健康

動脈硬化や高血圧の中高年に起きやすい「網膜静脈閉塞症」とは

 目の網膜には動脈と静脈が走っており、一部交差して重なっている部分がある。全身の動脈硬化や高血圧により、目の動脈が硬くなると静脈が圧迫され、血液がうっ滞する。これが網膜静脈閉塞症だ。末端の細い静脈の閉塞では自覚症状がないこともあるが、中心に近い太い静脈が閉塞すると虚血が起こり、新生血管が虹彩に侵入し、眼圧が上がって失明することもあるので、注意が必要だ。

 目はカメラに例えられるが、フィルムの役割を担うのが網膜だ。網膜は大量の酸素を必要とするため、血液を届ける動脈と血液を戻す静脈が網膜全体に張り巡らされている。

 動脈と静脈が交差する部分は鞘(外膜)に包まれており、動脈硬化によって動脈が硬くなると重なっている静脈が圧迫される。静脈が圧迫されると血液が戻ってこられなくなり、網膜内に血流がうっ滞し、血液が溢れ出るような出血を起こす。これを「網膜静脈閉塞症」という。

 血管が切れて出血するわけではないので、モノは赤く見えず、なんとなく見えにくい、歪む、といった症状が多い。

 東京慈恵会医科大学附属病院眼科の神野英生講師の話。

「網膜静脈閉塞症は2種類あります。視神経乳頭近くの太い静脈が閉塞する網膜中心静脈閉塞症と、細い静脈の血管が詰まる網膜静脈分枝閉塞症です。細い静脈が詰まった場合は影響を受ける範囲が限局されるので自覚症状が出ず、健康診断などで偶然発見されるケースもあります」

 網膜静脈閉塞症は動脈硬化と高血圧が主な発症原因のため、中高年以降に発症率が上がる。発症頻度は網膜静脈分枝閉塞症が40歳以上で50人に1人の割合、網膜中心静脈閉塞症は少なく、全体の0.2%と推計され、喫煙や重篤な脱水も発症リスクを高めると推測されている。

網膜の広範囲が虚血すると失明のリスクが高まる

 網膜静脈分枝閉塞症の症状は病変の部位により異なる。網膜の血管は視野の中心である黄斑部を取り囲んでおり、鼻側の細い血管が詰まった場合、自覚症状がほとんどないこともある。しかし、黄斑部に近い静脈が圧迫されると黄斑浮腫が起こり、視野のど真ん中が歪んで見えにくい、色が変色して見える、見ようとしたところが見えない、といった症状が起きてしまう。

 一方、網膜中心静脈閉塞症は視神経乳頭に入ったところの太い静脈が圧迫されるので、網膜全体に影響が出て重症度が高くなる。太い静脈の閉塞で、網膜の広範囲が虚血すると血管新生緑内障という重篤な合併症を引き起こし、失明のリスクが高まる。

「血管新生緑内障は網膜の虚血により、新生血管が発生し、虹彩にも血管が入り込みます。同時に眼内の水が循環し、最後に出ていく場所である隅角にも、新生血管が多数出てきます。それにより隅角が癒着してしまうと眼圧が上昇するため、最悪の場合は失明に至ります。虚血型は急激な視力の低下など重篤な症状が出るので、早めの治療が必要となります」(神野講師)

 重篤な虚血型の網膜中心静脈閉塞症と診断されたら、なるべく早めに虚血部分にレーザー治療を施す。虚血部を焼灼し、それ以上広がらないようにすることで正常な細胞を守り、失明を予防する。

失明のリスクもある黄斑浮腫は眼内への薬剤注射で改善が期待

 網膜静脈閉塞症は網膜にある静脈が動脈硬化を起こした動脈に圧迫され、血流がうっ滞して生じる病気だ。病変が細い血管では自覚症状がないこともあるが、太い血管で発生すると重症化し、失明もある。特にモノを見たり、色を識別する黄斑部に浮腫が起こっている症例には、浮腫の解消や血管新生を抑制するVEGF阻害薬硝子体内注射が保険承認されている。

 高血圧や動脈硬化などの生活習慣病は、全身の血管はもとより、眼の網膜にも影響を与える。網膜の動脈が動脈硬化を起こすと、重なっている静脈が圧迫され、網膜内に血流がうっ滞し、溢れるような出血を起こして出血部分の視野は欠損する。黄斑部に病変が及ぶ場合には、中心視力が低下する。

 網膜静脈分枝閉塞症のうち、末端の細い血管のみが障害される軽症例では自覚症状が少なく、健康診断で発見されることもある。一方、太い血管が障害される網膜中心静脈閉塞症や黄斑部への影響のある網膜静脈分枝閉塞症では、急激な視力低下や歪みなどの症状で来院するケースが多い。

症状がなくても定期的な診察を

「網膜静脈閉塞症の診断には、視力や視野の確認と網膜断層検査(光干渉断層計OCT)や蛍光眼底造影検査を行ないます。軽症症例では経過観察をすることもあります。ただし、初診時に症状がなくても、次第に黄斑部に浮腫が出てくることもあるので、定期的な診察は欠かせません」(神野講師)

 OCTとは眼底三次元解析装置のことで、網膜や視神経線維層の断層画像を撮影し、網膜のむくみや出血の範囲、委縮の程度などを判定する。網膜虚血の検出に関しては蛍光眼底造影検査を行なう。この検査は事前に造影剤を腕の血管から注射し、眼底カメラでの撮影を行なうもので、血流が途絶えている場所は黒く見える。

  黒く抜けている場所(無灌流領域)が虚血状態を示しており、範囲が広い場合はレーザーで虚血部を焼灼しなければならない。

 網膜は血中の酸素を大量に必要とするため、虚血になると酸素不足に陥る。特に見え方に影響する黄斑部への酸素供給を確保するのは重要で、網膜周辺部にある虚血領域を焼灼することによって正常な細胞を守り、失明のリスクを減らすことが大切だ。

 黄斑浮腫は放置すると視野欠損や歪み症状の重篤化、ときには失明などに移行するリスクがある。そのため、現在は保険承認されているVEGF阻害薬硝子体内注射を白目から細い注射針で行なう。

「VEGFというのは血管内皮増殖因子のこと。血管内皮細胞の分裂を促進し、血管新生を促す物質です。黄斑部の浮腫や虹彩への血管新生の浸潤などに関連していると考えられ、これを予防するVEGF阻害薬を注射することで、黄斑部の浮腫を軽減させ、血管新生を抑制する治療効果が期待できます」(神野講師)

 この治療は外来通院で行なわれることが多く、感染リスクを考え、原則として片眼ずつ実施される。1回の注射で終了の症例は、ほとんどない。

 繰り返しの投与を必要とするので、金銭や通院に伴う時間的な負担もある。また頻度は高くないが、感染症のリスクなどもあり、治療目的をよく理解した上で、根気よく治療を継続することが重要だ。

※週刊ポスト2019円7月5日・7月12日号

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