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『鎌倉殿の13人』5話 大将の器に見えない頼朝(大泉洋)とあまりに早い宗時(片岡愛之助)の死

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』5話。挙兵した源頼朝(大泉洋)に平家方の豪族たちは激怒、激しい反撃が始まり、北条家の嫡男・宗時(片岡愛之助)が非業の死を遂げる。「兄との約束」(副題)の回を、歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが振り返りながら解説します。

戦の残酷さを実感

『鎌倉殿の13人』の第5回では、前回終盤でついに挙兵した源頼朝(大泉洋)軍が、北条家の嫡男・宗時(片岡愛之助)の指揮のもと、まず伊豆の目代(もくだい)である山木兼隆とその後見役である堤信遠(つつみのぶとお 吉見一豊)の館を襲撃する。

 冒頭での信遠殺害の場面は、近年の大河ドラマでは珍しいほど凄惨な描写になっていた。北条義時(小栗旬)が父・時政(坂東彌十郎)に命じられてへっぴり腰ながら信遠に斬りかかると、血しぶきが飛ぶ。そして、宗時が胸を突いてとどめを刺した上、時政が首を取った。

 凄惨な描写によって、これが初陣であったはずの義時とともに見ているこちらも戦というものの残酷さが実感できた。義時は信遠を討ったあともしばらくおびえたまま、その場に立ちすくみ、時政から「これで終わりじゃねえぞ。始まったばかりだ」と叱咤されていた。

 信遠と兼隆を討ち取り、緒戦に勝利した頼朝は、後白河法皇を救い出すまで坂東の政(まつりごと)は自分が行うことを世に知らしめるべく、土地の分配に着手する。その第一歩として、宗時・義時兄弟の提案により、下田を治める平家方の中原知親(森本武晴)から土地を召し上げた。それと同時に頼朝は、以仁王(もちひとおう)の令旨を根拠として、東国の荘園・公領はすべて自分が治めると“所信表明”する。

 なお、知親について義時たちは「顔が長い男」と頼朝に説明していたが、これは鎌倉時代の説話集『十訓抄』の一話(一ノ四十五)に出てくる「ことのほか顔が長く、世間の人からは『長面の進士(ながづらのしんし)』と呼ばれている」という記述に基づいている。

総崩れになる頼朝軍

 頼朝の所信表明に平家方の豪族たちは激怒し、大庭景親(國村隼)は梶原景時(中村獅童)ら3千の兵を率いて反撃を決める。これに対して頼朝軍の兵数はその10分の1にすぎなかった。そこへ来て甲斐では、この機に乗じてやはり源氏の血統である武田が挙兵する。それもあって頼朝は、すでに挙兵前に本拠と定めていた父祖伝来の地である鎌倉へますます急がねばならなくなった。しかし、大雨のためなかなか進めず、相模の石橋山(現在の小田原市南西部に所在)に陣を張る。

 大庭軍・頼朝軍ともに頼みにしていたのが三浦の加勢である。しかし、三浦勢は石橋山へ向かう途中、酒匂(さかわ)川の増水のため足止めを食っていた。時政の親友である父・義澄(佐藤B作)は当然のごとく頼朝方につくつもりだったが、息子の義村(山本耕史)はあいかわらず冷徹で(そのわりには父に従順だったりする)、氾濫する川を前にして一旦三浦に引き返そうと言い出す。結局、朝まで待って水が引かなければ引き返すということになった。

 大庭軍は、頼朝軍を石橋山から平場へと引きずり出し、背後の伊東祐親(浅野和之)の軍勢と挟み撃ちにする作戦であった。しかし、三浦が頼朝に加勢すれば大庭軍のほうが逆に挟み撃ちにされる。梶原景時はそれを見越して、翌朝雨がやんで三浦が着く前に勝負を決するべく、その日のうちに出陣するよう大庭景親を促した。

 こうして両軍は治承4年(1180)8月23日夜、石橋山の麓で対峙する。頼朝軍を率いる宗時は、大庭の大軍に勝ち目はないと判断し、三浦が来るまで相手を山までおびき出し、時間を稼ぐつもりだった。そのため、時政が景親を挑発して誘い出す役目を担うも、逆に時政のほうが景親から「平家の御代を揺るがそうと合戦を起こした者は誰だ。カマキリが両手を上げて牛車に立ち向かうようなもんだ」と先に挑発され、我慢できずに兵を出してしまう。

 頼朝軍は、背後から伊東勢の襲撃も受けて総崩れとなり、一気に勝負は決した。りく(宮沢りえ)・政子(小池栄子)・実衣(宮澤エマ)の北条家の女性3人は、合戦前に預けられた伊豆山権現で、頼朝敗退の報を受ける。いつもは気丈な政子がこのときばかりは珍しく動揺したが、継母のりくから「あなたにはやるべきことがあるでしょう」と言われて我に返ると、男たちの無事を祈って妹の実衣と一緒に読経を始めた。そこへりくも加わる。前回、戦勝を仏に祈る政子に、敵もそうしているのだから祈っても無駄と言っていたりくが、このときは読経に加わったことに、事の重大さがさりげなく表れていた。

