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ヤングケアラーについて理解を深める 当事者も支援者にも共感が得られるおすすめ本3選

 高次脳機能障害の母をもつ元ヤングケアラーのたろべえさんこと、高橋唯さん(高ははしごだか)。幼いころから母のケアを続ける中で、本の世界はホッとひと息つける居場所だったと語る。そんな本好きの高橋さんが、ヤングケアラー当事者にも支援する側の人にも響くおすすめの本を教えてくれた。

1.ヤングケアラーについて理解を深められる絵本

『ヤングケアラーってどういうこと? 子どもと家族と専門職へのガイド』(生活書院)

 本書はイギリスで2019年に出版された絵本を、澁谷智子氏、長谷川拓人氏が日本語に翻訳したものだ。

 12才のヤングケアラーである主人公「カーリー」による、彼女の日常の紹介を通して、ヤングケアラーに関する基本的な事柄が理解できるような仕組みになっている。教育・医療・福祉関係者といったヤングケアラーを支援する立場の人たちが、ヤングケアラーについての理解を深めることができるのはもちろんのこと、小中学生にとっても読みやすい一冊となっている。

 私が本書を読んで一番印象的だったことは、「様々な立場のヤングケアラーにとって共感しやすい場面がある」ということだ。

 主人公のカーリーが行っているケアは、病気の母に代わって家事をすることや、5才の弟の世話をすることだが、カーリーと全く同じ状況でなくても共感できる部分がたくさんあると思う。

 お母さんの気分が良くないときには元気づけるために冗談を言うこと。授業に集中できずに先生に叱られてしまったこと。お母さんをどう助ければいいのかわからず、自分にもお母さんにも怒りを感じ、そんな自分に罪悪感を抱くこと。お母さんの病気がこの先どうなるのか心配なこと。信用している友人にしか家族のことを打ち明けていないこと。

 私がとくに共感したフレーズがある。

<<私は、私がお母さんの世話を、そして時にはサム(弟)の世話をしなくてはいけないという事実をお母さんが好ましくないと思っているのを知っています。本当は自分がしなくてはいけないと思っている家の中のいろいろなことを私がやっているのを見ると、お母さんはさらに悲しくなって、嫌な気持ちになります>>

 この文章を読んだとき、私も、母ができることを私がやってしまうのは、母の役割を奪ってしまっているのではないか、子どもである私が母よりいろいろなことをこなしてしまっては、母の立場がなくてかわいそうなのではないかと心配していたことを思い出した。

→ヤングケアラーが明かす心の叫び 追い詰められた体験を振り返って気づいた本当に必要な支援とは

 ヤングケアラーの子どもたちが「自分もカーリーと同じだ!」と思うだけでも、支えになるし、ヤングケアラーの周りにいる友人や大人たちも、「ひょっとして、あの子もカーリーと同じようにこんなことを思うこともあるのかな?」と想像を広げられる一冊だと感じた。

2.障害をもつ主人公を取り巻く人々にも焦点が当たる

『ワンダー』(ほるぷ出版)

 ヤングケアラー支援において実践的ではないかもしれないが、個人的に大好きな児童書だ。遺伝子の疾患により人とは違う顔で産まれてきたオーガストという少年が、10才で初めて学校に行くところから物語が始まる。

 本書は映画が話題になったことで知った。映画版のタイトルは『ワンダー 君は太陽』。このタイトルを聞いたとき、「人と違う容姿をもちながら、頑張るオーガストの明るさを、周りは太陽のように思い希望を抱いている」といったイメージをもった。

 しかし、本書ではオーガスト以外の様々な人間にも焦点が当たる。オーガストの親友、クラスメート、姉、そして姉の彼氏まで描かれている。

 オーガストの姉は、自分のことを「弟は太陽であり、自分はその周りを回る惑星」と表現している。確かに、オーガストはその見た目から周囲の注目を集めがちだが、実際の世界はオーガストを中心に回っているわけではない。オーガスト以外の子どもにも人生がある。好きなことや嫌いなことがある。嬉しいできごとも、悲しいできごともある。

 障害のある少年を前にしたとき、「あの子のほうがよっぽど大変な思いをしているんだから」という言葉でかき消されてしまうようなことも、ひとつひとつ拾って物語が進んでいくことに、なんだか安心した。

 私も、オーガストの周りの人たちみたいに、世界の中のひとりとして生きててもいいんだ、自分を大切にしていいんだと思えた。誰かのケアを受けて生活している人にも、周りにケアが必要な人がいる人にも、どちらにも希望をくれる一冊だ。

3.ヤングケアラー7人が発信するリアルな言葉

『ヤングケアラー わたしの語り―― 子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)

 家族のケアをしてきた当事者7人が自分の言葉で自身のケア経験を語った一冊。私も第2章に寄稿させていただいている。

 昨今、ヤングケアラーという言葉が以前に増して注目され、支援に向けた動きが加速している。その一方で、ヤングケアラーの経験の中で、「苦労したこと」ばかりに目が向けられることも多いと感じる。確かにヤングケアラーを支援するためには、ヤングケアラーにとってどういったことが大変なのか知らなくてはならない。

 しかしながら、ヤングケアラーの経験や、そこから得たものは「つらい」「かわいそう」という言葉だけでは片付けられないほど複雑で、繊細だ。

 私自身も、新聞やテレビのインタビューに応じた際、「過酷な現実」「大変な日常」といった見出しをつけられてしまうと、「確かにつらいことも多いけれど、毎日のすべてがつらいわけではないのに…」と感じることがある。

 本書では、ケアをしていた相手も、時期もそれぞれ違う7人が、自分たちの思うままに自身の経験を振り返っている。

「ヤングケアラー」とひとことで言っても、それぞれ違う人間の違う経験であるということ、捉え方も人それぞれであるということ、だけど共感し合える部分もあるということをリアルな言葉から感じられると思う。

ヤングケアラーに関する基本情報

言葉の意味や相談窓口はこちら!

・ヤングケアラーとは

 日本ケアラー連盟https://youngcarerpj.jimdofree.com/による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。

・ヤングケアラーの定義

『ヤングケアラープロジェクト』(日本ケアラー連盟)では、以下のような人をヤングケアラーとしている。

・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている

・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている

・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている

・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている

・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている

・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている

・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している

・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている

・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている

・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている

・相談窓口

・厚生労働省「子どもが子どもでいられる街に。」

児童相談所の無料電話:0120-189-783

https://www.mhlw.go.jp/young-carer/

■文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310

https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm

■法務省「子供の人権110番」:0120-007-110

https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html

文/たろべえ(高橋唯)さん

「たろべえ」の名でブログやSNSで情報を発信中。本名は、高橋唯。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。母は高校通学中に交通事故に遭い、片麻痺・高次脳機能障害が残ったため、幼少期から母のケアを続けてきた。父は仕事中の事故で左腕を失い、現在は車いすを使わずに立ってプレーをする日本障がい者立位テニス協会https://www.jastatennis.com/に所属し、テニスを楽しんでいる。現在は社会人として働きながら、ケアラーとしての体験をもとに情報を発信し続けている。『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。第57回「NHK障害福祉賞」でヤングケアラーについて綴った作文が優秀賞を受賞。
https://twitter.com/withkouzimam  https://ameblo.jp/tarobee1515/

ヤングケアラー、小6の6.5%という調査結果 当事者が明かす介護「誰にも話せない大嫌いだった母のこと」

●20代30代にも迫る「孫介護」の実態|祖母の介護で後悔していること

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