知床財団の事務局長、玉置創司氏
観光で生計を立てている
知床では、早くからゾーニングという管理手法を採用している。つまり、エリアによってクマの生息地(ゾーン1)、人の生活圏(ゾーン4)、両者が混在する地域(ゾーン2およびゾーン3)と4段階に分け、その場所によって対応を変えている。世界遺産エリアのゾーン1は民家も一般道もない。玉置いわく「ヒグマのすみかなので、人間側はお邪魔する立場」だ。逆に近年は、ゾーン4に一歩でも足を踏み入れたクマは問答無用で捕殺対象になる。
実は、一口に知床と言っても、町によって思想が異なる。知床半島には3つの自治体がある。斜里町、羅臼町、標津町だ。その中で箱わなの使用に消極的なのは斜里町のみ。あるハンターは3町の違いをこう説明する。
「斜里町は観光の町で、羅臼町は漁業の町です。だから斜里町はクマを大事にするけど、羅臼町はクマより漁業なんで駆除に対する抵抗はまったくないんです。羅臼町は、対応がとにかく早いですから。標津町は知床といっても世界遺産エリアではないので、まったく関係ないと思います。いたら獲る。それだけじゃないですか」
北海道の形はイトマキエイにたとえられるが、東に突き出た2本の角のうちの北の大きいほうが知床半島だ。半島の長さは約70キロメートル。ちなみに南の短いほうは根室半島である。その間に北方領土のうちの一つ、国後島が横たわっている。
知床半島の西半分が斜里町で、東半分が羅臼町である。標津町は羅臼町の南、半島の基部に広がる町だ。世界遺産エリアは半島の奥のほう、約半分程度なので、標津町はその範囲外になる。
標津町の駆除を担当する南知床・ヒグマ情報センターの藤本靖はさばさばとした口調で言う。
「人間とヒグマ、どっちが優先なの? そりゃ、人が優先になるでしょう。われわれはここで生活してるんだから。共生という言葉を使うなら、人間優先でしかありえないと思うよ。斜里とうちではクマとの関わり方がまったく違う。
標津はクマの町というより、サケの町。でも、斜里でも上(南)のほうの畑をやってる人たちはみんな駆除すべきって言うでしょう? 下(北)のほうのウトロ(地区)の人たちだけじゃねえかな、共生って言ってるのは。だって、あそこはクマを見たいから観光客が集まるわけでしょう? 観光に携わっている人が暮らしている町だから、そこは当然、温度差はあるわけよ」
斜里町には市街地が2つある。1つは「斜里町」と呼ばれる半島の付け根の部分と、もう1つは人口1100人ほどの「ウトロ」と呼ばれる世界遺産地域に隣接している小さなエリアだ。両地域を行き来しようとすると車で40分ほどかかる。
