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要介護1の父に約10万円が還付された!障害者手帳がなくても申請できる「障害者控除」の実例【介護のお金FP解説】

 介護のお金の相談や手続きを専門とするファイナンシャルプランナーの河村修一さんが、実体験や相談事例をもとに役立つ制度を解説する【介護のお金相談】。実際に河村さんが父親の介護で活用した『障害者控除』の話だ。対象となる人なら「障害者控除対象者認定書」の交付を受ければ税金軽減のほか、さまざまなメリットがあるという。どんな制度なのか、対象者や手続きについて教えてもらった。

突然始まる介護「お金の制度を知ることが大切」

「お母さんが脳溢血で倒れた!」

 たった一本の電話で大きく生活が変わります。それが介護です。地方で暮らす私の両親は、まず母親が60才のときに脳溢血で倒れ、慌てた父から電話がありました。その後、65才の父親が母親を長期間に渡って介護する老々介護の始まりでした。

 私は東京から遠距離介護を続けましたが、17年間の介護生活を経て母を看取り、3年前に父親もアルツハイマー型認知症で要介護1の認定を受けました。

 父の介護においてお金の制度でもっとも助かったのが「障害者控除」です。「障害者控除対象者認定書」の交付を受けることで、住民税が非課税となり、9万9000円の還付金を受け取ることができました。

父の介護で助かった「障害者控除対象者認定書」とは

「障害者控除」は、障害者手帳の交付を受けていると所得税や住民税などが軽減されるなどのメリットがあります。私の父は障害者手帳をもっていませんが、どうして障害者控除を受けることができたのでしょうか? 

 仕組みを解説していきます。

 まず、国税庁のホームページ「障害者」の定義※を確認してみると、心身に障害がある方や障害者手帳の交付を受けた方、寝たきりで複雑な介護が必要とする方などに加え、「65才以上で障害の程度が指定する条件に準じる方で、市区町村等の認定を受けた方」という項目があります。

 つまり、要介護認定を受けた65才以上の人で、障害に準じる状態の場合、市町村長などで認定を受けることで、「障害者控除対象者認定書」が交付され、障害者手帳をもっていなくても障害者控除の対象になるという訳です。

※参考/国税庁のホームページ「障害者とは」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/03_2.htm

「障害者控除対象者認定書」の対象者と認定基準

「障害に準じる状態」とは、重度の症状だけでなく、「認知症で金銭管理など今までできていたことにミス が目立つようになった」など、比較的症状が軽い場合でも「障害者控除対象者認定書」交付の対象になる可能性はあります。

 ただし、認定基準は、各自治体によって異なりますので必ず確認をしましょう。例えば、東京・江東区では要介護1からですが、文京区では要支援も対象になります。

住民税や所得税減税、高額療養費の還付も

「障害者控除対象者認定書」の交付を受けることで、「税法上」の障害者となり所得税や住民税が軽減されます。本人や同じ家計で生活する配偶者、扶養している親なども対象になります。

 なお、住民税課税だった人でも、前年中の合計所得金額が135万円以下であれば、「住民税非課税」となります。また、年金収入のみの方の場合は、年金収入が245万円以下であれば住民税非課税となります。

 このほか、「障害者控除対象者認定書」があれば、住民税課税世帯から住民税非課税世帯となることによって「高額療養費」や「高額介護サービス費」も自己負担額の上限が下がり、負担額が軽減されます。

 また、「介護保険料」や「介護保険施設の食費・居住費」なども条件によっては軽減されます。

交付の手続きと還付金の実例

 実際に私の父親(80代、単身世帯)のケースをご紹介します。

 父は3年前に「要介護1」の認定を受けていました。今年になって脳梗塞で倒れ、3か月間の入院をしました。

 父親の住んでいる自治体の「障害者控除対象者認定書」の認定基準を調べると、要介護1以上だったので、申請をすることにしました。

 役所に申請手続きの書類を提出すると、該当か否かの審査が行われます。結果が来るまではだいたい2週間ほどでした。 該当の結果が出て 「障害者控除対象者認定書」が交付された結果、父親は「住民税非課税世帯」となり 、入院時の高額療養費の自己負担限度額が5万7600円から2万4600円になりました。限度額が下がった分、支払った金額の差額が還付されることになり、月3万3000円還付、3か月分で9万9000円の還付を受けることができました。


【まとめ】

 障害者手帳をもっていない要介護の認定等を受けた高齢者の人は、「障害者控除対象者認定書」の交付を受けると、所得税や住民税の軽減だけではなく、合計所得金額によっては住民税非課税となり、さまざまな軽減を受けることができます。ただし、認定基準は各自治体によって異なっていますので、必ずお住まいの自治体に確認してみましょう。

 また、「障害者控除対象者認定書」は障害者控除の適用を受ける年の12月31日の状態で判定され、5年間遡ることもできます。

 介護のお金に関することは、制度を知らないと損をしてしまうこともあります。なにかと出費がかさむ介護のお金は、制度を知っておけば出費を抑えることができます。

執筆

河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士

河村修一さん

CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、複数の保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/

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