健康

「8020」を目指して歯を残したいなら「歯内療法」がおすすめの理由 治療法を医師が解説

 日本歯内療法学会の調査によると、高齢者の約7割が「虫歯の再治療」で通院していたことが判明した。コロナ禍で歯科医院への定期通院を控える人も多く、虫歯の発見が遅れがちに…。調査結果をもとに今注目の治療法『歯内療法(しないりょうほう)』について歯科医師に解説いただいた。

60代以上の7割近くが歯の再治療で通院

 80才になっても自分の歯を20本以上保つことを目標とする8020(ハチ・マル・ニイ・マル)運動。1989年に厚生省(当時)と日本歯科医師会が提唱して始まった取り組みで、当初は達成している高齢者は10%にも満たない状況だったが、2016年の歯科疾患実態調査では75~84才の51%が達成している。

 自分の歯をなるべく残すためには、普段から歯の定期的な診断が大切になる。しかし、日本歯内療法学会が実施した「高齢者の歯科通院・意識調査」によると、約4割の人が「コロナ感染が不安」で定期通院に頻度が減ってしまっている。

 さらに、同調査では2020年以降に歯科治療を受けた60代以上の65.9%が「以前に治療した歯の再治療」で通院していたことが判明した。つまり、多くの高齢者が虫歯を”再発”させてしまっているのだ。

・60代以上は「歯の再治療」が7割近くも!

 また、「定期通院が減った理由、もしくは定期通院をしなかった理由」を聞いたところ、「新型コロナウイルスの感染が不安だったから」と答えた人が40%という結果に。

・歯医者に通院しなかった理由は?

高齢者におすすめ「歯内療法」とは?

 なぜ虫歯が再発してしまうのか?どうすれば防げるのだろうか?ポイントとなるのが、今注目されている「歯内療法」と呼ばれる歯の治療法だ。

 日本歯内療法学会で広報を務める、歯科医師で東京歯科大学水道橋病院副病院長の古澤成博さんに教えていただいた。

「『歯内療法』とは、むし歯などが原因で生じた、歯の中の神経や歯の根の先の組織に起こった炎症に対する治療法のこと。歯をできるだけ抜かずに治療することを目的としています。中でも、とくに歯の根の深くにアプローチする治療を『根管治療(こんかんちりょう)』と呼びます」(古澤成博さん、以下同)

 歯の中には「歯髄(しずい)」という柔らかい組織があり、これは神経と呼ばれるものだ。歯髄の根の部分、根管(こんかん)があごの中の神経や血管とつながっているため、歯の痛みを感じることができ、虫歯などの症状を自覚できる仕組みだ。

神経を抜いた歯は虫歯の発見が遅れがちに

 近年はできるだけ歯髄を残す治療が推奨されているが、昔は歯髄を取る“抜髄(ばつずい)”と言われる治療が一般的だった。

「高齢者には、抜髄治療を受けた人も多いため、以前に治療した歯の虫歯が再発しても痛みを感じにくく、発見が遅れてしまうことが多いんです。

 また、抜髄をすると歯が脆くなり、破折のリスクも上がります。さらに、年齢を重ねると根管が狭くなるなど歯の内部の構造が変化するため、治療の難易度も高くなります。

 歯を抜いてしまうと、インプラントや義歯を入れることになりますが、歯根膜(しこんまく)というクッションの役割を果たす組織がなくなるため、使うときに噛み合わせの感覚が薄くなってしまいます。こういった要因から、歯を抜かずに残す『歯内療法』が大切になります」

歯を残すためにも定期的に歯科通院を

「自分の歯を残すためには、歯科医院に定期的に通い、メンテナンスを続けることが大切です。また、痛みなど異変を感じたら放置せず、すぐに相談しましょう」

 コロナ感染が不安で定期通院を控えていた人も多いようだが、虫歯の発見が遅れてしまうのは避けたいところ。

「虫歯や歯の根の先の病気も細菌感染によって発生するので、歯科医院では従来から感染症には敏感で、滅菌や消毒を徹底しています。歯科医院の医療従事者と患者さんとの間でのコロナ感染例は確認されておりませんが、不安なお気持ちはわかりますので、通院方法を含めてかかりつけの歯科医師に気軽にご相談いただければと思います」

高齢者に『歯内療法』がおすすめの理由【まとめ】

 以下のような理由から、歯を抜かずに残すことができる『歯内治療』の専門医を受診するのが望ましい。

・神経を抜いた歯は痛みを感じにくく虫歯の発見が遅れがち

・同じ歯で治療を繰り返すと治療の難易度が高まる

・高齢者は歯の根管が狭くなり治療が難しくなる

・歯を抜くと義歯の使用など環境変化が生じる

「歯内療法」は、一般の歯科医院でも治療を受けることができるが、日本歯内療法学会のホームページに専門医の情報があるのでチェックしてみるといいだろう。

日本歯内療法学会「専門医・指導医」https://jea-endo.or.jp/doctors/

教えてくれた人

古澤成博(ふるさわ まさひろ)さん/歯科医師

1983年に東京歯科大学を卒業し、2013年に同大学歯内療法学講座主任教授に就任。2017年に同大学水道橋病院保存科部長、2019年に同大学副病院長を歴任する。2022年、日本歯内療法学会国内渉外委員会。1993年に米国P.E.R.Fにて日本人として初めてマイクロスコープを用いた歯内療法の手技を習得して以来、約30年間専門性の高い歯内療法の診療を行いつつ、大学で歯内療法学の教鞭を執っている。

取材・文/ヤムラコウジ

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この記事へのみんなのコメント

  • みゃお

    昔は歯がグラグラしたら虫歯はなくても抜歯するのが主流だったから、今は抜かないということなのでしょうか。 歯周病についても見解を教えて頂ければ嬉しいです。 歯医者の常識で、その人の歯の治療が左右されますから、高齢者の歯は数十年前の常識の賜物ですから、今できる手立ては、定期検診にこまめに通い、歯の掃除をしてもらうしかないかと思います。 その為にはちゃんと噛める←沢山話す、それと歩けることが大事です。 歯の痛みは全身状態からも影響されると思います。

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