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『鎌倉殿の13人』28話 梶原景時(中村獅童)危うし!義時(小栗旬)に譲った恐ろしい置き土産

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』28話。27話で二代目鎌倉殿・頼家(金子大地)を補佐するという名目の13人の宿老が決定したばかりだが、案の定、いざこざがおさまらない。梶原景時(中村獅童)への不満が御家人たちから噴出、知恵者も運命に翻弄されていく。頼家の暴走は止められないのか?「鎌倉殿と十三人」(副題)の回を、歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが、歴史書を紐解きながら考察します。

早くも脱落者が

『鎌倉殿の13人』第28回では、前回、鎌倉殿となった頼家(金子大地)を補佐する名目で訴訟取次を行う13人の宿老が決まったばかりなのに、早くも脱落者が出た。

 第1号は前回の予告でほのめかされていた梶原景時(中村獅童)……ではなく、朝廷との交渉役を務めてきた文官の中原親能(川島潤哉)であった。といっても失脚したわけではない。頼朝と政子の次女・三幡(東あさ美)が病気のため14歳の若さで亡くなり、乳母父だった親能は悲嘆に暮れ、これを機に出家して鎌倉を離れたのだ。とはいえ、ここにはちょっと創作が含まれる。そもそも史実では、親能は13人衆に選ばれた建久10年(1199)4月には在京中で鎌倉にいなかった。それが6月(このときには改元して正治元年)、三幡の容態が悪化し、京から来ていた医者も治療を辞退した頃、鎌倉に戻ったのだ。

 親能が宿老13人に選ばれたとき鎌倉に不在だった事実は、実際には彼らが一堂に集まって評議したことはなかったという証拠のひとつにも挙げられる。史料にも、13人による評議が行われたことを示す記述はないという。それでもドラマのなかでは、あくまで評議はあったものとして描かれる。今回の冒頭のシーンだ。

 13人による体制が成立後初めての評議で取り沙汰されたのは、常陸の御家人兄弟による土地争いであった。しかし、宿老たちは北条時政(坂東彌十郎)と比企能員(佐藤二朗)がそれぞれ派閥を形成し、訴訟人について互いに近しいほうの肩を持つので一向に話はまとまらない。そのなかで常陸が地元である八田知家(市原隼人)が、思い出したように重要な事実を述べた。過去の文書でもそのことは確認され、これにて一件落着かと思われたが、両派はなおも対立。双方が矢継ぎ早に発言するため、書記役の親能の筆も追いつかない。とうとう梶原景時がたまりかねて、これでは評議にはならないと、今回の件は頼家には伝えず、いま一度やり直すと言って打ち切った。

 13人による評議が史料で確認できないのは、何らかの事情から満足な記録も、頼家への取次もなされなかったがゆえ……と作者の三谷幸喜は解釈して、この場面を設けたのではないか。

頼朝譲りの女好き

 一方、宿老たちに対抗して頼家が集めた6人の若い御家人衆は、鎌倉中を見回り、道の掃除や迷い犬の飼い主探しなどをしているらしい。いずれも良い行いではあるけれど、政務というよりはボランティアである。政子(小池栄子)にも「かわいらしい」と言われてしまっているし、宿老に対抗するにはどうも無理を感じてしまう。

 そのなかで先述のとおり三幡が亡くなる。頼家は狩りに出かけており、妹の死に目には会えず、帰ってくるや政子からあなたはいつもそうだと責められる(たしかに頼朝が落馬したときもそうだった)。それでも彼は、三幡の入内は果たせなかったが、自分がその手で朝廷と結びついて政権を揺るぎないものにしてみせると誓った。

 頼家はそんなふうに頼もしさを見せる反面、頼朝譲りの女好きからひと悶着を起こす。ゆう(大部恵理子)という人妻と関係を持ったあげく、その夫である御家人・安達景盛(新名基浩)に彼女を譲れと迫ったのだ。

 非道な申し出に景盛は恐懼しながらも拒み、彼の父親で頼朝の側近だった盛長(野添義弘)もこれだけは承服するわけにはいかないと突っぱねる。頼家は激怒し父子の首をはねるとまで言い出したところで、政子が義時をともなって現れる。事前に義時の息子で6人衆のひとりである頼時(坂口健太郎)から相談された景時が手を回していたのだ。おかげで頼家は、政子から「いいかげんに目を覚ましなさい」と説得され、さらには義時にも盛長ほど頼朝に忠義を尽くした者はいないと、「こんなことで首をはねるなど許されることではありませんっ!」と一喝され、引き下がるをえなかった。

