連載

【世界の介護】自分らしい暮らしを続けられる「オランダの認知症村」

 国内外の介護施設を数多く取材してきた中で、日本の施設に応用できないだろうかと考えることがある。『ホフヴェイ』と比較すると日本の介護施設は、介護の重症度によってフロアを分ける傾向にあり、まだまだスタッフよりの考えだ。認知症対応のグループホームも、アットホームな雰囲気は演出できるが、利用者各人が暮らしてきた家庭を再現できているとは限らない。ライフスタイルが多様化している現在では、一人ひとりの文化的背景や習慣に合わせた環境づくり、ケアのあり方が、より重要になってくるのではないだろうか。

 こうしたビレッジを建設するとなると、ある程度の広さの敷地が必要となってくる。しかし、国土面積の狭い日本でも、過疎化が進み土地が残っている場所を利用して造ることはできるかもしれない。交通の便が悪い場所でも敷地内で完結する暮らしなので、利用者にとってはそれほど問題ではないはずだ。

 ホフヴェイ方式を「閉ざされた空間の限られた自由」という見方をする向きもあるが、認知症の人が穏やかな暮らしを送るためには、ある程度 “区別”された環境が選択肢のひとつとして存在してもよいのではないだろうか。

 私がケースワーカーをしていたころ、施設では自由気ままに、胸を張って暮らしていた認知症の方々が、街に出たとたん、わがもの顔で歩く若者の迫力に押されて、肩を小さくし不安げに歩いていた光景が蘇る。「認知症村」は、そうした患者さんに応えてくれるシステムでもある。

撮影/Kiyomi Yui (Studio Frog) 取材・文/殿井悠子

取材協力/オリックス・リビング株式会社

『ホフヴェイ』公式サイト

 

殿井悠子(とのい・ちかこ)

ディレクター&ライター。奈良女子大学大学院人間文化研究科博士前期課程修了。社会福祉士の資格を持つ。有料老人ホームでケースワーカーを勤めた後、編集プロダクションへ。2007年よりイギリス、フランス、ハワイ、アメリカ西海岸、オーストラリア、ドイツ、オランダ、デンマーク、スウェーデンの高齢者施設を取材。季刊広報誌『美空』(オリックス・リビング)にて、海外施設の紹介記事を連載中。2016年、編集プロダクション『noi』 (http://noi.co.jp/)を設立。同年、編集・ライティングを担当した『龍岡会の考える 介護のあたりまえ』(建築画報社)が、年鑑『Graphic Design in Japan 2017』に入選。2017年6月、東京大学高齢社会研究機構の全体会で「ヨーロッパに見るユニークな介護施設を語る」をテーマに講演。

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この記事へのみんなのコメント

  • イチロウ

    超高齢化社会が到来しても、この国では、基本的に自己責任で各々に任せるのが国家の政策の基本です。 従って、我々高齢者は、限りある年金と自己資金を基に夫々の老後を送らねばならない決りです。 この国は、福祉国家では無いのです。 国情が欧州、特に社会福祉制度が完備している北欧諸国とはあらゆる事情が相違します。 詰まるところ、快適な施設を完備した福祉施設を提供する対象は、一定以上の資産を有する方々が対象になり、低所得層は切り捨てられる運命です。 認知症の方々も同じで、理想的な施設が出来ても、その施設の利用を可能とする金銭が無い低所得層にとっては、高根の花になる運命です。 我々国民が社会福祉制度を拡充するよう国に求める運動が必要なのです。

  • あかり

    まちこさん わたしも看護師で、人々が最後まで自分らしく過ごせる施設やまちづくりに関心があります。 そのために今自分がどのような勉強や活動をしていくべきか模索中です。 同じような考えを持つ方がいらして、嬉しく思いコメントしました。

  • まちこ

    私は看護師をしているものです。 オランダのこの認知症村の存在を知ったのは数年前ですが、本当に衝撃を受けました。と同時に、日本にもここと同じように、認知症の人やその家族が少しでも今まで通り自分らしく暮らせる環境を提供することはできないかと思っていました。これまで他人任せでしたが、日本で実現させるために自分にできることはないか、またどうすれば実現させることができるのかと模索しております。もし、どなたかこのような村を実現させたいと賛同してくださる方がいればと思いコメントさせていただきました。認知症の方が少しでも住みやすい環境を提供したい、その一心でございます。コメントいただけたら幸いです。よろしくお願い致します。

  • 咲哉

    認知症村はテレビでもやっていましたね。日本でもこの村のように、認知症の人たちが余生を幸せに送れる施設は作れないものでしょうか? 高齢者問題については、やはり欧米の方が進んでいる気がします。

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