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田中裕子、森昌子、古手川祐子の魅力爆発『想い出づくり。』はその後の山田太一名ドラマへ繋がる大傑作

「過去の名作ドラマ」は世代を超えたコミュニケーションツール。懐かしさに駆られて観直すと、意外な発見することがあります。今月はゲーム作家の米光一成さんが『想い出づくり。』(1981年 TBS/Paraviで配信中)を鑑賞。「男女雇用機会均等法」施行前、女性が25歳で「行き遅れ」と決めつけられた時代を描いた山田太一の傑作です。

24歳が「結婚適齢期」ギリギリ

『想い出づくり。』は、当時、20歳前後の娘2人の父親であった山田太一の脚本作品だ。放映は1981年、「男女雇用機会均等法」が施行されるのが1986年なので、その5年前だ。

 お見合いしろとうるさい親から逃げるために、のぶ代(森昌子)がテレビをつければ「女の人はクリスマスケーキと一緒でっせ。25過ぎたら急に売れんようになりますからね」なんてことを落語家が言っている。

「周りが、そろそろ結婚、そろそろ結婚って、パパにまで言われたくないの」と久美子(古手川祐子)は父親(児玉清)に向かって言うのだが、父はついつい「そろそろ結婚」と言ってしまう。

 縁談を受けろと言う父親に「わたしはまだ23なんだから」と香織(田中裕子)が返すと、「すぐにな、4になって5になって6になっちまうだ」などと父親(佐藤慶)は言い返す。

 24歳が「結婚適齢期」ギリギリであり、それを超えると「行き遅れ」てしまう世の中であり、「結婚する以外に女の幸せはないのだ」という男どものコンセンサスのもとに社会が成り立っていると勘違いされていた時代だ。

 そんな世界に、あがきながら立ち向かう24歳の女性3人が主人公である。

 3人が出会うのは、アンケート詐欺の会場。

 若い男(柴田恭兵)に声をかけらる。男は詐欺師だ。旅行のアンケートに答えたらポケットカメラをプレゼントすると誘われて、会場に行ってしまう。入会金を払えばヨーロッパ旅行が格安だと、浜村淳が演じる詐欺師のオヤブンの名調子に、参加者はみんな入会金を払うのだが、最後までねばって抵抗した3人が彼女たち。

「一度でいいから生きるか死ぬかっていう恋愛してみたい。結婚すれば、自由じゃなくなるし。そのまえに強烈な想い出が欲しい。恋愛ダメなら、あたしってわりとガード高いから、我を忘れるっていう恋愛できないかもしれないから。だったら旅行。うーんといい旅行をひとつしたい」

 複数の女性主人公の恋愛模様を描くドラマなので、トレンディードラマのはしりだと言われているが、軽妙でおしゃれな恋愛が描かれるわけじゃない。あがき、もがき、めちゃくちゃになっていく恋愛が描かれるのだ。

「我を忘れるっていう恋愛ができないかもしれない」と言っていた久美子(古手川祐子)は、金を取り戻すためにクズ男(柴田恭兵)の家を突き止め、3人で乗り込む。包丁をつきつけて金を返せと迫るが、「てめぇらそれでも生きてんのかよ。(略)他になんにもねぇのかよ。てめぇら結婚までにほかなんにもねぇのかよ」などと逆ギレされてしまう。

 男(柴田恭兵)は、見事なまでにクズで、久美子(古手川祐子)の部屋に押し入って襲う。それでもいけしゃあしゃあと「好きだ」「愛してる」とつきまとい、久美子が働く小田急ロマンスカーの事務所に嫌がらせ電話をかける。家に押し入り、大暴れして、近所の住民に追い出され、「愛してるって言いたかっただけだバカヤロー」と名言だか迷言だか分からない捨て台詞を吐き捨てる。完全にストーカーである。

 だが、その男に久美子が恋してしまうのだ。

 山田太一は、説得力を持たせる力技で、ええええー、という展開を押し通す。

 それどころか、こいつがクズであればクズであるほど、久美子の「怖いほど我を忘れる恋愛」が強烈に印象づけられ、のぶ代(森昌子)と香織(田中裕子)の「あこがれの恋愛」となっていく構図になっていて、物語の牽引力がすごい。見事である。

誰だって働いてるんだ

 久美子は、どうにかダメ男をまともにしようとするが、見る側の予想の斜め上をいくクズっぷりで、ハラハラドキドキがとまらない。

「ちゃんとしてよ」と怒ると「ちゃんとって何だよ」と返す。そもそも久美子も、ちゃんとしてないから自分の殻を破ってくれそうだから恋しているのだが、それでも耐えられないほどのクズっぷりに、もう訳が分からなくなっているようなのだ。

