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『鎌倉殿の13人』29話 暴君化する頼家(金子大地)を呪う人、支えたい人

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』29話。大物たちの死があいつぎ、頼家(金子大地)は「これからは好きにやらせてもらう」と言い始め、御家人たちの揉め事が絶えない裏で、頼家を呪詛する企みまで進行して……。「ままならぬ玉」(副題)の回を、歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが、歴史書を紐解きながら考察します。

有名無実化する合議制

 前回(第28回)、頼家(金子大地)から謀反の疑いをかけられたあげく、鎌倉から京に逃れようとした梶原景時(中村獅童)は、今回の冒頭ではすでに討たれたあとだった。ときに正治2年(1200)1月20日。わずか3日後には、すでに病床にあった三浦義澄(佐藤B作)も亡くなる。さらに安達盛長(野添義弘)も4月26日に死去。鎌倉幕府の宿老13人のうち、じつに3人が数ヵ月のうちに亡くなったことになる。ついでにいえば、劇中には出てこなかったものの、このあと6月には、源範頼の失脚後に出家して鎌倉を離れた岡崎義実も没している。時代の曲がり角を象徴するように大物たちの死があいつぐ。いや、大物たちの死があいつぐからこそ時代の曲がり角なのだと言うべきか。

 宿老13人の合議制はメンバーのあいつぐ死、なかでも要であった景時を失ったことで、早くも有名無実化する。義時(小栗旬)は、景時が死んだ時点で、今後は比企と北条が否が応でもぶつかることになると見て、そのあいだに立って丸く収めるのが自分の役目だと、息子の頼時(坂口健太郎)に話していた。

 義時の予想どおり、比企能員(佐藤二朗)はひそかに北条を出し抜くべく頼家に取り入ろうとする。だが、頼家は「これからは好きにやらせてもらう」と言い出し、ならば「この比企が支えまする」と能員が申し出ても聞き入れない。慌てた能員は「鎌倉殿のために申し上げておるのです!」「比企能員に万事お任せあれ。そのうえでお好きになさるがよろしい」と念を押すのだが、かえって頼家の不信を買うことになる。

 一方、能員と対立する北条時政(坂東彌十郎)は、義時と政子(小池栄子)の取りなしで、朝廷より遠江の国主に任じられる。源氏一門以外の御家人が国主になるのは時政が初めとあって、彼と妻のりく(宮沢りえ)はこれで比企にようやく一矢報いることができると大喜びであった。これに対し義時は、父上を国主に推したのは、御家人に範を示し、鎌倉を守っていただきたいからだと釘を刺し、政子も「比企がどうのとか、もう忘れてください」と忠告する。もっとも、浮かれる時政には何を言っても無駄のようであった。

頼家を呪詛!

「好きにやらせてもらう」と宣言した頼家はさっそくそれを実行に移す。宿老たちが陸奥国の僧侶たちの土地争いについて評議していたところ、突然割り込んできて、土地の絵図の真ん中に筆で線を引いたかと思うと、「所領の広い狭いなど所詮、運である。そもそも僧の身で欲深いとは片腹痛い」と言い放ったのだ。これには畠山重忠(中川大志)が、神仏に仕える者の訴えをぞんざいに扱うと天の怒りを買いかねないと諫めたが、頼家は「望むところよ。今後、所領のことはわしが調べて処断する」とまったく意に介さない。

 揉め事の火種はなおも尽きない。頼家の正室・つつじ(北香那)が男児を出産し、善哉(のちの公暁)と名づけられる。喜ばしいことではあるが、頼家にはすでに側室のせつ(山谷花純)とのあいだに一幡という子供がいた。能員はその乳母父だけに、善哉の誕生を表向きは祝いつつも、頼家の嫡男はあくまで一幡だと義時に改めて訴えたのだ。これに対し義時は、頼朝の意向では、つつじに男児が生まれた場合、そちらが嫡男ということになっていると説明したものの、もちろん能員が受け入れるわけもない。

 時政も時政で比企の思うがままにはさせまいと、りくの入れ知恵で、とんでもない計画を立てる。娘婿の阿野全成(新納慎也)を呼ぶと、ある人物を呪詛するよう依頼したのだ。その人物とは能員……ではなく、何と頼家だった。それを聞いてさすがに時政も驚愕するが、りくは「もちろん命を取ろうとは思ってません。しばらく病に伏せっていただければよいのです」としれっと言ってのける。全成も時政から、頼家の跡を継ぐのは千幡(全成は彼の乳母父)だと迫られては断れなかった。妻の実衣(宮澤エマ)にも秘密にしたまま、さっそく呪詛に使う人形を何体もつくっては頼家の名を書き入れていく。

