世のため人のために怒っていると思っている人はタチが悪い(写真/イメージマート) 

世のため人のために怒っていると思っている人はタチが悪い(写真/イメージマート) 

よりタチがわるいのは「世のため人のため」に怒っているつもりの人

「怒りのえさ」の甘く危険な誘惑に負けてしまうのは、SNSやネットニュースのコメント欄で匿名をいいことに威勢よく怒っているような、わかりやすい残念さにあふれた人たちだけではありません。そういう行為に熱中している人は、多かれ少なかれ自分が「不毛なこと」「みっともないこと」をしている自覚がありそうなので、まだマシと言えます。

 よりタチが悪いというか、より深刻な状態にあるのは、自分が「怒りのえさ」を貪っていることを自覚しないまま、世のため人のために怒っていると思っている人。とくに政治方面で物議を醸す事態が起きると、張り切って怒らずにはいられません。右とか左とかどの政党を支持しているとかは関係なく、あらゆるところに棲息しています。

 それぞれ大義名分があって怒っているので、目の前にぶら下がった「えさ」に反射的に飛びついている自覚はありません。怒りだけでなく、承認欲求とか選民意識といった甘美な「えさ」も同時に食べているため、ますます声が大きくなっていきます。これを読んで「ギクッ」とした人は、手遅れにならないうちに己を振り返ってみましょう。

 カスハラやモラハラやパワハラをやってしまうのも、多くの場合「怒りのえさ」に含まれる毒におかされているから。実際は怒る気持ちよさに溺れているだけですが、いろんな理屈を付けて怒ることを正当化してしまいます。ああ、なんて恐ろしいのでしょうか。

「怒りのえさ」は、ネット上でも実生活でも、スキあらば私たちを誘惑しようとします。素直に食らいついて、そのおいしさを堪能するのも、ひとつの生き方かもしれません。ただ、

 不毛な怒りに包まれて毎日を不機嫌に過ごしながら人生が終わっても、ぜんぜん悔いはないと考えることができればの話ですが。

 それは避けたいと思うなら、甘くて危険な「怒りのえさ」が目の前にぶら下がっていても、勇気を出して誘惑を振り切りましょう。それでも抑えられない「怒り」を抱くときもあるはず。それ以外の怒りは、わざわざ抱かなくても何の支障もありません。

 いっぽうで「喜びのえさ」や「楽しさのえさ」を見かけた場合は、躊躇なく食いついて大丈夫です。もしかして一部の人にとって、このコラムは「気に食わない」という感情を刺激する「怒りのえさ」になっているでしょうか。どこからでも「えさ」を見つける嗅覚には敬意を表しますが、おいしくないし栄養もないので適当に吐き出してください。

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