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『鎌倉殿の13人』8話 いざ鎌倉!勝つためなら手段を選ばない義経(菅田将暉)の片鱗も見えた

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』8話。兵を集めた源頼朝(大泉洋)が、源氏ゆかりの地・鎌倉を目指します。源義経(菅田将暉)の合流も近づいているようで、今後の展開の予感に満ちた「いざ鎌倉」(副題)の回を、歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが振り返りながら解説します。

源氏ゆかりの地・鎌倉へ

『鎌倉殿の13人』第8回は「いざ鎌倉」のサブタイトルどおり、房総半島に逃れた源頼朝(大泉洋)が、平家勢力へのリベンジを期して坂東一帯から兵を集め態勢を立て直すといざ、拠点と定めた源氏ゆかりの地・鎌倉を目指した。逃亡時にはこっそり舟で渡ったが、今回は房総半島から陸路を堂々の進軍だ。

 頼朝たちが途中通った武蔵国の江戸湾岸、いまの東京近辺は当時は湿地帯だったというから、進むには結構難儀したと思われる。それでも進軍の様子は、偵察の飛行機や人工衛星のなかった当時でも、沿道の人々の噂などを通じてすぐさま周辺の平家方に伝えられたはずで、頼朝軍の威力を示す格好のデモンストレーションになったに違いない。

 先陣に立ったのは、前回、2万の兵を用意した上総広常(佐藤浩市)だ。もっとも、軍列の順番には腐心したようで、そのために北条義時(小栗旬)は徹夜したらしい。どうもこうした面倒くさい作業はすっかり彼の担当になっているようで、父・時政(坂東彌十郎)を追って出向いた甲斐でも(時政は甲斐源氏の武田信義〈八嶋智人〉に頼朝に加勢するよう説得中だった)、鎌倉に入ったあとを見越して、豪族たちの館の場所や大きさなどを不満を言われないよう思慮しながら選定していた。

畠山重忠(中川大志)はいい男、義経(菅田将暉)は空恐ろしい

 頼朝軍が鎌倉に向かう途中、先の石橋山の合戦では平家方に回り、親戚である三浦氏を襲撃して三浦義澄(佐藤B作)の父・義明を討ち取った畠山重忠(中川大志)が、一転して降伏し、加勢したいと申し入れてきた。

 これには三浦の一党の暴れ者・和田義盛(横田栄司)が反対するが、惣領の義澄はいまは大義のため、恨みは忘れると受け容れる。それでもなお頑なな義盛を見かねて、その場に居合わせた上総広常が「俺たちは頼朝を信じてここにいる。だったら奴(=頼朝)に決めてもらおうじゃねえか」と提案、「それでもとやかく言う奴がいたら俺が相手だ」と頼もしいことを言う。

 だが、ふたを開けてみれば、重忠を自軍に迎え入れた頼朝は、鎌倉のある相模国に入るにあたり彼を先陣に抜擢して、広常はとんだとばっちりを食うはめとなる。それでも重忠を先陣につけた効果は絶大で、沿道では村の女性たちが「いい男だね」とハートをわしづかみにされていた。中川大志をこの役に起用したのもうなずける。

 イケメンぶりをここぞとばかり発揮する中川に対し、菅田将暉演じる義経も今回初めて複数の場面に登場し、花を振りまいていた。義経は頼朝に加勢すべく平泉を発ったはいいものの、富士山に寄り道したり、どうものんきである。ただ、一瞬だけ怖い顔を見せた。それは、食料にするためウサギを矢で射止めたところ、そこへ現れた猟師とどちらが捕ったかで揉めたときのこと。義経は、猟師に矢をどちらが遠くまで飛ばせるかで決めようと申し出た上、相手が油断したところで射殺してしまう。それも屈託なくやってのけたことに、空恐ろしさを感じた。と同時に、勝つためなら手段を選ばない義経の性格は、おそらく今後の合戦で存分に発揮されるのだろうという予感も抱かせた。

「武衛」と呼んではどうか

 第8回ではこのほかにも、今後を予感させるような場面が目立った。頼朝は鎌倉を目前にして、先述のとおり義時に豪族たちの館の場所を決めさせる一方で、自分が政治を行う御所をどこにするか、安達盛長(野添義弘)や合流した弟の阿野全成(あの・ぜんじょう 新納慎也)と話し合う。それを耳にした義時は、先に岡崎義実(おかざき・よしざね たかお鷹)から、御所の場所は、頼朝の亡父・義朝の館跡で、その死後は寺を建てて御霊を祀ってきた亀谷(かめがやつ)にしてほしいと申し出を受けたのを思い出す。だが、義時からこの話を聞いた頼朝は、亀谷は狭い上、自分が豪族たちの言いなりにはならないことを示すよい機会だとして、あっさり却下してしまう。

