暮らし

老人ホームの「食事内容」は利用料や食費でどう変わる?3つのランクで比較

 高齢の親のために老人ホームを選ぶとき、大切なのは日々の楽しみとなる「食事」だ。子供が親に変わって施設を選ぶときは、食事の内容についてもチェックしておきたい。施設の利用料金からわかる食事のクオリティーについて専門家に聞いた。

食事は心を豊かにし、生きる楽しみも増やしてくれる

「老人ホームの食事は、単に栄養を摂るだけでなく、心も豊かにしてくれるものです」と、老人ホーム検索サイトを運営する「LIFULL介護」編集長の小菅秀樹さんは語る。

「その土地の料理を食べたとき、昔の記憶が蘇って笑顔になったということも。また、しっかり食事をとって体力が戻ると、『また旅行に行きたい』『登山に行けるようにリハビリを頑張る』など、生きる目標ができることもあります。イベント食として全国の郷土料理が提供されることもあり、みんなで食べることで『昔、家族で行ったことがあるのよ』といったコミュニケーションづくりのきっかけにもなります」と、小菅さん(以下同)。

→親の介護施設選びは「食事」に注目!見学するときにチェックすべき8つのポイント

 食事が楽しければ、自然と笑顔も生きる楽しみも増える。食事面をしっかりチェックして老人ホームを選びたいが、現実的には料金も気になるところ。そこで、老人ホームの利用料や食費でどんな食事の内容になるのか、小菅さんに教えてもらった。

 以下で、食費を3ランクに分け、食事の内容を比較。施設の利用料(月額)は入居一時金などによって変動するため、あくまで目安の価格となる。

【1】食費5万円前後(月額15万円)「料理の質も向上中」

どんな施設?

「最近は、都内でもこの価格帯の有料老人ホームが増えてきました。15万円といえば、年金に1~2万円プラスすれば現実的な価格帯ですよね。

 今、特養(特別養護老人ホーム、公的な介護保険施設)の個室は、月10~14万円程度なので、特養の入居待ちが多く、すぐに入れそうもなければ、月15万円程度の有料老人ホームを選ぶのも手。こちらに入居しつつ、特養を申し込む方法もあります」

食事の内容は?

「月15万円クラスの施設でも、ここ数年で食事内容は向上していると思います。食事にも季節食を取り入れていますし、以前のおやつといえば、スナック菓子や缶詰のフルーツということもありましたが、最近は、手作りのおやつを提供する施設も増えてきています。

 また、厨房は給食会社に外注しセントラルキッチン方式(給食センターで概ね調理され、施設の厨房で仕上げて提供する)の食事でコストを抑えながら美味しい食事を提供する施設も。

【2】食費~8万円(月額20万円)「主食やメインが選べて飽きない食事を楽しめる」

どんな施設?

 一般的な有料老人ホームがこの価格帯。基本的には、上記の【1】とあまり変わらず、むしろ価格の差は食事内容の差にあるといえるでしょう。

食事の内容は?

「利用料が月20万円を超えると、“セレクト食”が選べる施設が増えます。毎食、AとBの2種類から選ぶシステムです。『主食がパンかご飯か』だけでなく、『洋風か和風か』などのメニューから選べるのが最近のトレンドです」

「このクラスになると、イベント食も楽しみのひとつ。出張でプロの料理人による揚げたての天ぷらが食べられたり、お寿司を目の前で握ってくれたり、イベントとして料理を楽しめます。

 とくに最近は、入居者の間で“スイーツブッフェ”も人気。各施設それぞれアイデアを出して『食事で飽きさせない』工夫をしています。また、1人あたりのスタッフ数も少し増えて食事をサポートしてくれます」

【3】食費8万円以上(月額30万円以上)「コース料理も楽しめる」

どんな施設?

「いわゆる高級高齢者施設です。建物や施設がホテルのように豪華だったり、医師が常駐するなど医療サポートが整っていたり、イベントが豊富であったりと、内容充実。そして何より、食事内容が充実していることも大きな特徴です」。

 ちなみに記者が取材したところ、余裕のある人のなかには60代からこのタイプの施設に入居し、そこでの生活を楽しみながら仕事に通うという、新たな形のシニアライフを送っている人もいた。

食事の内容は?

「利用料が月30万円を超えるハイクラスの老人ホームは、ダイニングレストランが独立形式という場合が多いですね。一般的な老人ホームでは、ダイニングスペースと多目的ホールを兼ねていることが多いんです。

 施設によっては、その場でメニューから食べたいものを選べるようになっていて、家族や友人が訪ねてきたときも、一緒に食べることができる。まさに、レストラン感覚で食事が楽しめるんです。

 事前予約しておけばコース料理を特別室で食べられたり、離れで鉄板焼きを楽しめたりと、施設にいながら非日常も楽しめます」

●価格別・食事の特徴

食費の目安:5万円前後 月額利用料の目安:15万円前後

・利用者は基本的に同じメニュー(ただしソフト食やムース食、アレルギーなどの対応は可能)

食費の目安:~8万円 月額利用料の目安:20~25万円

・ご飯かパンを選べる ・和風・洋風など種類を選べる ・イベント食が充実 ・スイーツブッフェなども

食費の目安:8万円~ 月額利用料の目安:30万円~

上記に加えて ・独立したレストラン形式 ・外部からのシェフによる料理 ・コース料理(予約制) ・その他施設ごとに工夫あり

※全てコロナ感染状況により変更あり。

***

「多くの老人ホームでは厨房管理を外部の給食会社に委託し、セントラルキッチン方式で味の均一化や効率化を図っています※。

 入居者に食事のアンケートを定期的におこない質の改善に努めています。改善がみられないと別の給食会社に変更される事もあります。

 各社限られた予算で、美味しい食事を提供するよう努めています。施設選びでは入居することが目的となり食事は後回しにされてしまいがち。入居するご本人のためにも見学の際はぜひ試食をし、食事のこだわりについても尋ねてみてくださいね」

※老人ホームは厨房運営全てを外部の給食会社に委託します。厨房スタッフも給食会社の職員で構成されています。

教えてくれた人

小菅秀樹さん

小菅秀樹さん

「LIFULL介護」編集長。老人ホーム紹介業で主任相談員として1500件以上の施設入居相談に対応を経て現職に。最近は「離れて暮らす親の介護」を中心に、オンラインセミナーも実施。
https://kaigo.homes.co.jp/ Twitter:@kosugehideki

●介護用品や福祉用具はレンタルがおすすめの理由 介護保険対象の品目や活用方法を解説

●感染予防を徹底している「サ高住・住宅型老人ホーム」10選「“認知症だから”と諦めない」

●介護士がやってはいけない話し方4つ|僕が老人ホームで実践していた“声かけ”のコツ

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