暮らし

「87才で訪問介護員、週3で4万円のラクな働き方」実例に学ぶ主婦力をお金にかえる仕事術

 コロナ禍によるリストラ、加えて、相次ぐ物価の上昇に「仕事もなくし、老後のための貯金どころじゃない!」と嘆く人も多いだろう。しかし、打つ手はある。主婦として培った力や経験を生かし、現役で働いている女性の“働きざま”をお手本にしてほしい。先輩のエールを胸に、一歩前に踏み出してみよう。

“プチ起業”する主婦が急増中

「経済状況が悪化しているいま、わずかな貯金と年金では老後が不安。働けるうちは働こう。それも、自分のスキルを生かした仕事で稼ぎたい──と考え、中には“プチ起業”する主婦も増えています」

 こう話すのは、お金の専門家・菅井敏之さんだ。

 コロナ禍のいま、飲食店などでのパートはリストラの懸念がある。どこかに就職しようと考えても、資格や職業経験がないため、受け入れてもらえないかもと、二の足を踏む主婦も多い。しかし、主婦であるということがすでにスキルの宝庫であり、それを生かした仕事は多数ある。

「起業というとハードルが高そうですが、“プチ起業”とは、家事を代行したり、スマホの使い方を近所の高齢者に教える(スマホコンサルタント)など、いまあるスキルを生かして個人でできるものが多いんです。自分が住む地域でどんな困りごと(需要)があるか、隣人たちと雑談しながらニーズを引き出すことで、自分にしかできない仕事を見つけられます」(菅井さん)

 ただし、継続して収入を得られるかどうかはやり方次第。実例をもとに稼ぎ方を学ぼう。

介護経験を生かし73才で再就職

 73才で旧ヘルパー2級(現・介護職員初任者研修)、76才で介護福祉士、80才で介護支援専門員の資格を取得。現在は87才にして、週3回、1日1時間、訪問介護の仕事を続けている女性がいる。それが、大阪に住む千福幸子さんだ。

「うちは自営業でしたから、これまでずっと休みなく働いてきました。だから、いまがいちばんラクなくらいです」

 こう言って笑う千福さんは、24才で結婚後、夫が営む板金工場で事務を始めた。3人の子供を育て上げた後は、家業に加え、薬剤師になった長女(当時26才)と長男(当時22才)が経営する薬局の仕事も手伝うように。このとき、千福さんは60才になっていた。

「60代は、工場と薬局の二足のわらじで、それまで以上に休みなく動いていました。工場には職人がいますから、彼らのお世話も私の仕事。洗濯に炊事、問題が起きたら解決に奔走したり、支払いの段取りをしたり…。ですから、人のお世話をするのは慣れたものです(笑い)」

 そんななか、2002年に千福さんの夫が脳出血で倒れる。1年半の介護を経て、72才で夫が他界。家業の工場を閉鎖したのは、69才の頃だったという。夫も工場もなくなり、突如ぽっかりと時間が空いてしまった千福さんに、子供たちはこう声を掛けた。

 これからはお母さんが好きなことを、好きなようにしたらええ──。

「この言葉で、肩の荷がおりました。でもその3年後、子供たちが営んでいた薬局も閉業になり、自由を楽しむ、だなんて言っていられなくなりました。国民年金はわずかですしね。まだ元気だからと、72才で仕事探しを始めました」

 ところが、役所でもシルバー人材センターでも年齢を理由に断られ、就活は困難を極めた。そこで、夫の介護経験を生かし、介護関係の資格を取ることにした。これが転機となった。

「受講中に知り合った女性が介護タクシーの仕事を始めて、スカウトしてくれたんです。月~土曜日の週6日、朝と夕方、透析患者さんが自宅と病院を往復する際に同乗して介助をする仕事です。“同乗して手伝うくらいならなんぼでもできるわ”と、快諾。その翌日、夫の介護の際にお世話になった介護サービスの会社からも声を掛けてもらい、ヘルパーとして2つの仕事を掛け持ちすることになりました」  

 2つの仕事を得られ、多いときで月10万円以上も給料がもらえるようになった。

「家業も子供たちの薬局もタダ働きでしたから、とてもありがたかったですね(笑い)」

やってきたことすべて役に立っている

 現在は介護タクシーを辞め、週3回の訪問介護に絞っている。月収は月4万円程度だ。

「訪問介護では、私が来るのを待ってくれる人がいる。温かいタオルで体をふくと、“気持ちいい”と喜んでくれ、その人のご家庭の味に似せた煮物を作ると、“やっぱりうまいなあ。お母ちゃんの味や”と感激してくれる。“あんたがそばにいてくれるだけでいい、話を聞いてくれるだけでいい”と言ってくれる人もいます。炊事、掃除、洗濯、そして薬局のお客さんの話し相手。これまでやってきたことがすべて、いまとても役に立ち、喜ばれている。経験してきたことで損することは何ひとつないと実感しました」

 まだまだ働きたい気持ちはあるが、利用者の気持ちを考え、セーブしているという。

「90才近いヘルパーにおむつを替えてもらいたい利用者さんがどれだけいるかと思うと、引きどきも考えます。とはいえ、働く意欲はまだありますから、訪問介護に限らず、何らかの形で喜んでもらえることがないか考えています」

 87才の挑戦はまだまだ続く。

【プロフィール】

千福幸子(せんぷくゆきこ)さん(87才)/訪問介護員。24才で結婚後、夫の工場で事務や職人の世話をしながら3人の子育てに奔走。60才からは、長男・長女が経営する薬局を手伝う。夫の介護を1年半続け、その経験を生かして、現在は訪問介護を行う。

教えてくれた人

■お金の専門家・菅井敏之さん/三井住友銀行で支店長を務め、48才で退職後は、銀行やアパート経営の経験と知識を生かして講演活動などを行う。近著に『新・お金が貯まるのは、どっち!?』(アスコム)がある。

取材・文/桜田容子

※女性セブン2022年7月7・14日号
https://josei7.com/

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この記事へのみんなのコメント

  • よなよな

    子供たちの薬局の手伝いが無償って、、、、、

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