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大河ドラマ『鎌倉殿の13人』スタート!端折られたシーンにみる三谷作品の描き方

 2022年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』がいよいよスタート!『新選組!』『真田丸』などの人気大河作品も手がける三谷幸喜の脚本、北条義時を小栗旬、源頼朝を大泉洋などの豪華キャスティングなど見どころ満載の超話題作。放送後「期待にたがわぬ面白さ!」とSNSが絶賛で沸いた第1回を歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが振り返りながら解説します。

謎だらけのオープニング!

 1月9日、2022年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(作・三谷幸喜)がいよいよスタートした。第1回のアバンタイトル(オープニングタイトル前の場面)では、馬に乗った若武者――このドラマの主人公・北条義時(小栗旬)が、敵と思しき騎馬武者たちに追われている。義時の背後には女物の着物で身を隠した者が同乗しており、彼は声をかける。

「姫、振り落とされないよう気をつけて!」

 このあと義時は、敵の射る弓矢をどうにか避けたかと思うと、やがて薄暗い森のなかを駆け抜け、さらに馬で追ってきた敵を振り切る。その様子は、まるで中世ヨーロッパを舞台にしたファンタジー映画のようだ。本作の英題である「THE 13 LORDS OF THE SHOGUN」からして、中世ファンタジーの代表格であるイギリスの文学者トールキンの小説『THE LORD OF THE RINGS』(邦題は『指輪物語』)をもじったものっぽい。

 それにしても、一体なぜ、義時は逃げているのか。また、姫とは何者で、何のために馬に乗せたのか。どこかから救い出したのか、それとも恋の逃避行か? 謎を残したまま、オープニングのあと、一旦時間をさかのぼって本編が始まった。舞台は安元元年(1175)の伊豆である。

 冒頭、当地を拠点とする豪族・北条時政(坂東彌十郎)が、天皇を警護する大番役の務めを終えて京から3年ぶりに帰ってくる。それを祝い、親戚縁者が北条家の館(やかた)に集まって宴が催されるなか、別棟にある男の姿があった。源頼朝(大泉洋)である。頼朝は源氏の嫡流ながら、その16年前に平家との争い(父の源義朝に従って戦った平治の乱)に敗れて伊豆に流されていた。

 流人となった頼朝の監視役を担ったのが、時政の亡妻の父親・伊東祐親(浅野和之)である。祐親はこの役を、時の権力者である平家の棟梁・平清盛(松平健)より任じられただけに、伊豆において絶大な力を持つことになる。しかし、頼朝は、祐親が京に行っているあいだに娘の八重(新垣結衣)と関係を持ち、千鶴丸という男児まで儲けてしまった。京から戻りそれを知った祐親は当然ながら激怒し、頼朝を殺すよう家人(けにん)に命じる。

一目惚れしやすい北条家

 こうして頼朝は、伊東の館を抜け出し、北条のもとに身を寄せたのだった。もっとも、一家の主の時政はしばらくこのことを知らない。頼朝をまず引き受けたのは、時政の息子・宗時(片岡愛之助)であった。大の平家嫌いの彼は、頼朝に手を貸して平家に対し挙兵すると息巻く。そんな兄に、弟の義時は冷ややかだったが、勝手に仲間に加えられ、一緒に頼朝を匿うはめになる。

 おかげで義時は、厠で危うく頼朝と鉢合わせしそうになった時政を引き留めたり、突然、祐親が頼朝を探しに訪ねて来て慌てふためいたりと、気苦労が絶えない。

 おまけに、姉の政子(小池栄子)までもが、頼朝に食事を運ぶため一目会ったそのときから“ぞっこん”になってしまった。頼朝が料理の名前を訊いても、彼女は体をくねらせたりして媚を売るばかりで一向に答えてくれないので、「これは何ですか?」と繰り返すコントのようなやりとりなど、いかにも三谷幸喜の作品らしい(頼朝役の大泉洋と小池栄子といえば、三谷作品ではないが、映画『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』での共演が思い出される)。そんな政子にあきれながらも、どこか楽しんでいるような妹の実衣(宮澤エマ)がまたいい味を出している。

 一目惚れといえば義時も、八重と伊東の館で初めて会ったときに恋に落ちていたし(結局、彼女は頼朝になびいたため成就しなかったわけだが)、父の時政からして、先妻が亡くなってまだ間もないのに、京からりく(宮沢りえ)という公家の娘を嫁に迎えると言い出すわで、どうも北条家は一目惚れしやすい血筋らしい。

 その時政は、家族に再婚を伝えた席で、ようやく頼朝の件を知らされた。浮かれていたところに冷や水を浴びせられ、「せっかく三島の祭りと正月が一緒に来たっていうのに、弔いまで重なっちまったよ!」と愚痴る時政だが、すぐさま場面が切り替わり、面会した頼朝から「この源頼朝、おぬしらに受けた恩、けっして忘れぬ」と言われるや、「わりといいやつだったな」とコロッと態度を変える。

端折られた八重の子・千鶴丸が殺害されるまで

 第1回では、このほかにも、あいだを端折ったかのような急な場面転換がたびたびあった。とりわけそれが緊張感をもたらす効果を発揮していたのが、前出の頼朝と八重の子・千鶴丸が殺害されるまでのくだりだ。