「あいつは大将の器じゃない」

 他方、八重(新垣結衣)は、合戦前に頼朝と久々の再会を果たしていた。その後、父である伊東祐親が頼朝の背後を襲うと、夫の江間次郎(芹澤興人)から聞くと、頼朝に知らせるべく、次郎の反対を押し切って舟を漕がせ、北条の館に急行する。だが、すでに館はもぬけの殻で、彼女は雨のなか呆然とするしかなかった。八重がこんな行動をとったのは、頼朝と再会してやけぼっくいに火がついたというのもあるのだろう。だが、これによって伊東の家のなかでの彼女の立場が危うくなるのではないかと心配になる。

 当の頼朝は、石橋山での敗戦後、北条父子や安達盛長(野添義弘)、土肥実平(阿南健治)とともに山中の洞窟に身を潜めた。日本画家の前田青邨の作品に、このときの頼朝たちを描いた「洞窟の頼朝」という屏風絵があるが(昔切手にもなった)、そこで描かれた頼朝が再起を期して不敵な笑みを浮かべていたのに対し、『鎌倉殿』の頼朝ははっきり言ってみっともなかった。敗れたのは北条の勇み足が原因とはいえ、「北条を頼ったのは間違いであった」と全責任を負わせようとしたところからして、リーダー失格である。時政が「あいつは大将の器じゃない」と一瞬、頼朝を見限ってしまおうかと義時に打ち明けたのも無理はない(結局、時政は義時からこのまま仲間割れしては敵の思うツボだと説得されて思いとどまったとはいえ)。

 北条家に悲しい出来事が起きたのはこの直後だった。そうなることは、事前に歴史の本で予習していればわかることだし、「兄との約束」という今回のサブタイトルでもほのめかされていたとはいえ、こんなにも早くそのときが訪れるとはちょっと予想外であった。そう、義時の兄・宗時が死んでしまったのである。

 改めて今回の話を振り返ってみると、緒戦の勝利のあとで、宗時が自分は鎌倉に着くまで頼朝のそばを離れないと告げ、義時が心配すると「案ずるな。俺は戦うために生まれてきた男さ」と言っていたり、死亡フラグかと思わせるセリフがたびたび出てきた。

 さらに洞窟に逃げ込んだあと、頼朝が館に置いてきたという本尊を取りに行くため、宗時が外に出たときのこと。宗時は、義時と2人きりになると、武田に援軍を頼むよう念を押したあと、「これはおまえだけに言う」と言いかけるも「いや、やめておこう」と、そのまま立ち去ろうとした。

 宗時は一体何を義時に伝えようとしたのか、視聴者を気にさせながら、彼はそのまま死地に赴く。鎧が体に合わないので取り替えたいという工藤茂光(米本学仁)と一緒に北条の館に向かっていたところ、気がつけば茂光は殺されていた。宗時はそれを確認するや、自身も背後から匕首で刺されてしまう。下手人は、伊東祐親の下人・善児(梶原善)であった。

宗時の夢と北条家の運命

 このあと、再び時を戻し、宗時が言いかけてやめたのを、義時に促されて最後の最後に伝えていたことがあきらかにされる。それは、「俺はな、じつは平家とか源氏とかそんなことどうでもいいんだ。俺はこの坂東を俺たちのものだけにしたいんだ。西から来たやつらの顔色をうかがって暮らすのはもうまっぴらだ。坂東武者の世をつくる。そしてそのてっぺんに北条が立つ。そのためには源氏の力がいるんだ。頼朝の力が、どうしてもな。だからそれまでは辛抱しようぜ」という北条家の嫡子としての所信表明ともいうべき言葉であった。

 宗時の夢がのちのち実現することは間違いないのだが、それは果たして本当に北条家にとってよかったのかどうか。そもそも伊東祐親が善児に宗時の殺害を命じたのは、彼が北条家を引っ張る存在であったからである。北条のリーダーであり、ムードメーカーともいうべき存在だった宗時がいなくなったことは、案外、北条が政権を握ったときにこそじわじわと響いてくるような気もする。もちろん、それはまだずっと先の話。

 余談ながら、『延慶本 平家物語』(『平家物語』の異本の一つ)では、工藤茂光は「太リ大(おおき)ナル男」だったため山に登ることができず自害し、また、宗時は山を下りたところ、早河のあたりで伊東祐親の軍勢に囲まれて射殺されたと記されているという(坂井孝一『鎌倉殿と執権北条氏 義時はいかに朝廷を乗り越えたか』NHK出版新書)。茂光が太っていたという記述をもとに、鎧が合わないことがその命取りになったという設定に変えてみせた三谷幸喜の発想にうならされる。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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