 こうして景時の機転で頼家の暴走は食い止められた。彼の抜かりなさはやはり鎌倉に必要だと改めて感じさせた一幕であった。だが、この一件で頼家との関係にひびが入る。それと同時に、そのころ、景時をめぐり不穏な動きが生じていた……。

梶原景時(中村獅童)危うし

 事の発端は、義時の妹・実衣(宮澤エマ)が琵琶の指南役である結城朝光(高橋侃)からある悩みを打ち明けられたことだ。朝光が語ったところによれば、彼は仁田忠常(高岸宏行)と雑談中、うっかり頼家の不甲斐なさを嘆き、「頼朝殿にはもっと生きていてほしかった。忠臣は二君に仕えず」と口走ったのを、景時に知られてしまったという。おかげで彼は謀反の疑いをかけられ、目下、謹慎中であった。

 景時はさらに朝光を死罪にすべく、訴状を頼家に提出すると言い出す。それは、先の安達との一件で頼家への信用が損なわれたので、御家人たちを引き締めるべく見せしめとしてひねり出した策だった。

 朝光を危機から救うべく実衣は義時たちに相談すると、三浦義村(山本耕史)が、景時に不満を持つ御家人たちを募って、彼の処分を頼家に求めてはどうかと言い出す。実衣は義村にうさんくささを感じ、「この人で人数が集まる?」と心配するが、義村は自分は裏に回ると言ってさっそく動き出す。これに対し義時は、あまり大事にはするなと、4~5人集めればいいと釘を刺したが、その願いに反して、御家人たちは義村の呼びかけに応じて次々と署名し、ついには67人にまで膨れ上がってしまう。先の13人衆が決まったときと同じパターンだ。

 名を連ねたなかには、前回、義村から「もうすぐ死にます」と陰口を叩かれていた千葉常胤(岡本信人)もいた。常胤は高齢ながら今回の呼びかけにすっかり発奮し、「危うくお迎えの支度をするところであったわ」と、景時と一戦を交えることもいとわないと意欲を示す。これに対し、土肥実平(阿南健治)のように鎌倉がバラバラになることを恐れ、異を唱える者もいたとはいえ、大勢は景時を弾劾する方向へと傾いた。

 しかし、弾劾状の提出前に、当の景時に感づかれてしまう。ここから、万が一頼家と景時が結託したらまずいことになると、最初に署名した時政が妻・りく(宮沢りえ)の意向を受けて離脱。肝心の弾劾状も、大江広元(栗原英雄)が景時を不憫に思って頼家への提出を渋っていたが、反景時派の急先鋒である和田義盛(横田栄司)――彼は侍所の別当の座を景時に奪われていただけに恨みは深かった――に「これだけ多くの御家人の声を封じ込めるおつもりか」と押し切られる。

 こうして景時に御所で裁きが下される日が訪れる。彼が私欲で動く人間ではないことをよく知る政子と義時は、行くことはない、頼家にはこちらから話をしておくと引き止めたが、「鎌倉殿は賢いお方。それがしを手放すようなことはけっしてございません」と申し出を断った。しかし、景時の自信は見事に裏切られる。頼家は、朝光の処刑を求めた景時の訴えを退ける一方で、御家人たちの訴えは認め、景時の役目を解いたうえで、謹慎を言い渡したのだ。朝光を見せしめに処刑するよう主張していた景時だが、逆に自分がその立場に追い込まれた格好である。

「己の道を突き進め。置き土産じゃ」

 そんな鎌倉でのゴタゴタを京の後鳥羽上皇(尾上松也)がいち早く聞きつけると、土御門通親(関智一)に景時を朝廷に誘ってみるよう命じた。上皇の狙いはもちろん鎌倉を分断することにあった。だが、あれだけ抜かりのなかった景時が、このときばかりは上皇の策にまんまとはまってしまう。謹慎中に館へ訪ねてきた義時にも、上皇から誘いがあり、それを受けるつもりでいることをうっかり漏らしてしまった。義時から「行ってはなりませぬ」と止められ、ふいに涙ぐんだのもいつもの景時らしくなかった。

 上皇に誘われた話はすぐに頼家の耳に入り、景時はさらなる追及を受けた。そこで頼家に「忠臣は二君に仕えず」という例の言葉を持ち出された景時は、「この鎌倉に忠義を誓わぬ者はおらぬ!」と、最終的に奥州の外ヶ浜(青森県の津軽半島)への流罪が決まる。