 頼朝が進軍の途上、自分だけ寺に泊まり、従った豪族たちには野営させたのも格の違いを示すためだったのか。しかし、これには豪族たちもさすがに不満を漏らす。悩んだ安達盛長から三浦義村(山本耕史)が相談を受け、頼朝から野営地に出向いてみなで酒を酌み交わすことになった。それでも上総広常が、頼朝を「佐殿(すけどの)」と尊称で呼ぶのを拒むので、義村は「武衛(ぶえい)」と呼んではどうかと勧める。このとき広常は、中国では親しい者を呼ぶときにこう言うと義村から聞かされたのだが、じつは真っ赤なウソ。実際には佐殿よりもさらに敬う呼び方であった。

史実を裏返す三谷マジック

 頼朝と豪族たちのあいだに隙間風が吹く様子には先が思いやられるが、ともあれ頼朝軍は治承4年(1180)10月6日、石橋山での敗退からわずか1ヵ月半で鎌倉に入った。数日後、頼朝は、伊豆山権現に預けていた妻・政子(小池栄子)が翌日にも鎌倉入りすると義時から知らされるも、少し疲れたから明後日にしてほしいと言う。だが、これも真っ赤なウソで、本当は上総から連れて来た愛人の亀(江口のりこ)と会う約束をしていたからであった。

 そうとは知らない全成は、明後日は庚寅(かのえとら)の日で「庚寅に家移しした家には不幸が訪れると言われております。親子の縁が薄く、主(あるじ)は不慮の死を遂げる」と警告したが、頼朝は暦に振り回されるのもどうかと聞き入れなかった。それにしても、全成の警告は何とも不吉で、源氏と北条氏の行く末が案じられる。

 ちなみに政子の鎌倉入りが1日延びたことは、『吾妻鏡』の治承4年10月11日のくだりにも出てくるが、その理由は「日次(ひなみ)よろしからざるによって(日柄がよくなかったので)」ということになっている。御所の場所に亀谷を選ばなかったという話も、『吾妻鏡』では、初めは頼朝自身が当地に御所を建てようとしたものの、岡崎義実がすでに義朝を弔う寺を建てていたためとりやめたとある。

 このようにあえて史実を裏返して、頼朝のワンマンぶりを強調したところに“三谷マジック”とも言うべき作劇の妙を感じる。先の酒宴で広常が「武衛」と本当の意味を知らないまま口にし、当初は頼朝も機嫌よくしていたのが、その後調子に乗るあまり「みんな武衛だ」などと言い出して変な空気が流れたのも、いかにも三谷幸喜らしい展開だった。

 政子は、頼朝との再会が1日延びた理由などつゆ知らず、弟の義時が報告に来た際、こんなみすぼらしい格好で佐殿に会いたくないと言い出す。これに義母のりく(宮沢りえ)と妹の実衣(宮澤エマ)も同調したため、義時は困り果てる。だが、ここでも義村の入れ知恵で、近隣に住む豪族に女物の着物を借りることになる。ちょうど山向こうには梶原景時(中村獅童)が住んでいた。

 景時は石橋山の合戦では平家方の大庭軍についたが、頼朝が進軍しているあいだに離反していた。義時はそれを本人から聞いて、前回広常の館で会ったときに続き、ここぞとばかり頼朝軍への加勢を頼みこむ。ただ、義時の「佐殿は降伏してきた者に寛大であられます」との一言に、景時が神妙な表情を見せたのが気になった。「降伏」という言葉に引っかかったのか、それともほかに何か思惑があったのか……。あいかわらず感情が読み取りにくい人物である。

謡曲「鉢木」と「いざ鎌倉」

 ちなみに義時との面会時、景時が盆栽の手入れをしていたが、実際に平安末期のこの時代、まだ盆栽という言葉こそなかったものの、すでに鉢などに植えた草木に手を加え、自然美を表現することは行われていたようである。そこで思い出されるのは、義時のひ孫で、鎌倉幕府の第5代執権・北条時頼が登場する謡曲「鉢木(はちのき)」だ。

 今回のサブタイトル「いざ鎌倉」も、直接の出典はこの「鉢木」とされる。旅僧に身をやつして諸国を行脚していた時頼が上野国(こうずけのくに)を訪れた際、大雪に遭って一晩、一軒の貧しい家に泊めてもらう。その家のあるじである佐野源左衛門常世は、相手が時頼とは知らないまま、自分の大切にしていた鉢の木をいろりにくべてもてなし、鎌倉に大事があれば一番に馳せ参じると語った。後日、時頼は、兵の招集に応じて言葉どおり一番に到着した源左衛門を賞して旧領を返すことになる。

 この言い伝えからすれば、頼朝の時代にはまだ「いざ鎌倉」の語はなかったことになるが、それでもそう言いたくなるほど、頼朝の鎌倉入りは早かった。しかも坂東一帯の豪族が雪崩を打つように頼朝方についたことは、平家方の大庭や伊東にとっては想定外であっただろう。一気に劣勢に転じた伊東祐親(浅野和之)は、それでも徹底抗戦を決め込み、館に立てこもった。そこには八重も幽閉されており、祐親なら道連れにしかねない。案の定、祐親の命を受けた江間次郎(芹澤興人)が彼女の背後に迫ると、刀に手をかけた。ついに八重の命運も尽きてしまうのか。そして今回の終盤、頼朝と感動的な再会を果たした政子が、夫の浮気にいつ気づくのか。カウントダウンが始まった──。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

 

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