ガーシーを擁立した2022年の参院選で街頭演説する立花氏(右)。青汁王子の愛称で人気の実業家・三崎優太氏(中央)とヒカル氏(左)が応援演説に駆けつけた(2022年7月写真撮影:小川裕夫)
逮捕は格好のネタなのか
真面目に候補者を応援し、真剣に政治を考えて一票を投じている有権者が立花氏のトリッキーな選挙戦術を快く思うことはない。ましてや兵庫県では、死者が出ている。そうした経緯から、兵庫県警は慎重に捜査をして今回の逮捕に至った。かなり時間を要したこともあって、「これまで警察は何をやっていたんだ?」「ようやく逮捕された」との声も絶えない。
ただ、これまでの立花氏を定期的に取材してきた者としては、今回の逮捕で立花氏本人が大きなダメージを負ったと感じることはないと断言できる。現時点では逮捕されただけで有罪が確定したわけではないし、この後の公判で仮に有罪になっても昨今は誰もがSNSで自由に発信してマネタイズできる環境が整っている。
立花氏はYouTubeで莫大な金銭を得ていることを公言しているので、むしろ逮捕は格好のネタになり、「箔がついた」と前向きに受け止めるだろう。
YouTubeをはじめとしたSNSは非常に有益なツールだ。弱者でも声をあげやすく、気づいてもらうきっかけを得やすいが、一方で厄介な側面がある。ユーザーが好むコンテンツを自動的に表示するアルゴリズムを備えており、同じような内容の動画を繰り返し流す。他方、反対する立場からの発信は提示しないので偏った意見を多数派だと勘違いしやすく、錯誤を容易に起こさせる。情報が事実誤認だったと発信した後に訂正する投稿をしても、訂正したことは記憶されず、事実誤認の内容を人々は真実だと思い込んだままということも多い。
たとえ訴えられて負けても、結果として稼げるから、多くの人に存在意義を認めてもらえるから止められない。そのため、SNSの発信はどんどん過激な内容になり、人々の耳目を集めることが目的になっていく。くわえて、配信者は発信をするものの後は受け手の責任といった具合に無責任になっていく。立花氏の逮捕は、SNSにまつわる不都合な実情を改めて表出させることになった。
立花氏が逮捕されたことを受け、政治や選挙が正常化されると期待する有権者は少なくないだろう。しかし、いったん乱れた政治が正常化することは決して簡単なことではない。それは現職の政治家を含め立候補者、そして一票を投じる有権者にかかっている。
