグマに襲われる。このことで先に死亡した4人は、すでに駆除された一頭の個体によって殺されたのではなく、他に加害した熊がいた可能性が高まった。
さらに6月30日にも男性が襲われ頭に重傷を負ったが、これは死亡事件のあった場所から9キロほど離れた場所だったため、別の個体によって起こされたものと考えられる。
5月22日の事件で夫を殺された妻は、あまりの精神的ショックが原因で事故の目撃情報を語らなかった。しかし、現地での追跡調査で、2人目の犠牲者である夫を襲ったのは母熊で、小さな子熊3頭を連れていたことが判明した。子熊が母熊の食性を引き継ぐ可能性は高く、子熊たちは人喰い熊として成長しているとみられる。
また射殺された雌の熊は、繁殖期ということもあって雄の熊と行動をともにする姿も目撃されていた。これまで日本で発生した熊による殺傷事件は、その多くが単独の熊によるものであり、その点で十和利山の事件は特異なものだった。他に襲撃に加わった人喰い熊が複数いたならば、それが現地で生き残り、再び人を襲い始めることも十分に考えられる。
秋田県では2023年の秋、ツキノワグマの大量駆除を行ったことで、動物愛護を訴える多くの抗議を受けることになる。だが、現在も十和利山周辺に人肉を好む狂暴な人喰い熊が複数潜んでいるかもしれないことを思えば、駆除は当然行われるべき処置だったとも思える。
取材・文/早川満