 年が明けて正治2年(1200)正月、景時が思いがけない行動に出た。比企氏が預かる頼家の息子・一幡(まだ乳児である)を人質にとって、自分の息子たちと館に立て籠ったのだ。能員の通報を受けて義時が駆けつけると説得にあたる。このとき、景時は上皇からの誘いの件を頼家に伝えたのが義時だと気づいており、なぜそんなことをしたのかと逆に問いただした。義時はこれに、あなたが京に行けば鎌倉殿は必ず討ち取ろうとし、そうなれば朝廷との争いの火種になりかねないからだと説明した。加えて義時が口にした「鎌倉を守るのが私の役目」とは、景時がこれまで忠実に担ってきたものでもある。

 ようやく自分の不覚を悟った景時は、一幡を解放する。と同時に外で待機していた兵士たちが一斉に刀を向けるが、義時が制止した。景時はこれから流罪先の外ヶ浜に向かうと告げると、再び義時に問うた。「小四郎殿。そなたは上総介広常の前でこう申した。我らは坂東武者のために立ち上がったのだと。源氏は飾りにすぎぬと。忘れてはおらぬな?」。これに義時が無言でうなずくと、さらに「己の道を突き進め。置き土産じゃ」「おぬしに譲る」と言って何やら差し出す。それは彼の懐刀の善児だった。

 義時は黙って景時を見送ったあと、彼はきっと京に向かうと察して、息子の頼時にすぐに兵を整え、東海道で討ち取るよう命じた。義時は気づいていた。「梶原殿は華々しく戦で死ぬおつもり。武士らしくな」と。実際、彼は京に向かう途中の駿河で一族もろとも討ち取られたのである。

 今回のラストシーンでは景時からいまひとつ「刀は斬り手によって名刀にもなまくらにもなる。なまくらで終わりたくはなかった」との名言も飛び出した。これについては斬り手=景時と解釈する向きもあるだろうが、「なまくらで終わりたくはなかった」と彼自身が言っている以上、ここは刀のほうを景時ととるのが妥当ではないか。とすれば、これ以上の自負の言葉があろうか。さらにいえば「なまくらで終わりたくはなかった」の一言には、このままでは自分は終わらないという意味もほのめかされていたはずである。であればこそ、それを聞いた義時は、彼が外ヶ浜ではなく京に向かうつもりだと勘づいたのだろう。

三谷幸喜の想像力

 景時の追放劇については『吾妻鏡』をはじめ複数の史料が伝えるところである。それらと今回の話を突き合わせてみると、三谷幸喜が史実を踏まえつつ、ところどころで想像も交えながら、いかに巧みにこの事件を再構成したかがわかる。

 そもそも事件の発端となった結城朝光が処分を受けたことについて、劇中では朝光本人が実衣に伝えていた。これが『吾妻鏡』ではまったく逆で、景時が朝光の発言について頼家に告げ口したため処刑が決まったと、御所で耳にした実衣(ここでの名前は「阿波局」)が朝光自身に伝え、さらに朝光はこれを受けて親友の義村に相談し、ここから弾劾状を出すことになったというふうに記されている。

 劇中ではさらにややこしいことに、朝光が実衣に相談したのは、じつは景時の追い落としを謀った義村があらかじめ朝光を誘って仕組んだものとして描かれていた。おそらく義村は、朝光が悩みを打ち明ければ、実衣は必ず御家人たちに助けを求めてくるものと見越したのだろう。義村が最初から表立って動くよりは、たしかに彼女にきっかけをつくってもらったほうが疑われずに済む。義村は計画が思い通りに運んだあとで、朝光に褒美を渡すと「そんなに梶原殿が憎いですか」と訊かれた。これに対し彼が「別に。ただ、あいつにいられると何かと話が進まないんでね」と何やら意味深長なことを言っていたのが気になる。

 このほか、弾劾状に時政の名前がないのは事実だが、その理由は謎とされてきた。これをドラマでは、妻のりくの機転で、時政が不測の事態により疑われるのを回避すべく、あとからでも削除できるよう、あらかじめ端っこに署名させておいたというふうに描かれていた。そのアクロバティックな解釈に、劇中の義村の「あんた、やるな」とのセリフをそっくり三谷幸喜に返したくなる。

 先にとりあげた「13人の合議は実際にはなかった」説にしてもそうだが、実在しなかったことを証明するのは、「悪魔の証明」といって事実上不可能とされる。しかし、物語作者はそれも想像力をもって軽々と飛び越える。今回はその好例といえる見事な展開であった。

→『鎌倉殿の13人』他の回のレビューを読む

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある

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