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『鎌倉殿の13人』3話 世を動かすのは「夢のお告げ」と「現実的なインテリジェンス」だった平安末期を絶妙な配分で描く

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』3話。平家追討への強い思いを持ちながら、なかなか挙兵に踏み切らない頼朝(大泉洋)を後押ししたものは? 後白河法皇(西田敏行)のお告げシーンも登場した「挙兵は慎重に」(副題)の回を、歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが振り返りながら解説します。

頼朝(大泉洋)と政子(小池栄子)はすでに夫婦に

『鎌倉殿の13人』第3回では、前回から時間が一気に5年飛んで治承4年(1180)、平清盛(松平健)がその前年に後白河法皇(西田敏行)を幽閉したのに続き、自分の幼い孫を天皇に即位させた。安徳天皇である。

 この世を思うがままに動かす清盛と平家を打倒するため、後白河法皇の皇子・以仁王(もちひとおう 木村昴)が源頼政(品川徹)とともに京都で挙兵した。その直前には、源頼朝(大泉洋)も以仁王による平家打倒の宣旨(皇子が出す文書)を叔父の源行家(杉本哲太)から渡されていたが、結局、挙兵には加わらなかった。後日、頼朝は都の情報源である三善康信(小林隆)から送付日の違う2通の文を受け取り、以仁王が頼政の加勢を得て挙兵するも、数日のうちに敗れ去ったことを知る。

 にわかに世情が騒がしくなるなか、頼朝は政子(小池栄子)とすでに夫婦となり、長女の大姫(おおひめ)も儲けて幸せそうな家庭生活を送っていた。

 筆者はてっきり、2人が正式に夫婦になるまでの過程がもう少し描かれるものと思っていた。それというのも、『曾我物語』や『源平盛衰記』などでは、政子の父・北条時政が2人の関係を知るや、平家に露見するのを恐れて、政子を伊豆の目代(もくだい 代官)の山木兼隆に嫁がせようとしたことが記されているからだ。それらが伝えるところでは、政子は兼隆のもとに赴きはしたものの、夜中にこっそりと抜け出して、雨のなかを伊豆権現へ向かい、そこで頼朝と涙の面会を果たしたという。

 まるでバブル期のトレンディドラマのような展開だが、あまりに劇的すぎるがゆえ、頼朝の苦難を強調するための後世の創作である可能性が高い。なお、史実では兼隆が伊豆の目代に就いたのは、第3回で描かれていたように以仁王の乱のあとである。

勝ち誇ったような笑顔で八重(新垣結衣)に手を振る政子

 劇中では、以仁王の乱の鎮圧後、もはや源氏の命運は尽きたと察した伊東祐親(浅野和之)が時政(坂東彌十郎)に、北条家を守るため一日も早く頼朝とは手を切り、政子を平家の血統である兼隆(木原勝利)に嫁として差し出せと迫る場面があった。これに対して時政は、頼朝を守ると決めた以上、ここで放り出したら武士の名折れとつっぱねる。時政としてみれば、これ以前、伊東から逃げてきた頼朝が北条の館に匿われたとき、祐親から引き渡しを要求されるも頑なに拒んだ末、その身柄を預かるにいたったのだから、当然の態度だろう。

 祐親は、娘の八重(新垣結衣)を恋仲だった頼朝から完全に引き離すため、家人(けにん)の江間次郎(芹澤興人)と無理やり結婚させていた。しかも彼女の嫁いだ館は残酷にも、頼朝の住む北条の館とは狩野川を挟んですぐ向かい側という場所にあった。

 八重は前回、政子から直接申し出を受け、頼朝への思いを断ち切るよう努力すると約束したものの、5年経ってもまだ未練を残している。ある日、川向こうの庭で頼朝が妻子と一緒にいるのを眺めていたところ、政子に気づかれてしまう。このとき、政子は勝ち誇ったような笑顔で八重に向かって手を振ってみせた。……と書くと政子は十分いやな女なのだが、ドラマではあまり嫌味が感じられないのは、演じる小池栄子のさばさばしたキャラクターによるところも大きいのだろう。

頼朝の真意、クレバーな義村(山本耕史)、義時(小栗旬)のアイデア

 笑顔といえば、第3回では頼朝もまた印象深い笑顔を見せていた。それは以仁王と頼政の敗北を、側近の安達盛長(野添義弘)や北条家の人々と一緒に知ったときのこと。そこで彼は、政子が「挙兵しなくてようございましたね」と言うのを「つまらぬことを言うな!」と一喝し、「頼政公は我が源氏再興のため身命を賭し、志半ばで世を去られたのだ」と諭してみせながらも、皆に背を向けて読経を始めると一人ほくそ笑んだのだ。

 頼朝は、清盛を倒すなら自ら先頭に立って挙兵すると決めていた。だが、万が一、ほかの者が清盛を討ち取ってしまえば、自分の悲願が成就しないまま終わってしまう。それだけに、頼政の敗北は同じ源氏として無念という以上に、安堵する気持ちが上回った。あの笑顔には、望みを今後につないだという頼朝の本心がよく現われていた。

