公開日:2021.12.03   

認知症が不安な時代の資産管理術|新たな「株の信託サービス」をFPが解説

 高齢化にともない認知症患者の数も増加の一途。もしも認知症で判断能力が低下したら、自分の資産をどう管理すればいいのだろうか。「信託」という仕組みを利用していざというときに備える資産管理術を、ファイナンシャルプランナーの大堀貴子さんに解説いただいた。

親と子が資産管理の方法を話し合っているイメージ写真
認知症に備えて親子で財産管理の相談をしておきたい(写真/GettyImages)

人生100年、認知症時代の資産管理術

 日本の高齢者の数は増加の一途をたどり、2021年には65才以上の人口は3640万人と過去最多となり、1970年の733万人から50年で約5倍に。人口に占める割合も29.1%と過去最高を記録している(総務省統計局2021年9月15日現在推計より)。

 さらに、100才を超える人は8万6510人に上り、そのうち女性の割合が全体の88%となっている(厚生労働省令和3年9月14日プレスリリースより)。長寿化にともない、認知症の数も増加の一途をたどり、2025年には高齢者の5人に1人は認知症ともいわれる。

 人生100年時代、認知症に備えて、自分の資産をどのように管理するのか、いくつかの方法を考えてみたい。

認知症の親の預金引き出しは銀行に相談を

 認知症になり本人の判断能力が低下すると、資産の処分などの法律行為ができなくなってしまう。認知症患者の増加をふまえ、金融機関も対応を進めており、銀行では判断能力があるうちに代理人指名手続きをしておけば、家族が銀行から介護費用などを引き出すことができる。

 また、新たな銀行指針により、代理人指定をしていなくても、親の判断能力が低下しているときは、戸籍抄本や介護施設の請求書などがあれば、銀行から代理で引き出すことも可能になった。困ったことがあったらまずは、銀行に相談してみるといいだろう。

不動産や株など資産の処分に注意!

 一方、不動産の処分や株式の売却など、法的な資産の処分に関しては、やはり本人の判断能力が低下した後では、簡単にはできない。

 判断能力が低下した人の不動産や資産を処分する方法のひとつに、成年後見制度がある。

 成年後見制度は、裁判所が決める後見人に家族以外の人が選任される可能性がある。また、本人の利益になる資産の処分かどうか、裁判所で判断されるため、親の介護費用の捻出が目的であったとしても、判断に時間がかかることも。

 さらに、資産運用が目的だと許可されないというケースもあり、親の資産は臨機応変に処分することはできない。

「家族信託」で資産管理を家族に任せる

 そこで注目したいのが「家族信託」という制度だ。これは、まだ判断能力が低下していないうちに、「自分がもしも認知症になったら家族に資産の処分や運用を任せる」という約束ができるものだ。

家族信託のメリット「贈与税がかからない」

 家族信託とは、親や夫が認知症などで判断能力が低下したとき、信頼できる家族の誰かを受託者に指定し、本人の代わりに財産の管理や処分を任せる仕組みのこと。財産の実質的な所有者は、信託前と変わらない契約となる。

家族信託のイメージ図
家族信託の仕組み(図制作/大堀貴子さん)

 子供を受託者にした場合、親の不動産や株式など資産の所有権は子供に移転し、資産の処分等が可能になるが、売却代金や利益を受け取るのは親のままとなる。

 子供は所有権をもとに資産の売却を臨機応変に行うことが可能となるが、原則として「親のため」である必要がある。

 また、委託者と受益者が同じで、実質所有権も親のままである場合、受託者である子供側に贈与税はかからない。所有権が子供に移転したことで、資産にかかる税金の支払いが生じるが、信託財産の管理費用として親の資金から支払うことができる。

 家族信託は、介護費用など親のための資産処分であれば、株や不動産の売却も可能だ。

家族信託のデメリット「手続きに費用が発生」

 家族信託の契約は、認知症になってしまった後ではできないので注意が必要だ。

 また、信託契約の締結や所有権移転登記、信託の登記が必要になるため、弁護士や司法書士など法律の専門家に相談して手続きを行うのが一般的だ。そのため、専門家への手数料や法律的契約が必要となる点にも注意しておきたい。

 親の株式を子供が扱うとき「家族信託」だと煩雑な契約が必要になる。そこで注目なのが、代理人が株式を売買できる証券会社の新たなサービスだ。以下で解説する。

信託の仕組みを利用した証券会社の新サービス

 マネックス証券が9月に開始した『たくす株』は、信託の仕組みを利用して株式などの財産管理ができるサービスだ。保有する株式を専用口座に預けることで、万が一認知症となった場合は、あらかじめ指定しておいた代理人が売却、出金することができる。

 認知症と診断されないうちは通常通り株式投資が可能で、もしも認知症と診断されたときには、代理人が管理することになる。代理人が資産の売却等を行った際、他の家族に通知されるという設定もできる。

 ネットを介して行う『たすく株』なら、「家族信託」のように専門家への相談料や登記といった手続きは不要なので手軽にはじめられる。

 認知症になって介護費用が必要になったときに、株式等の資産が凍結されて使えなくなってしまうということもないので、子供に迷惑をかけずにすむだろう。また、高齢になってからでも株式投資を楽しめるというメリットもある。

 ただし、代理人が受託した際には、信託等にかかる管理費用が別途かかることに注意したい。

 信託を利用した株取引サービスは、今のところマネックス証券でしか扱っていない。しかし、前述したように銀行では認知症になった家族向けの出金を臨機応変に行えるように指針が出ているので、証券会社でも今後こういったサービスが出てくる可能性もあるだろう。

 いずれ認知症になるかもしれないと考えると、介護費用は公的な制度があるとはいえ、大きな出費を強いられることも。もしものとき家族に負担がかからないように、自分の資産の管理方法を考えておきたい。

文/大堀貴子さん

ファイナンシャルプランナー おおほりFP事務所代表。夫の海外赴任を機に大手証券会社を退職し、タイで2児を出産。帰国後3人目を出産し、現在ファイナンシャルプランナーとして活動。子育てや暮らし、介護などお金の悩みをテーマに多くのメディアで執筆している。

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