 頼家はまさか自分が呪われているとはつゆ知らず、頼時やその叔父の時連(瀬戸康史)ら近習と蹴鞠に汗を流す。ただ、折しも坂東中が風水害により不作に苦しんでいた時期だった。さすがに頼時が心配して、ほかにやることがあるのではないかと訴え出るも、頼家は例によって聞く耳を持たない。

 ちょうどそのころ、頼時は父・義時から伊豆に行くよう命じられる。伊豆では、百姓たちが食べる米がなく、借りた米(種もみとして貸し出されたもので、収穫時に利息とあわせて返す必要があった)も返せず、土地を捨てて逃げ出す者もあとを絶たないという。頼時はその解決を任されたのである。果たして彼は、口々に苦境を訴える百姓たちを前に悩んだ末、彼らの借金の証文を破り捨てたうえ、鎌倉から米を届けさせると約束した。何とも大胆な策だが、これが評判をとる。

 だが、頼家には、頼時が評判をとるのがどうも気に入らない。そもそも頼家は以前より、何かにつけて忠告してくる頼時が煙たく思われた。そこで伊豆での成果に対する褒美と称して、頼時には新たに「泰時」の名を与え、近習のメンバーから体よく外してしまう。

 当の頼時は、頼時の「頼」は頼朝様の「頼」でもあると不満を抱くが、頼家から名前を賜ったとあっては歯向かうことができない。伊豆からはまた、「おなごはキノコ好き」という義時の事前のアドバイスに従い、幼馴染で三浦義村の娘・初(福地桃子)への土産としてキノコをどっさり持ち帰ったものの突き返されてしまい、まさに踏んだり蹴ったりであった(それにしても、若き日の義時が八重に猛アタックを繰り広げたときのキノコの話が、まさか息子の代まで引き継がれるとは……)。

きっかけは、せつの言葉

 頼家はなおも横暴を極める。西国から鎌倉に流れてきた念仏僧たちを、民をたぶらかす不埒者とみなし斬り捨てるよう命じたのだ。これには、それまで頼家にずっと従ってきた時連もさすがに見かねて制止する。頼家は「おまえも所詮は北条の手先か」と反発するが、結局、「(天罰により)お子たちに何かあってもよろしいのですか!?」と時連に言われてようやく引き下がり、僧たちへの処分は衣をはぎ取り、鎌倉から追放するまでにとどめた。

 このとき、「鎌倉殿を案じて申し上げているのです」と述べた時連に対し、頼家が言い放った「また出た。皆同じことを言う。わしのためと称して腹にあるのは己の家のことだけではないか!」とのセリフからもうかがえるように、彼の一連の横暴の根本には周囲への不信感があった。

 しかし、そんな彼にも変化が訪れる。きっかけは、せつの言葉だった。彼女は、善哉のもとへ向かう頼家の前に立ちふさがると、たまには自分と一幡にも会いに来てくださいと訴え出たのだ。頼家はそんなせつを、おまえの後ろにいる比企が煩わしいと退けようとするが、彼女はなおも「嫡男は善哉様で結構。私はただあなた様とお話がしたいのです。私と一幡をおそばに置いてほしいのです。比企はかかわりございません!」と懇願すると、「そういう者もおるのです。それも退けては鎌倉殿は本当におひとりになってしまいます」「鎌倉殿をお支えしとうございます」と頭を下げたのだった。

 その後、朝廷より征夷大将軍に任じられてからも、頼家はずっと考えていたのだろう。ある晩、井戸のそばで蹴鞠の稽古中、訪ねてきた義時と話をするうち、「頼朝様は人を信じることをなさらなかった」「お父上を超えたいのなら、人を信じるところから初めてはいかがでしょう」と諭されると、急に思い立つように、一幡を跡継ぎにすると打ち明けた。精神的に強く、自分を信じてくれるせつとなら鎌倉をまとめていけるような気がする――というのがその理由であった。