 恥ずかしながら、筆者はBSの先行放送で初めて見たときには、義時が頼朝から言付かった八重宛ての手紙を伊東の館まで届けた帰り、宗時に「千鶴丸は殺されました」と伝えるまでそのことに気づかなかった。それは、こちらがちょっとぼんやりしていたというのもあるが、そもそも肝心の殺害シーンが端折られていたせいでもある。

 その後、総合テレビでの本放送を見たところ、義時が訪ねた際の伊東の家中の人々の言動はあきらかに不穏で、背筋がゾクッとした。

 まず、頼朝を北条家に預けた張本人である伊東祐清(祐親の次男/竹財輝之助)は「別の用事で頭がいっぱいなのだ」と、義時に対し手紙を預かるのを断った。仕方がないので八重に直接渡すべく席を立った義時は、部屋を出たところで善児(梶原善)という下人とすれ違う。

 義時から手紙を受け取った八重は、彼と話をする前に、そばにいた千鶴丸に対し「(家人の)次郎と遊んできなさい」と言って席を外させた。義時は話を終えると、今度は祖父の祐親の部屋へ向かう。このとき、千鶴丸は先ほどの善児に「川で魚を捕ってあげまする」と館の外へと連れ出され、無邪気にはしゃいでいた。祐清が渡り廊下からその様子を眺めていたところ、義時と出くわし、気まずそうな顔をして奥に引っ込む。

 義時と会った祐親は、彼の何気ない振る舞いから頼朝が北条家に匿われていることをずばり見抜くと、「いますぐ頼朝を引き渡せ。さもなくば、こちらから力ずくで取り返すまでじゃ」と追い返した。

 そしてこのあと、義時は川辺を通りかかると、善児が子供のものと思しき青い着物を持って立ち去る姿を目撃してしまう。それは千鶴丸が着ていたものだった……。祐清が言っていた「別の用事」とは、つまりこれだったのである。妹思いの彼のこと、おそらくは父の祐親から北条家を脅すため、無理強いされたものと推察する。

 ちなみに、流人時代の頼朝について書かれた数少ない史料である『曾我物語』では、千鶴丸を殺すよう下人たちに命じたのは祐親だったと記されている。その殺害方法は、石をくくりつけて川に沈めるという残忍なもので、千鶴丸は直前になってやっと自分が殺されるとわかると、「父よ。母よ。乳母(めのと)はいづちへ行きけるぞ。我をば、いづくへやるやらん」――現代風に訳せば「お父さん。お母さん。乳母はどこへ行ってしまったの。僕をどこへ連れて行くの」とでもなるだろうか――と、下人たちの腕にしがみついて抵抗したという(小学館版『日本古典文学全集 第53巻 曾我物語』を参照)。

 そうした場面を直接描かず、あくまで義時がその目で千鶴丸の殺害を確認するという形にしたところに、このドラマのスタンスがうかがえる。おそらく本作では今後も、これまでの三谷作の大河ドラマ『新選組!』(2004年)や『真田丸』(2016年)がそうだったように、基本的に主人公である義時の動く範囲で、さまざまな出来事が描かれていくのではないか。

 千鶴丸の殺害後、祐親はさっそく頼朝の引き渡しを求め、兵を引き連れて北条家に現れた。しかし、すでに宗時は家来たちと武装し、時政もついに腹をくくって、一族を挙げて徹底抗戦を決める。

 両陣営がにらみ合うなか、義時は頼朝を連れて館を脱出。その際、頼朝は、政子が機転を利かせて渡した女物の着物をまとい、化粧まで施して(とはいえ、ひげ面のままだからほとんど意味がないと思うのだが)義時の馬に同乗した。これがアバンタイトルのあの場面へとつながっていく。

 この逃亡シーンのBGMが、どうも聴き覚えがあると思ったら、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」をアレンジしたもので、じつにかっこよかった。昨年公開の映画『燃えよ剣』でも、新選組の池田屋襲撃の場面でビゼーの「カルメン」をアレンジした楽曲が使われていたが、時代劇とクラシック音楽はうまくハマればドラマがグッと盛り上がるのだと今回改めて実感した。

頼朝が決起するまでにはなお5年

 ところで、義時と頼朝はどこへ向かおうとしているのか。第1回の終盤では、千鶴丸の死を知らされた頼朝は、義時の前では、それもさだめだと諦観したかのような態度をとっていた。しかし、心中では怒りをたぎらせたあげく、伊東家を追われて頼朝に仕えるようになっていた工藤祐経(坪倉由幸)に義父であった祐親の殺害を命じる。

 とはいえ、第1話における頼朝を見るかぎり、平家打倒のため挙兵するには、どうもまだ煮え切らない印象がある。そもそも史実では、頼朝が決起するまでにはなお5年もあるから、今後もしばらく雌伏のときが続くのだろう。果たして何が彼を挙兵へと突き動かすのか。もちろん史実ではそれ相応のきっかけがあるのだが、三谷幸喜のことだから一工夫加えてきそうな予感を抱く。早くも期待は募るが、それはまだ先の話。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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