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お墓の準備より“いまを生きること”が大切!終活「やらない方がいい」リスト

 終活は、生前整理、終活ノート、生前贈与など、何かとやることが多い。いつ来るかもわからないその時のための終活に追われて、疲れ果ててはいませんか。ここで一度立ち止まって、終活をストップしてみるのもいいかもしれません。専門家のアドバイスと「やらない方がいい終活リスト」も紹介します。終活をやめて初めて見えてくる「いまを生きる大切さ」とは、どんなものでしょうか。

終活で“墓じまい“させる詐欺の手口

 最近、恐ろしいことに、終活をきっかけに詐欺被害に遭い、老後資金を失う人が急増しているという。相続・終活コンサルタントの明石久美さんが言う。

「特に近年増えているのは、“墓じまい”をさせて、新しい場所に高額な墓を買わせる業者です。もっと悪質なパターンになると、予約金を先に支払わせ、そのまま姿を消してしまう業者もいる。『残された家族に迷惑をかけないために』と生前に葬儀を予約して本人が支払いも済ませても、亡くなった後に葬儀費用を上乗せして遺族に請求した事例もある。“故人の遺志です”と言われれば遺族は断りにくく、一部費用をもらっていたと説明されれば、そのまま支払ってしまうケースは少なくないのです。おひとりさまをターゲットにした身元保証や高齢者サポートサービスで、“うちに頼めば全部やってあげる”と言って預かり金を出させた挙げ句、持ち逃げする悪徳業者もいます」(明石さん)

「自分はだまされるはずがない」という過信で詐欺に遭いやすい

 深刻なのは、詐欺だと気がついても、だまし取られた金銭が戻ってこないケースが多いことだ。弁護士の堤世浩さんが解説する。

「終活における物価の相場はあってないようなもの。例えば、800万円のお墓を購入させられた人がいましたが、常識的には高額すぎると感じてもお墓の価値をはかるのは難しく、詐欺だとは断定しにくい。弁護士が介入できない事例が多いのです。『投資で老後の資金を貯められる』という詐欺メールにだまされて数万円ずつ振り込んだ結果、トータルで3000万円をつぎ込んでしまったシニアもいます。調べてみると、業者の名前は架空で、メールアドレス以外の連絡先がない。こうしたケースでは裁判を起こすことすらできません」(堤さん)

 仮に裁判で詐欺と認められても、相手に支払い能力がなければ返金されない。終活詐欺に遭いやすいのは、人生経験が豊かであるがゆえに「自分がだまされるはずがない」と自信を持っている人や、周囲から孤立している人だという。

「だまされるはずがないと思っている人は、『防御しなければ』という危機感がないゆえに詐欺に遭いやすい。そのうえ、プライドが邪魔してそれを認めることができず、さらに深みにはまっていく。3000万円を失った人も、自分の判断ミスを認められずに泥沼にはまり、家族が止めても聞く耳を持たなかったそうです」(堤さん)

終活以前の貧乏ばあさん問題

「終活、終活と声高に話す人は多いですが、それよりも前に考えなければならないのは、これから死ぬまでの間、どのように収入を得て社会とかかわり、生きがいを持って生きていくかという設計です。それを通り越して、お葬式のことばかり考えるのは順序が逆じゃないでしょうか」(樋口恵子さん)

 そう話すのは評論家の樋口恵子さん(89才)だ。樋口さんは「すべての終活を否定するわけではない」と前置きしつつ、お墓や葬式の準備よりも、いまを生きることに必死になるべきだと主張する。

「特にいま終活のことを考えているシニア女性のほとんどが、会社を早々に辞めて専業主婦かパートタイマーになっているため、もらえる年金額は男性よりも大幅に少ない。家の名義も夫のものになっている家庭も多く、夫が先立ったら少ない年金で食いつなぐ“貧乏ばあさん”になってしまう恐れがある。まずはしっかりと最期まで生きるための計画を立て、細々とでもいいから仕事を続けること。終活を考えるのはその後です」(樋口さん)

