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『鎌倉殿の13人』40話 98人のヒゲ面の運命となんとしても義盛を救いたい実朝

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』40話。御家人たちの支持を集める和田義盛(横田栄司)に北条義時(小栗旬)は危機感を募らせ、和田氏を討ち取る策を練る。義盛を父のように慕う源実朝(柿澤勇人)はそれを阻止しようとするが……。「罠と罠」(副題)の回を、歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが、歴史書を紐解きながら考察します。

乗せられた和田氏

 以前から思っていたのだが、『鎌倉殿の13人』の和田義盛(横田栄司)のヒゲは、キューバの革命家カストロを彷彿とさせる。その妻・巴御前(秋元才加)は初登場時、左右の眉毛がつながっていて、メキシコの画家フリーダ・カーロを思い起こさせたし、和田氏にはどこかラテンのノリを感じてしまう。

 実際、劇中の義盛は何事も理ではなく情で動いた。それが人々を惹きつけたのだろう。鎌倉殿の実朝(柿澤勇人)が父のように慕うほか(ちなみに義盛は実朝の父・頼朝と同じ1147年生まれ)、北条氏による粛清が続くなかで御家人たちからも支持を集めるようになっていた。それに対し義時(小栗旬)はしだいに危機感を募らせていく。義盛とはすでに前回、上総介挙任の要望を義時が退け、確執が深まっていた。

 今回のアバンタイトル(オープニング前の場面)では、後鳥羽上皇(尾上松也)が閑院内裏の修復を鎌倉に引き受けさせることを決めた。この報を受けた鎌倉では、御家人たちが重い負担が予想されることから、義盛の館に集まって口々に不満を訴えた。義時はこの時点では静観していたが、そこへ事件が起こる。泉親衡なる人物が仲間を募って御所を襲撃し、実朝ではなく義時を殺そうと企んでいたというのだ(『吾妻鏡』建暦3年〈1213〉2月16日条には親衡が、義時殺害にあたり源頼家の遺児である栄実を大将軍に擁立しようとしたともある)。

 この企みに連座したなかには和田の者が含まれていた。このうち義盛の甥・胤長(細川岳)は、親衡から北条氏がどれだけ汚い手を使って昇りつめたか吹き込まれ、義盛の息子の義直(内藤正記)と義重(林雄大)ら身内の者を誘ったという。しかし当の親衡は突然鎌倉に現れたかと思うと、突然消えてしまった。大江広元(栗原英雄)はここから、この一件は義時を嫌う上皇が、御家人たちをたきつけて揺るがすために仕組んだ謀略ではないかと推理する。源仲章(生田斗真)あたりから鎌倉の動向を逐一伝えられているであろう上皇なら、たしかにやりかねない。それが事実とすれば、和田氏はまんまと乗せられたことになる。同時に、義盛を攻める口実を探していた義時に、上皇は期せずしてきっかけを与えてしまったともいえる。

98人のヒゲ面

 義盛は一族を代表して、連座した者たちを処罰しないよう義時に頭を下げた。直情径行な義盛は、このときも、いい返事がもらえないのなら相撲で決めようだの、皆に眉毛を剃らせようかだのとんちんかんなことを言って義時を苦笑させる。結局、義盛の息子2人以下、ほとんどの者たちはお咎めなしとなったものの、唯一、胤長だけが捕らえられてしまう。

 この処置を受けて和田の館に義盛の子供たちが集結する。義時は彼の動員力に、改めて脅威を感じ、「もっとも頼りになる者がもっとも恐ろしい」「消えてもらう……か」とひとりごちる。翌日、義盛は98人のヒゲ面の男たちを引き連れ(この人数は誇張ではなく本当に『吾妻鏡』建暦3年3月9日条にそう書かれている。全員ヒゲを生やしていたかはわからないが)、御所へ胤長放免の嘆願に押しかけた。これに対し、義時の発案で、胤長が見せしめに烏帽子を取られ、後ろ手に縛られて引き回される。そのうえで時房(瀬戸康史)が義盛たちにきょうのところは引き揚げるよう命じた。