 頼家はこれを機に、もう蹴鞠に逃げることはしないと指南役の平知康(矢柴俊博)に告げると、鞠を彼に向かって投げた。このとき、思いがけない事件が起きる。知康が鞠を受け取りそこねた拍子に井戸に嵌まってしまったのだ。頼家と義時はどうにか近くに縄を見つけ(「何か縄のようなものはないか探せ」「縄のようなものはないが縄があったぞ」という頼家のセリフには笑った)、それで知康を引き上げようとするのだが、逆に引っ張られて頼家まで井戸に落ちてしまう。

 そこへ現れたのが、呪詛のため頼家の髪の毛を採取すべく物陰でずっとタイミングをうかがっていた全成だ。彼が義時に手を貸してくれたおかげで、ようやく二人は引き上げられた。このとき全成は、助けた頼家に「改めて見ると叔父上はやはり父上に似ておられますな」「まるで父上と話しているようです」と言われ、すっかり反省する。翌日、御所の床下に並べた人形を回収すると、実衣にもすべてを打ち明けた。

不穏なラスト

 今回は、土地争いの評議への乱暴な介入や念仏僧への仕打ちなど、『吾妻鏡』で伝えられる頼家の暗君ぶりが一気に描かれた回であった。頼家が泰時(頼時)に忠言されて機嫌を損ねたという話も、その元となったと思われる記述が『吾妻鏡』の建仁元年(1201)9~10月のくだりに出てくる。そこには、飢饉のなかでも蹴鞠を続ける頼家に対し、泰時が彼の近習を介して忠告したところ、怒りを買ったとある。そのため泰時は、心配した近習の僧からほとぼりが冷めるまで病気と称して伊豆に在国するよう勧められたという。ただ、このとき彼はすでに伊豆に下向する用事があった。ドラマにも出てきた、飢饉のため米が返せない者たちのため、泰時が証文を焼き捨てた(劇中では破り捨てた)のはこのときとされる。

 このように『吾妻鏡』には頼家について批判的な記述が多いのだが、同書はあくまで彼を失脚に追い込んだ北条寄りの立場から編纂されたものなので、それら記述も割り引いて読む必要があるようだ。『鎌倉殿』ではこのあたりを、頼家が暴走した末、せつや義時の言葉を受けて改心するという形でうまくまとめていた。

 今回のクライマックスを見ても、話は丸く収まった感じである。たしかに、これまで人を信じることのなかった頼家が、自分を信じてくれたせつと一緒に鎌倉をまとめていこうと決意したのは素晴らしいことではある。だが、よく考えてみれば、跡継ぎを一幡と決めたのは拙速ではなかったか。そうと周囲にわかれば、善哉の母であるつつじと乳母父の三浦義村(山本耕史)は黙ってはいまい。新たな火種となるのは必須だ。

 全成にしても、実衣にすべて話したあとで、御所の下に並べた人形は全部集めてきたのかと問われ、「大丈夫。みんな持ってきた」と答えていたが、彼のことだから、きっとうっかり置き忘れたものがあるに違いない……と思っていたら案の定、床下には人形が1体残っていた。さらには何者かがそれに気づいて持ち去ってしまう。クライマックスでめでたしめでたしと思わせておきながら、この不穏なラスト。それがまた『鎌倉殿』らしい。

 不穏といえば、殺し屋の善児(梶原善)が自分の二代目として義時に紹介したトウ(山本千尋)という女性の存在もそうだ。彼女はおそらく、善児が以前、源範頼を殺害した際に一緒に殺した百姓夫婦の娘ではないか。とすれば、トウは善児のことを本心では親の仇として憎んでいるはずなのに、殺しの技術など伝授してよかったのかどうか。もっとも、そんなことは善児にはとっくに織り込み済みだろうが……。ほかにも、義時が景時から善児を譲られた際、彼に渡すようことづかった袋の中身も気になるところである。どうやらそこには義時の兄・宗時(片岡愛之助)が善児に殺されたときに持っていた巾着袋が入っていたらしい。善児が袋を渡された際に口にした「あのお方(景時)も人が悪い」「試されたのですよ、わしの天運を」というセリフも謎めいていた。ようするに景時は、袋の中身が義時にバレるかどうかで善児の運を試したということだろうか? いずれにせよ、義時が善児を兄の仇と知ったとき、どのような態度を取るかも含め、今後の両者のゆくえが気になるところだ。

→『鎌倉殿の13人』他の回のレビューを読む

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある

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