 それでも彼は挙兵に対しあくまで慎重だったが、この直後、大きな曲がり角に立つ。三善康信がさらなる文で、清盛が以仁王の宣旨を受け取った源氏すべてに対し追討を決めたと伝えてきたのだ。これにより頼朝は、康信が勧めたとおり逃げるか、それとも挙兵するか、一刻も早い選択を迫られた(もっとも、これは康信の早とちりで、実際には、このとき清盛が追っていたのは頼政の残党だけだったのだが)。

 それまでの5年間、頼朝は主人公の義時(小栗旬)を除いて北条家の者たちには挙兵の意志をひた隠しにしてきた。しかし政子はそれに勘づき、義時に、もし戦になれば頼朝は勝てるのかと訊く。さすがにわかりかねた義時は、いとこの三浦義村(山本耕史)に相談。あいかわらずクレバーな義村は、頼朝を一族の疫病神扱いしつつも、戦に勝つには「どれだけの兵を集められるか、それに尽きる」「大事なのは緒戦だ。300は欲しいところだな」と知恵を貸す。ここから義時は何やら思いつき、義村を連れて伊豆の国衙(こくが=役所)に忍び込んだ。

 義時は先に目代の山木兼隆に挨拶するため父と国衙を訪ねた折、ゴミ箱にたくさんの木簡が捨てられるのを見ていた。それを思い出し、木簡を漁ると、書かれた記録から頼朝の味方になりそうな豪族たちが納めるコメの量を調べ、住民の数を割り出してみせたのだ。民の数がわかれば、集められる兵の数もわかる。こうして義時は、挙兵しても十分に勝てるという結論に達したのである。

 データを収集・分析して兵の数を想定してみせた義時の行動は、現代で言うところのインテリジェンス(諜報)そのものだ。木簡からデータを入手するアイデアは、彼が日頃、北条領内の年貢の管理を任されていたからこそ思いつけたのだろう。

平安末期はそういう時代である

 第3話ではこのほかにも、なかなか挙兵に踏み切らない頼朝を、さまざまな人物や出来事が揺さぶった。ある晩、彼が寝ていると夢に後白河法皇が現れ、“ステキな金縛り”状態で平家追討のお告げを受ける。他方で、京より帰った三浦義澄(佐藤B作)が法皇から頼朝宛てに預かったとして、平家打倒の密旨を時政に渡していた。時政はそれを安達盛長に預けたが、盛長はどうせ偽物だろうと、すぐに頼朝には渡さず自分のもとにとどめる。

 さらに頼朝の亡き父・源義朝の旧知の仲という怪僧・文覚(市川猿之助)が北条の館を訪ねてきて、義朝のものだと称するしゃれこうべを頼朝に見せて挙兵を決意するよう迫った。じつは文覚は頼朝周辺では厄介者扱いされていたのを、そうとは知らない義時の兄・宗時(片岡愛之助)が勝手に連れてきてしまったのだ。結局、文覚は追い返され、しゃれこうべだけを置いて去っていった。

 このあと、煮え切らない頼朝にとうとう政子がしびれを切らし、「佐殿は戦いたくてうずうずされておられるのです。でも、踏ん切りがつかない。怖いのです」と図星を突く。そして、例のしゃれこうべを彼に突きつけると、ここには平家と戦って死んでいった者たちの無念がこもっていると言い募り、「このどくろに誓ってください、いまこそ平家を倒し、この世を正すと」と迫った。

 妻からそこまで言われては、頼朝も本心を吐露せずにはいられなかったが、しかし必ず勝てる見込みがないかぎり挙兵はできないとなおも躊躇する。それを今度は義時が調べたデータを提示して後押しした。これが決め手になるかと思いきや、まだ戦うための大義がないと言う。頼朝は「平家打倒を促す法皇様の密旨でもあればな……」とつぶやき、夢枕に法皇が立ったことを打ち明けた。これを聞いて盛長が、法皇様が夢枕に立たれたとは知らなかったと、あわてて密旨を渡した。それを読んでようやく頼朝も腹を決める。しゃれこうべに「どこの誰かは存ぜぬが、この命、おぬしに賭けよう」と語りかけると、「三郎(宗時の通称)、すぐに戦の支度じゃ!」と促すのだった。

 考えてみれば、頼朝も認めるようにしゃれこうべは義朝のものではなく、密旨も本当に法皇のものなのか確証はない。しかも最終的に決め手となったのは夢のお告げだった。長澤まさみのナレーションでも「人々は夢のお告げを信じている。平安末期はそういう時代である」と強調されていたが、そういった現代の私たちから見ればあやふやなものがときに歴史を動かしてしまうのだから面白い。そんなふうに『鎌倉殿』の登場人物たちの言動には非合理的なところもあれば、一方で義時の行動のように、妙に現代的なところもある。そのあたりを三谷幸喜は絶妙な配分で描いてみせる。

 第3回では、それまで戦や政(まつりごと)には興味がないと言っていた義時が、政子の申し出がきっかけとはいえ、頼朝のため自ら積極的に動いたことも特筆される。今回の活躍は、頼朝の参謀役としての彼のデビューといえる。果たして挙兵した頼朝は、義時の計算どおり勝利を収められるのだろうか。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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