■厚生年金の年齢層別平均受給額

 女性の年金受給額の平均は男性の3分の2ほどしかない。

“身だしなみ”としての終活

 樋口さんが推奨するのは、せき立てられるようにあらゆるものを整理しようとする終活ではなく、“身だしなみ”としての終活だ。

「生きていくための計画のめどが立ったら、最低限他人様に迷惑をかけないため、その人に合った規模で準備をすることは必要だと思います。例えば私は、自分で持ち物を断捨離するのではなく、“形見配分委員会”を発足させ、お任せすることにしました。アクセサリーや洋服がたくさんあるので、“委員会”の人たちの判断で、残したものは売り飛ばすなり、人にあげるなりしてくれたらいい。あとは犬猫の殺処分を減らそうと活動をしている団体や高齢社会をよくするための活動への寄付も多少用意してあります」(樋口さん)

 樋口さんが“身だしなみ”としての終活のお手本としているのは、100才になって亡くなった知人女性の姿だ。

「その人は、押し入れに<○○死に装束>と自分の名前を書いて、気に入った着物から帯までをきちんと揃えていました。彼女のように身ぎれいにして、身だしなみよく旅立つというのは素晴らしいことだと感じます。“終活”という言葉が生まれる以前も、昔の女性は最期に着せてもらう着物を自分で選んで置いておく人が多かったように思います。私の場合は、2003年の東京都知事選で、先日亡くなった石原慎太郎さんに挑んだときに着たスーツ。負け戦だとわかっていたし、選挙後は仕事ができなくなるかもしれなかったけれど、一大決心で立候補した。人生でいちばんの命懸けの戦いでした。着替えさせないでお棺のいちばん上に置いていただけたらうれしいと伝えています」(樋口さん)

 明石さんも、最低限の情報の整理は残された人のために必要だと声を揃える。

「銀行口座や有価証券、保険、不動産、借入金などに関する情報は最低限、家族にわかるように残しておきましょう。相続の手続きでいちばん困るのは、必要なものがどこにあるかわからないこと。財産が多かろうが少なかろうが、こうした情報を残さないのは無責任です」(明石さん)

 ただし、預金残額やパスワードなど詳細を書いてしまうと盗まれたり争いのもととなったりするため、書き方や残し方には注意したい。自分に合った備えをした後は、これからの人生をどう楽しく生きるか考えたい。

きれいに死ぬより幸せに生きるための努力

「生前整理をしたから、洋服を買うのをがまんしているという声もありますが、『欲しい』という気持ちがあるならば、その欲望に従った方がいい。私もおしゃれが好きでずいぶんバーゲンに行ったけれど、いまはもうその気力がない。ヨソの元気なばあさんと服を引っ張り合うにも体力がいるし、いつかはそれもなくなってしまう。欲しいと思ううちに行動した方が幸せに生きられます。私もバーゲンからは遠ざかりましたが、食欲は健在。いまの楽しみはもっぱら“お取り寄せ”です」(樋口さん)

 きれいに死ぬための努力よりも、幸せに生きるための努力が必要なのかもしれない。

「やらない方がいい」終活リスト

 専門家が指摘する「やらない方がいい」終活リストを4つ紹介します。

■過度な物の処分

 思い出の品や、家族が残しておいてほしかったものまで捨ててしまい後からもめるケースも多い。

■墓の購入

「終活詐欺」の温床に。特にお墓は価格相場があってないようなものであり、だまされたとしてもそれを立証しにくい。購入したい場合は、周囲の意見も聞き複数の業者を比較すること。

■老後資金のための投資

 必ず利益が出るとは限らないうえ、入金されると連絡がつかなくなる悪質な業者も。しっかりと経済計画を立てるのは大切だが、「うまい話」に飛びつくのは避けたい。

■綿密すぎる終活ノート

 パスワードや資産総額などは書く必要なし。また終活ノート自体、書いていて後ろ向きになるようであれば、一旦やめてみるのも手。

写真/黒石あみ(本誌写真部)

※女性セブン2022年3月31日号
https://josei7.com/

●終活は万全だったつもりが…死後思わぬトラブルを招いた残念な実例

●終活におすすめ3つの準備| 厚生労働省のリスト、遺書サービス…|金子稚子さん

●菊田あや子さん、人生を豊かにする“前向きな終活”12の方法

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