送検のため兵庫県警本部を出る政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志容疑者(中央)=11月10日午前、神戸市中央区(時事通信フォト)
表向きは政党のリーダーとして立ち上がったはずだが、自分が知事になるべく選挙活動をやっても、注目を浴びることはない。代わりにアジテーター的な選挙活動を展開し、立花氏はデマゴーグになった。デマゴーグは刺激的な嘘やデマを手段として用いて発信し、人々の行動や考え方に影響を与えようとする政治家のことを指す。デマゴーグなら自分が得た情報がデマだろうが真実だろうが、どちらでも構わなかっただろう。それによって自分の発言が真実味を帯び、人々の感情を大きく揺さぶることができればよかったはずだ。
自身が持っている態度や意見に合う情報は積極的に受け入れるが、反する意見や情報などには接しないという「選択的接触」の傾向が強かったとも考えられる。竹内さんに関する情報について、立花容疑者が精査することはなかったと聞く。そこには「確証バイアス」という、自分が正しいと信じる情報ばかりを集めるような傾向もあったはずだ。さらに精査しなければ本当かどうか知らなかっただけで、嘘を発信したとはいえない。自分もそう信じ込んでいたという言い訳が成り立つという考えもあったのではないだろうか。
リーダーは人々のポジティブな感情や意欲などに働きかけるが、アジテーターは人々の怒りや不満、恐怖に働きかけて人を動かそうとする。過激なスローガンを掲げていた時の容疑者はアジテーターだった。怒りや不満の対象を見つけると、それを自分たちの共通の敵として攻撃し、排除させようと扇動する。自分の意のままに動くよう群衆をコントロールしようとするのだ。「群衆とは、かくも催眠術にかかりやすい存在である」といったのはフランスの社会心理学者ギュスターブ・ル・ボンだ。古典的名著といわれる『群衆心理』が彼によって書かれたのは19世紀末、SNSが普及した現代でも群衆心理の根本は変わらない。
立花容疑者は群集心理の動かし方をよく知っていたのだろう。暴露系YouTuberとして稼いでいたガーシーのこともあり、人心を煽れば人気と収益につながることもわかっていた、ル・ボンは「群集は一度暗示が与えられると、それは感染によって、ただちにあらゆる頭脳に刻み込まれて、即座に感情の転換を起こす」と書いた。そうなれば聞く耳を持たず、真実を求めず、間違いでもいいから魅力的なものを求めるという。群衆の側にも「確証バイアス」が強く生じ、SNSなどで自分と似た意見や、関心、選好にあった他者と交流することで、自分が正しいと信じ込む「エコーチェンバー」現象が起こる。
兵庫県知事選で立花容疑者のデマに踊らされ投票した人は、いったいどれくらいいたのだろう。