 館に戻った義盛は三浦義村(山本耕史)と酒を酌み交わしながら、義時の変貌ぶりを嘆く。これに義村が、力になってもいいぞと、いっそ北条を倒して「俺たちの鎌倉」をつくるのはどうかとけしかけた。もちろん、義村は義時が攻める大義をつくってやるべく、わざとけしかけているのだが、ここぞとばかり「北条ばかり得をするこんな世の中を俺たちが変えるんだ」と口にしたのには、ひょっとしてそれって本心じゃ……とも思わせる。

 ちょうどそのタイミングで、病気がちだった胤長の幼い娘(吉田舞香)が、父と再会できないまま息を引き取った。情の深い義盛はこれをきっかけに覚悟を決める。ちなみに『吾妻鏡』建暦3年3月21日条では、胤長の娘は、父が遠くに行ってしまったのを悲しむあまり病気になり、いよいよ命が危なくなると、胤長に似ていると評判だった和田朝盛(義盛の孫)が、彼女に父が帰ってきたとウソをついて見舞ったとの話が出てきて泣かせる。娘は少し頭をもたげると一瞬、朝盛の姿を見て亡くなったという。

 義盛が戦う覚悟を決めたころ、義時に対し周囲の者たちが戦をしないよう、あいついで説得していた。まず嫡男の泰時(坂口健太郎)が、義時が最初から相手をけしかけて戦うつもりでいたことに気づくと、あいかわらずの正義感で諭す。だが、義時には、いずれ泰時の代になったとき必ず和田はその前に立ちはだかると、そのためにいまのうちに手を打っておくのだと言い返されてしまった。泰時は父の詭弁に付き合いきれないという感じで、「父上は間違ってます!」とこれまたいつものセリフを吐いて、謹慎を命じられる。

 ただ、このとき、義時が謹慎を命じたのは、泰時を和田との戦いに巻き込まないための温情のようにも思えるのだが、どうか。義時はこれより前、次男の朝時(西本たける)を鎌倉から追放していた。朝時は前回、御所に仕える女房に手を出して義時から叱責されるも、とくに罰は言い渡さていなかったのでどうしたものかと思ったが、やはりあとで処分を食らったらしい。

 それはともかく、泰時は父には自分が言っても効き目がないと痛感し、代わりに伯母の政子(小池栄子)に義時を戒めてくれるよう泣きついた。そこへたまたま義時がやって来たので、政子は義盛に野心はないと説き伏せようとしたのだが、義時が「姉上はかかわらないでください」と言うのについカチンと来て、そもそも自分に政にかかわれと言ったのはあなただと叱りつけてしまう。これに義時は「姉上に叱られたのはいつ以来でしょう」と急にしおらしくなったかと思うと、これ以上義盛をけしかけることはしないとあっさり承服した。

 もっとも、それはカモフラージュにすぎなかった。すぐあとには、広元と会って「尼御台にはいずれわかってもらう」と言い、義盛をけしかけるため新たに思いついた手段を提案する。政子とて、義時が自分の話を聞き入れないことは承知のうえだった。そこで呼び出したのが義村である。彼女は義村に、戦になったらどちらにつくかと問うた。彼は当然ながら義時のほうだと答えるが、政子は「弟と違って私はすぐには人を信じないの」と言ってもう一度同じ質問をする。これには義村も「そう言われて向こうと答えるバカはいない」とあきれたように返すが、政子は畳みかけるように三浦がこちらにつけば和田は孤立し、戦は回避できると説得する。そのうえで義村に、もし言うとおりにしてくれるのなら見返りとして宿老にすると約束した。

義盛を救いたい実朝

 実朝は、よもや義盛がそんな状況に陥っているとは知らず、妻の千世(加藤小夏)をともなって久々に歩き巫女(大竹しのぶ)に会いに行く。妻を連れて行ったのは、おなごはみんな占い好き……と実朝が思ってかどうかはわからないが、そこで巫女から聞かされたのはよりにもよって、大戦が起きて鎌倉が火の海になり、みんな死ぬというあまりにも不吉な夢のお告げだった。しかも由比ヶ浜にヒゲ面の首が並ぶという……。実朝が衝撃を受けていると、急いで御所に戻ってくださいと平盛綱(きづき)が呼びに来た。

