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高木ブーは人生で一番つらかった妻の死をどう乗り越えたのか|連載 第87回 

 最近の活動や懐かしい思い出について、いつも穏やかな口調で楽しそうに話してくれる高木ブーさん。長い人生においては、つらいことや悲しいこともたくさんあった。「人生でいちばんつらかったのは、最愛の妻が亡くなったとき」と高木さんは静かに言う。つらさにどう立ち向かい、どう乗り越えてきたのか。じっくり聞いてみた。(聞き手・石原壮一郎)

「今日、ママが家に来てたね」

 僕は今、娘夫婦と孫の家族4人で暮らしている。ストレスとは無縁の幸せな毎日です。おかげさまでこの歳になっても仕事をやらせてもらっているし、何もない日は家でのんびり過ごしている。

 娘のかおるが作ってくれるご飯を食べて、気の向くままにウクレレを弾いたり絵を描いたり、孫のコタロウとギターの話をしたり、夜は衛星放送で時代劇を楽しんだり……。あんまり夜更かししてると娘に叱られるんだけどね。

 ひとつだけ残念なのは、今ここに妻の喜代子さんがいないこと。29年前に58歳の若さで、病気でこの世を去ってしまった。住んでいるこの家も喜代子さんのために建てて、車椅子でも移動できる作りにしたのに、中に入ることはなかった。かおるの花嫁姿も見ていないし、コタロウも喜代子さんには会ったことがないんだよね。

 ただ、たまに娘と「今日、ママが家に来てたね」「うん、そうだね」なんて話をすることもある。目に見えるわけじゃなくて、何となく「あっ、来てるな」という感じがするんだよね。僕たちのことが心配で、様子を見に来るのかな。だから、高木家は本当は「5人家族」なのかもしれない。



 若い頃から、ドリフのメンバーや周囲の人に「ブーたんは悩みがなさそうでいいな」と言われてきた。たしかに、深く悩んだことはないかな。いろんな場面で悩むことはあったのかもしれないけど、すぐ忘れちゃう。考えるのは苦手だからね。

『全員集合』の頃は休みなんてほとんどないハードスケジュールだったけど、不満をため込むこともなかった。そういうもんだと思ってたし、文句を言っても変わるわけじゃないからね。だったら目の前の仕事を一生懸命にやったほうがいい。人気番組に出て日本中の人たちに楽しんでもらえるのは、すごくありがたいことだという気持ちもあった。

 もっとさかのぼって、20代の頃にバンドを結成しては、またしばらくして別のバンドを結成していた頃も、焦りとか不安とかはなかった。将来の目標もとくになかった。ジャズ・コーラスが流行ったら「よし、今度はそういうバンドをやってみよう」って感じで、時代に合わせながら、面白そうと思うことをやり続けていたんだよね。

 今思えば、流れに無理に逆らおうとしないで、流されるままにやってきたのがよかったのかもしれない。僕のモットーは「人生は運と実力とチャンス」。自分の人生の「流れ」って、自分じゃ作れない。実力を磨いておけば、やがて運が巡ってきてチャンスをつかめる。長い目で見ると、誰もが自分にいちばんいい方向に流れていくようになってるんじゃないかな。

 もちろん、つらいこともいっぱいあった。いちばんつらかったのは何と言っても、妻が若くして亡くなったとき。あのときは、このまま立ち直れないんじゃないかと思った。最近だと、やっぱり仲本(工事)のことかな。志村(けん)のときもショックだったけど、ドリフの前から一緒にやってきた仲本がいなくなったのは、かなりこたえたよね。

 考えてみたら、僕はつらいことがあったときは、いつも仲間と仕事に助けられてきた。妻が亡くなったときに、落ち込んでいた僕を見かねて、学生時代の仲間が「ブーちゃん、寂しくしてるんだったら、また一緒にハワイアンやろうよ」と声をかけてくれたんだよね。

 それから少しずつ小さな会場で演奏し始めたら、たまたま聴きに来てくれてた人からレコード会社に話が伝わって、ウクレレのCDを出すことになった。だから「ウクレレ奏者・高木ブー」の生みの親は、喜代子さんと言ってもいいかもしれない。ドリフに入るときも背中を押してもらったけど、ウクレレのときも背中を押してもらっちゃった。

 妻に重い病気が見つかって、何度も手術をしながら闘病生活を続けていたときも、毎日病院に寄ってから『ドリフ大爆笑』の収録に行ってた。仕事で忙しくしていたから、何とか自分を保つことができたんだと思う。ドリフの仲間たちもスタッフも、あんまり言葉には出さなくても、気づかってくれているのがひしひしと伝わってきたな。

 仲本がいなくなってガックリきていた僕を助けてくれたのは、加藤(茶)だった。雷様もひとりになっちゃって、もうできないかと思っていたら、加藤が「雷様は続けたほうがいい。俺も手伝うから」と言ってくれたんだよね。嬉しかったな。さっそく元日放送の『ドリフに大挑戦』で、ハゲヅラと丸眼鏡をかけた青い雷様をやってくれた。

 これからも仲間と仕事と、そして家族に助けられながら、コントもウクレレもマイペースでがんばっていきます。次は、どこに流されていくのかな。

ブーさんからのひと言

「このまま立ち直れないと思うほど、つらいときもありました。でも、いつも仲間と仕事に救われてきました。とてもありがたいことですね。感謝の気持ちをもって、これからも僕らしくがんばります」

高木ブー(たかぎ・ぶー)

1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1964年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD『Hawaiian Christmas』『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』『Life is Boo-tiful ~高木ブーベストコレクション』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)、『高木ブー画集 ドリフターズとともに』(ワニ・プラス)など。YouTube「【Aloha】高木ブー家を覗いてみよう」(イザワオフィス公式チャンネル内)も大好評。同チャンネルでは期間限定で「ドリフ大爆笑」の名作コントのデジタルリマスター版を続々と配信している。毎月1回ニコニコ生放送で、ドリフとももクロらが共演する「もリフのじかんチャンネル ~ももいろクローバーZ×ザ・ドリフターズ~」が放送中。

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。『大人養成講座』『大人力検定』など著書多数。1月26日に最新刊『無理をしない快感‐「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。

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この記事へのみんなのコメント

  • ALOHAがんチャン

    今、私も自分にとっては残念な出来事が起きショックを隠しきれない所で、ブーさんの記事を読み今までの自分の人生体験とも重ねながら思い出しながら、ただただ胸が詰まる思いです。 でも前進しないとと頑張る気持ちは持てました。無理には頑張れないけれど少しずつ。 楽しい事を沢山ふやせる様 昔ですが勤めていた会社の前にブーさんのお店ウクレレ教室がありました!

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