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「老後資金2000万円」問題の最新事情 実際いくらあれば足りる?専門家が試算

 子供も手を離れ、夫も定年退職。夫婦ともども肩の荷が下りるや否や「老後の資金」という、最後にして最大の問題が立ちはだかる。生活費に加えて、医療費に介護費用…せめていまのうちに「何を選べばいくらかかるのか」だけでも知っておかないと、2000万円でも足りなくなるかもしれない。

 老後不安が一気に高まるきっかけとなった「老後資金2000万円不足問題」は、いまから2年ほど前の2019年6月に浮上した。60才の夫婦ふたり暮らしでは毎月5万4519円の赤字になり、90才までの30年間で、合計2000万円が不足する──

 だが実は、この計算は2017年のデータをもとにしたもの。それから現在までの4年間で、不足額は大きく変動しているのだ。

 最も月の不足額が多かったのは、2015年の6万2327円。その後不足額は減少し、2019年には3万3270円になった。そして、最新の2020年のデータでは、不足額はなんと毎月1541円。まさか、わずか4年で「老後55万円問題」に変わってしまったのだろうか?

医療費だけで600万円、介護費だけで1000万円

 プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんは、昨年のデータは必ずしも安心材料にはならないと話す。

「昨年の不足額が大きく減ったのは、コロナ禍の影響で外食や旅行などの支出が減ったために過ぎません。年金受給額も年度ごとにバラバラなので、このまま2000万円問題の解決を期待するのは早計です」(三原さん・以下同)

 何よりも、ここまでの計算はすべて「普通に生活したとき」の不足額でしかない。ここに医療費と介護費用が合わさって初めて、本当の意味での「老後の資金」といえる。

 厚労省の統計では、女性1人の一生でかかる医療費は、平均約2840万円。そしてなんと、その半分以上の1492万円が、70才以降に必要になるのだ。

「もちろん、健康保険が適用されるので、実際にかかる金額は、年齢と所得に応じて1~3割。1人あたり158万~474万円になる計算です。ごく一般的な家庭なら、夫婦2人で316万円ほどあれば、医療費はカバーできる。ただし、2023年の3月頃までには、75才以上で世帯年収320万円以上の場合は、自己負担が1割から2割に増やされる見込みです。すると、夫婦で必要な医療費は632万円以上にもなります」

 子供が独立して家のローンも払い終え、悠々自適の老後生活…は、もはや昔の話。本当にお金がかかるのは、人生の最後が見えてきてからなのだ。では、さらにそこに上乗せされるであろう、介護費用はどうか。介護専門ファイナンシャルプランナーの伊藤雅浩さんが言う。

「在宅サービスの費用は、要支援1~要介護5まで、7つの段階があり、それぞれ1か月の上限額が決まっています。自己負担額は、月々約3万~7万円が目安で、要介護度によって異なります」

 三原さんによれば、1人にかかる介護費用の平均は月々7万8000円。介護期間を平均の4年7か月とすると、死ぬまでの間に約494万円、夫婦2人分なら約988万円を用意しておく必要がある。また、手すりやスロープをつけるなどの自宅のリフォームには、平均69万円かかるというデータも。

 老人ホームに入居したり、自宅での介護サービスを利用したり、世帯によっては1000万円以上必要になることもあるだろう。1円たりともムダにしたくない老後の資金。終の住処に選ぶのは、「老人ホーム」と「住みなれた自宅」なら、どれだけのお金がかかるのだろうか。

「入居300人待ち」か、「入居費用2500万円」か

 公表資料を見ると、要介護3以上になると、施設で暮らす人が増えており、介護付き有料老人ホームの入居期間は平均4年となっている。

「都内の相場(中央値)では、入居一時金が約420万円で、月の利用料は約27万円です。一時金は、入居時に支払う場合と、月々の利用料に分割で上乗せされる場合がある。5年間入居する場合は合計約2040万円ほどかかります」(三原さん)

 もちろん、これは都内の一般的な老人ホームの場合。地域や施設の形態によって、料金はピンからキリまである。地方の場合、入居一時金は0~数千万円、月の利用料は15万円前後が一般的だ。

「なかには“入居一時金で1億円”という高級な老人ホームもあれば、在宅復帰を目指す高齢者が入居する『介護老人保健施設(老健)』や、常時介護が必要な高齢者のための『特別養護老人ホーム(特養)』など、収入や資産が一定以下の人に対して、居住費と食費に自己負担上限額のある公共施設もあります。公共施設なら費用は月々約6万~8万円ですみますが、都内なら入居は200~300人待ちが当たり前。入りたくても入れないことが多いでしょう」(伊藤さん)

「老人ホームに入るなら、5年で2500万円」を覚悟しておいた方がよさそうだ。

教えてくれた人

三原由紀さん/プレ定年専門ファイナンシャルプランナー

伊藤雅浩さん/介護専門ファイナンシャルプランナー

※女性セブン2021年11月25日号
https://josei7.com/

●老後快適に暮らすための5つの注意ポイント|孫への出費、長距離の引っ越しもリスク

●「健康寿命」と「平均寿命」の差から導き出す介護費用

●60才以上世代、貯蓄何年で尽きるか計算するには?

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この記事へのみんなのコメント

  • ほや

    66歳現役で働いていたがこの春がん発症。正社員のため1年半は傷病手当が受けられるが甘えてばかりいられない。病状は回復傾向にあり、年明けには職場復帰を模索中。病気のため支給を止めていた年金も65歳まで遡って支給を受け何とか生活している。病気になったことで蓄えはほぼ消えた。来年からおそらく70歳くらいまでは現役を張らないと生活は立ち行かない。来年春には妻も65歳を迎え年金を受ける。今は扶養の妻が年金受けたら保険はどうなるのか?不安だらけである。

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