連載

認知症の母が電気の消し方を忘れた?和風の照明に買い替えたら介護がラクになった理由

 岩手・盛岡でひとり暮らしをする認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。認知症がじわじわと進行する母は、できなくなることが増えてきているのが心配だ。そんな工藤さんが、盛岡に帰省して母と過ごしていたある日、寝室の照明をつけたまま寝る気配がない母が言った言葉に驚いて――。

認知症の母が寝室で寝る気配がない

 わたしは実家の2階の自分の部屋で原稿を書きながら、1階の母の寝室についている見守りカメラの映像をスマートフォンで確認するのが日課です。きちんと寝ているかどうかの確認のためですが、母がいつまで経っても布団に入らない日がありました。

 30分経過しても布団に入らず、寝室にある鏡で自分の姿を見ていました。さらに30分が経過しても、布団に入る気配すらありません。さすがにおかしいと思ったわたしは、寝室まで行って母に声を掛けました。

 すると母は、「これ、どうやって消すの?」と言ったのです。これとは寝室にある照明のことで、昔ながらのヒモを引いて消すタイプです。どうやら照明の消し方が分からなかったので、起きていたようなのです。わたしがヒモを引いて照明を消し、母は寝てくれました。

 翌日も寝室の母の様子を見守りカメラで確認していると、昨日と同じで鏡を見るばかりで、全く寝る気配がありません。

 今度はすぐ母の寝室に行ってみると、また電気の消し方が分からないと言われました。なぜ母は、照明を消せなくなってしまったのでしょう?

認知症が進行して照明を消せなくなった?

 最初は母の認知症が進行して、ヒモを引く動作自体を忘れてしまったと思いました。しかしそれだと、ヒモを引く同じタイプの居間の照明も消せなくなるはずです。居間の照明はきちんと消せるので、他に理由があると考えました。

 改めて寝室と居間の照明を見比べてみたところ、ある違いに気づきました。それはヒモの色です。寝室のヒモは1度切れてしまったので、100円ショップで買った白くて細いヒモに交換したのですが、それが母には見えていないようでした。

 また寝室の壁の色も白いので、尚のこと母にはヒモが見づらいのではないかと。しかも白内障の手術を控えているぐらいなので、白いヒモの存在が分からず照明を消せなかったのだと思います。一方の居間の照明のヒモは黒く、はっきり見えます。

 黒いヒモを探してみたのですが、なぜか見つかりません。100円ショップのヒモは細くて頼りない感じがしたのと、10年以上経つ古い照明だったので、思い切って新しい照明に買い替えることにしたのです。

新しく買った和風のLED照明の特徴

 新しい照明の必須条件として、ヒモで消すタイプでなくてはいけません。もしリモコンで消すタイプの照明を購入したら、母は操作ができずに照明を扱えなくなるでしょう。ヒモで消す照明を探していたところ、偶然リモコンと兼用できる照明を見つけたのです。

 早速寝室に照明を取り付け、母には何も言わず黙って様子を見守りました。すると母は今までどおり、ヒモを引いて照明を消して寝てくれました。やはりヒモの色が原因だったようです。

 これで問題は解決したのですが、付属していたリモコンが思いのほか、わたしの介護を劇的にラクにしてくれたのです。

新たな照明で介護がラクになった!

 母の寝室には、スマートリモコンが設置してあります。エアコンの操作ができない母のために、わたしが遠隔で操作を行って、寒さや熱中症の危険から守る工夫をしています。

→認知症が進行する母の夏の暑さ対策|エアコンの遠隔操作と熱中症警戒アラートのLINE通知

 スマートリモコンはリモコンで操作できるものなら、ほとんどの家電を遠隔操作できます。この機能を利用して寝室の照明も遠隔で操作したところ、わたしの介護負荷が大幅に軽減されたのです。

 まずなかなか起きない母を起こすために、照明を遠隔で操作しています。今までは東京から岩手の実家に電話をして、母が電話の音に気づくまで電話を鳴らし続けていました。しかし電話が別の部屋にあるため、なかなか起きてくれません。

 そこで朝6時に自動で寝室の照明がつくようセットしたところ、母は照明の光ですぐ起きるようになり、電話をする必要がなくなりました

 次に母が寝静まった夜中に、常夜灯(豆電球)にする設定にしました。母は真っ暗でないと眠れないので、寝付きの段階で常夜灯はつけられません。なぜ常夜灯が必要かというと、布団の真横にあるポータブルトイレの場所を分かってもらうためです。

 母は認知症なので、布団の真横にいつもあるポータブルトイレの存在すら忘れてしまいます。しかも暗闇だと、全くトイレの存在に気づきません。そのためトイレを探している間に、失禁してしまうことが何度かありました。

→認知症の母の「失禁問題」が99%解決した!息子がポータブルトイレに施した工夫

 しかし今は常夜灯がうっすらついているので、尿意で起きた母は真横のポータブルトイレにすぐ気づきます。迷うことなくまっすぐトイレに行ってくれるようになり、布団やシーツを汚すことがほとんどなくなったのです。

 失禁のあった日の朝は、シーツの洗濯や布団干しなどに2時間近く取られる日もたびたびあったのですが、そのストレスから解放されました。母も失禁したシーツを避けながら寝ていたので、これからは熟睡できるようになると思います。
 
 今日もしれっと、しれっと。

→この連載の他の記事を読む

工藤広伸(くどうひろのぶ)

介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(79歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

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