 何事かと思えば、胤長の館が、本来なら罪を犯した者の棲家は同族の者に引き渡されるのが通例にもかかわらず、義時に没収されてしまったのだ。義時が和田をけしかける手段と言っていたのは、これであった。急報を受けて御所に戻った実朝は、そんなことをすれば義盛が怒るのは当然ではないかと義時を叱責するが、義時は戦をするには大義が必要だと悪びれずに言い放つ。

 何としても義盛を救いたい実朝は、戦を止めたいと政子に訴え出る。ここで政子が「あの手を使うしかありません」と言って、「我が家に伝わる秘策」を久々に実行する。そう、頼朝が伊東祐親から逃げる際には成功し、源義高が頼朝に命を狙われて逃げたときには失敗したあの作戦……女装であった。もじゃもじゃのヒゲ面に女装は頼朝以上にミスマッチではあったが、義盛は無事に御所まではせ参じた。

 このとき、もうあとには引けないと言う義盛を、実朝は「おまえを死なせたくはないのだ」と引き止める。さらには義盛の手を握って、二度と行き過ぎた真似をしないよう私が目を光らせる」と約束するのだった。義盛はこれに感涙し、矛を収める。ここで実朝は義時も呼ぶと、政子も見届けるなか、互いに手打ちさせるのだった。

 このあと、実朝がすごろくに義盛を誘い、部屋を出ていくと、政子は義時をひとりだけ残す。彼女には彼が、まだ和田を滅ぼすことをあきらめていないとわかっていたのだ。そのことを問い詰めると、義時は「鎌倉のためです」とお決まりの文句を口にする。政子はあきれて「鎌倉のため、鎌倉のため。聞き飽きました。それですべてが通るとなぜ思う? 戦をせずに鎌倉を栄えさせてみよ!」と説教するのだが、義時は「姉上は甘すぎます」と不服そうである。

 義時が部屋を出ると、廊下で義盛が待っていた。義盛は今回の一件での実朝の対処にすっかり感服し、「いまの鎌倉殿は賢いし、度胸もあるし、何よりここ(胸)が温かい」「ようやく俺たちは望みの鎌倉殿を手に入れたのかもしれないぞ」と興奮しながら語ると、義時に対し「政はおまえに任せるよ。力がいるときは俺に言え」「鎌倉の敵は俺が討ち取る。これからも支え合っていこうぜ」と言ってその肩をつかんだ。これには義時は小声で「よろしくお願いします」と返すしかなかった。

 まさに義盛の言うとおり。今回、政子の協力はあったとはいえ、実朝は見事に義盛と義時を仲裁し、戦を回避してみせた。「俺たちの望みの鎌倉殿」と義盛ならずとも快哉を叫びたくなった……が、次の場面ですぐにそれが早合点であったことに気づかされる。

 義盛には「館に戻るまでは油断してはならない」と誰かが教えるべきだったか。和田の館では彼が一向に帰ってこないので、捕らえられてしまったのではないかと皆が騒ぎ始めていた。その間にも着々と戦の準備が進む。そこへ頃合いを見計らって義村が八田知家(市原隼人)や長沼宗政(清水伸)に自分は裏切ると告げたのだが、和田の人々はそれを見越して、起請文を書くよう彼らに迫る。義村は「信じてもらえないなら手を引く」と抵抗するも、一斉に刀をつきつけられ、一転して要求を飲むはめに。文字どおり、起請文を燃やした灰を水に溶かして飲まされたのだ。

 義村がまさか寝返るタイミングを逸したとは知らず、義時は彼に引き揚げるよう伝えるため、刺客のトウ(山本千尋)を和田の館に向かわせるが、もはや事態は風雲急を告げていた。こうして建暦3年5月2日、和田合戦が勃発する。次回のサブタイトル「義盛、お前に罪はない」があまりにも直球すぎて悲しい。続けて「そう、悪いのはみんな義時のせい」と思わず付け足したくなる。

→『鎌倉殿の13人』他の回のレビューを読む

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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