健康

認知症予防のためのスポーツはライトにざっくりと定期的に

 誰しも、なりたくて認知症になるわけではありません。でも、自分、あるいは親がその当事者になる可能性はある。その可能性を回避するために、今からできることとは…!? そのためのさまざまな方法を、識者に尋ねます。

  今回は、予防のためのスポーツについての前編。「健康時からの運動習慣で、医療の枠組みに頼らないライフスタイル」という『プレメディカル』構想を提唱しているスポーツ科学の専門家・杉浦雄策さん(明海大学教授、立教大学非常勤講師、博士<医学>)にうかがいました。

 * * *

予防には運動! けどできない、のワケ

 認知症予防のためにスポーツがいい、というのは、よく言われることです。それを裏付ける調査報告も多数出ています。曰く、65歳以上の高齢者1740人を約6年間追跡したものでは、週3回以上の運動(1日15分以上のウォーキング、ハイキング、サイクリング、水泳、ストレッチ等)を習慣的に行っていた人の認知症発症率は、週3回未満の人より34%少なかった。

  また、ハワイの日系男性の7年間の追跡では、1日に歩くのが400m以下の人たちは3200m以上歩く人たちの1.8倍アルツハイマー病にかかりやすかった。これらのことから、毎日30~60分程度のエクササイズが認知症予防、もしくは遅らせるのに有効と考えられている…などなど。

 しかし、運動がいいということはわかった。でも、現実はなかなか実行できない、というのが実際のところではないでしょうか。

 それはなぜか。ここには「ねばならない」が多すぎるからだと、僕は思っています。健康のために、ボケ防止のためにスポーツをしなくちゃいけない、そのためにはこれだけのことをしなければならない。巷にあふれるノウハウが、かえってスポーツを遠ざける結果になっているんだと思います。

「筋力トレーニングが高齢者の認知機能を改善する!」という調査結果もたしかにあります。が、それを聞いてジムに通い、続けられる高齢者がどれだけいるでしょうか。

  たとえば、うまいラーメンがあっても店主に「こうして食わなきゃダメだ」とか言われたら「もういいよ、食わないよ!」となりますよね。それと同じような感じ。運動を習慣にするには、うるさいこと言っちゃダメなんです。

まずは外出5分から始めよう

 たとえばウォーキング。肘を90度に曲げたまま歩けという教則とか、ルートを変える方がいいよとかの「工夫せよ」がハードルを上げていませんか? そういうことを言われると、もうめんどくさくなっちゃう。でも考えてみてください。150度が90度になったところでその効果の違いはどれほどでしょうか? コンマ何秒を争う競技の世界でならそういうことはあるかもしれないけれど、しかし我々はウサイン・ボルトではない!(笑い)

 だから、なんでもいい、まずは外に出よう、体を動かそう。5分でいいから。と、僕は考えています。…と言うスポーツの専門家はほとんどいないですけど(笑い)。

 さきほどのウォーキングにしても「30分から60分」である必要はないんです。それを聞くと「うわー、そんなに!?」と、いきなり億劫になるでしょう? 手始めは、犬の散歩やショッピングなんかでぜんぜんいいと思います。

 そういう意味では、認知症予防にいいスポーツは何かという問いには、正解はないと思います。人の体も気持ちも、みなそれぞれ。画一的に「これがいい」はない。答えは、「自分に合ったもの、好きなものでライトに」体を動かしましょう、というふうにアプローチの仕方が変わってきているように思います。

 どんなスポーツでもいい。「これがいいらしいよ」と聞いて新しいことを始める必要もない。ハードルが上がるから。昔やっていたものを掘り起こすので構わない。ゴルフ、野球、水泳でもなんでも。これまでやってきたこと、好きなこと、楽しいと思えることでいいんです。

  好きでもないことを、義務のように人は続けられませんよね。好きで楽しいことなら続けられる。ここが大切です。「継続」こそが認知症予防の秘訣ですから。毎日である必要もありません。ざっくりとでいいから、定期的に続けることです。

 そして「ライトに」も大切ですよ。高齢になれば、骨や筋肉量も落ちています。張り切りすぎたり、昔と同じ調子でやってしまうと思わぬケガも。骨折がもとで車椅子生活になり、認知症に…、というのもよくあるケース。それでは本末転倒です。ケガや熱中症のリスクなども織り込んで、ほどほどに軽めに!

認知症スポーツ_杉浦_3

杉浦雄策(すぎうら・ゆうさく)/明海大学教授。立教大学非常勤講師。博士(医学)。日本臨床スポーツ医学会会員。順天堂大学大学院修了(運動生理学)。近年、スポーツ科学の立場から、人々のつながりを基盤に「医療のお世話にならない健康づくり=プレメディカル」をスポーツ・行動科学・まちづくりまでを巻き込んだ構想として研究提唱中。著書に『入門スポーツ科学―スポーツライフをエンジョイするために』(ナップ刊)ほか。

撮影/相澤裕明 取材・文/小野純子

関連キーワード
ニックネーム可
入力されたメールアドレスは公開されません
編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

最近のコメント

シリーズ

介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
神田神保町に誕生した話題の介護付有料老人ホームをレポート!24時間看護、安心の防災設備、熟練の料理長による絶品料理ほか満載の魅力をお伝えします。
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
老人ホーム(高齢者施設)の種類や特徴、それぞれの施設の違いや選び方を解説。親や家族、自分にぴったりな施設探しをするヒント集。
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
話題の高齢者施設や評判の高い老人ホームなど、高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップ。実際に訪問して詳細にレポートします。
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
介護食の基本や見た目も味もおいしいレシピ、市販の介護食を食べ比べ、味や見た目を紹介。新商品や便利グッズ情報、介護食の作り方を解説する動画も。
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の困りごとの一つに“ニオイ”があります。デリケートなことだからこそ、ちゃんと向き合い、軽減したいものです。ニオイに関するアンケート調査や、専門家による解決法、対処法をご紹介します。
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
話題のタレントなどの芸能人や著名人にまつわる介護や親の看取りなどの話題。介護の仕事をするタレントインタビューなど、旬の話題をピックアップ。
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護保険制度の基本からサービスの利用方法を詳細解説。介護が始まったとき、知っておきたい基本的な情報をお届けします。
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
数々ある介護のお悩み。中でも「排泄」にまつわることは、デリケートなことなだけに、ケアする人も、ケアを受ける人も、その悩みが深いでしょう。 ケアのヒントを専門家に取材しました。また、排泄ケアに役立つ最新グッズをご紹介します!