 同棲するならば「1ヶ月まともに働く」という条件を突きつけられ、男は働き始める。ついつい応援してしまいそうになるが、その後の久美子の父親のセリフではっとする。

「ひと月ぐらい働いたからってそんなことで男の誠意がわかるもんじゃないぞ。働くのが当たり前じゃないか。誰だって働いてるんだ」

 久美子は「あの人がひと月働くって大変なのことなの」と反論するが、「ふだん怠けてるってことじゃないか」と正論で返される。

 しかも、そのひと月がもたないのだ。もたないのだ。それどころか、風邪を引いて看病してくれた元恋人(田中美佐)とよりを戻してしまう最悪っぷり。

 のぶ代は、親に押し切られてお見合いをするが、断る。断るが、田舎でガソリンスタンドと食堂を経営する男(加藤健一)は、独自理論で押し通してくる。断っても断っても、迫ってくる。人の良さそうな顔して、お土産を持ってきたり、何かと親切にしようとする。両親も、いい男じゃないかと迫ってくる。見合いをきっぱり断ったのに、しつこく迫ってくるなんて異常じゃないか、というまっとうな理屈は通用しない。

 周囲のありとあらゆる人たちが、あの人と結婚すべきだと言う。最後の味方だと思っていた不良の弟も、男とケンカして仲直りするという男の友情形成王道パターンで、相手を気に入ってしまう。

 のぶ代は、自分がお高くとまってわがままを言ってるような気持ちに追いやられて、結婚することにしてしまうのだ。

 恋愛に慣れてそうなキャラクターの香織も、妻子持ちの上司と一夜をともにしてしまい、その上司が勧める相手とデートしながらも「この人じゃない」と判っている。上司は、香織と不倫したことを、よりにもよって香織の父親に話してしまう。この時の父親の対応が異常で、激怒するわけでもなく、不倫を公表しないことと交換条件で「娘の結婚相手をみつけろ」と命じるのだ。

驚愕の12話

 そして、第12話(12話の驚くべき展開に触れるので何も知らずに観たい人は先に観てください)。

「今夜は、たいへんなことをしでかしてしまう娘たちを終わりまで観てやっていただきたい」というここまでになかったナレーションで始まる回である。

 のぶ代(森昌子)の結婚式の披露宴で、3人が集まる。

「人生が何たるかわかってない」「夫婦とはそういうもんだ」「大人なんだからちゃんとしろ」

 周囲の大人たちに、さんざん詰め寄られ、追い立てられ、「女は結婚して男を支えるのだ」という「生き方」しかないように思い込まされそうになった3人の気持ちが爆発する。

 クソ男の馴れ合いで形成される「人生」や「夫婦」や「大人」に押し流されないよう抵抗する。

 結婚式場ジャックするのである。

 結婚式が始まる寸前に、化粧室に立て籠もり大騒動。

 備え付けの電話で、「嫌い嫌いって彼女ずっと言ってるじゃないの。(略)それをあなた周りから攻めて、お父さんやお母さんや社長の圧力でうんと言わせたんじゃないの。(略)とにかく結婚はしませんから」とのぶ代に替わって、男に宣言する香織。

 過呼吸気味になっていたのぶ代は、はやくも後悔して、「どうかしてた私」とジャックをやめようとするが、香織は叫ぶ。

「どうかしてないわよ。がんばればいいのよ。いやな結婚なんてすることないのよ」

 久美子はクズ男(柴田恭兵)に電話して、仕事を見つけないと結婚式場ジャックをやめないと宣言する。香織は父親に電話して「要求は今後いっさい結婚結婚ってせっつかないこと」と宣言する。

「これで3人一緒よ。みんな自分のためにジャックしたのよ」と結束を固める。

 結婚式ジャックの顛末、そしてその後まで描かれる全14話。

 若者の群像劇スタイルは、その後、『ふぞろいの林檎たち』(1983年)に引き継がれる。

  結婚式場ジャックは、『男たちの旅路』の傑作回「シルバーシート」(1977年)のバスジャックとシンクロする。

 ちゃんと暮らすことに疑問を突きつける風来坊キャラクターは、『早春スケッチブック』(1983年)の沢田竜彦(山崎努)の原型だろう。日々の暮らしのなかの不満が爆発する構成は『岸辺のアルバム』(1977年)だ。

 山田太一脚本の魅力が詰まった大傑作である。

文/米光一成(よねみつ・かずなり)

米光一成

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。

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