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宗教改革500周年。カトリックとプロテスタントはここが違う

「『ルターとイグナチオ』同世代を生きた二人の改革者」講座コーディネーターの川村先生

 1517年の宗教改革から500周年となる今年。日本初のカトリック大学である上智大学では、「『ルターとイグナチオ』同世代を生きた二人の改革者」と題する記念講座を開催する。カトリックの側から宗教改革を考えるという興味深い講座だ。しかしキリスト教者以外には、カトリックとプロテスタントの違いがわかりにくい。コーディネーターを務める上智大学文学部教授の川村信三先生にその違いを聞いた。

汚れたハンカチを洗うカトリック、切り取るプロテスタント

「カトリックとプロテスタントの違いを一言で説明するとすれば、プロテスタントは神と私の問題として信仰を考える。しかしカトリックは、神と私の間に必ず教会というゆるしの場を入れる。そこが決定的に違います」(川村先生。以下「 」内同)

 そして川村先生は、曽野綾子さんの言葉を引用しながら、その違いを面白いたとえで表現した。

「『汚れたハンカチの汚れた部分を洗ってまた使い直そうとするのがカトリックで、ダメになったところを切り取って使おうとするのがプロテスタント』というたとえ話があります。ここでいうハンカチとは、教会のこと。両者の違いについて、ごくごく簡単に言えば、キリスト教の良いところだけ生かそうとするのがプロテスタントで、教会という組織を含めて昔からの伝統や形を残そうと改革を続けてきたのがカトリックなのです」

ルターの宗教改革の少し後に、イエズス会は生まれた

 プロテスタントは、1513年のドイツ人神学者のマルティン・ルター(1483-1546年)による宗教回心でカトリックからルター派が分離したことに始まる。

 当時のカトリックの教会には汚職や腐敗がはびこっていた。ドイツの聖職者であったルターは、当時の教皇レオ10世によって出された贖宥状の発行など、教皇の支配する教会の在り方に疑問を感じ、カトリックと決別した(詳しくは、別記事「宗教改革500周年。ルターの宗教改革を支えた画期的発明」)

 その十数年後に設立されたのが、16世紀に日本へフランシスコ・ザビエルをはじめとする宣教師を派遣した、カトリックの男子修道会であるイエズス会だ。イエズス会創設の中心人物はイグナチオ・デ・ロヨラ(1491-1556年)である。

「イエズス会はルターの宗教改革のカウンター(対抗)勢力として生まれたという見方がかつてはありました。しかし、贖宥状の発行や十字軍遠征など、当時の教会のやり方に不満を持っていたのはルターのほかにもたくさんいたのです。イグナチオもその一人でした」

ルターとイグナチオを学べば、カトリックとプロテスタントが見えてくる

 同時代に生きた二人の考えを知ることは、カトリックとプロテスタントの違いを知ることにつながると、川村先生は語る。

「教会自体の改革、つまり『器の改革』が必要だと考え、聖書にのみ真実があると考え、行動したのがルターです。一方で、教会という器を大切にしつつ、『教会は変えられなくとも、一人ひとりの生き方を変えることが大切だ』と考えたのがイグナチオでした」

 そこでよく言われるイグナチオの言葉が次のものである。

「白く見えるものでも、教会が黒だといえば黒だと信じよう」

「イグナチオがルターと大きく違うのは、ルターは教会の在り方に疑問を持ち、教会を排除して、個人と神との間での信仰によって赦しが得られると考えたのに対して、イグナチオは『自分は何があっても教会や教皇に従う』という意志を貫き通したところです。

 仮に教会が一見悪い行いをしていたとしても、それは教会自体が悪いわけではなく、運営している人間たちに問題がある。教会自体が持つ伝統や知識は必要なものであると考えました。また、同時に彼は『イエス・キリストの救いの目に見えるしるし』は『教会』にしか存在しないと信じていたとも言えます。

 だからこそ、イグナチオは、当時のキリスト教の抱えていた問題を『教会の問題』と捉えるのではなく、人間一人ひとりの問題に立ち返り、自分の個人的回心(えしん=メタノイア)が大切であるという信念を持っていました。つまり、世界を変えようとするのではなく、まず自分が変わること。そうすればおのずと結果があらわれると考えたのです」

 回心を目的とし、己の生き方を改めることに重きを置いたイグナチオは、俗世から離れ、洞窟にこもり一人で瞑想を行うなど、清貧の思想を貫いていく。そうしたイグナチオの思想に共鳴し、弟子はどんどん増えていき、イエズス会は大きな勢力へと成長した。

ドイツの北部はプロテスタント、南部はカトリックが多い理由

 一方ルターも、ルター派を布教していく中でさまざまな挫折を経験している。ルターが掲げた宗教改革に触発され、ドイツ各地で諸侯や農民の反乱が起きた。なかでも南ドイツで起きた大きな農民反乱の首謀者であるミュンツァーは、宗教改革に大きな影響を受けた一人だった。

 当初はこうした農民の反乱に共感していたルターだったが、反乱がエスカレートするにつれて批判的な立場をとるようになる。ルターに失望した南ドイツの人々はルター派から離れていってしまう。その結果、今でもドイツでは、北部にプロテスタントが多いのに対し、南部にはカトリックが多いという。

 キリスト教の歴史は知れば知るほど面白い。宗教改革500周年記念講座「『ルターとイグナチオ』同世代を生きた二人の改革者」は2017年10月21日(土)開催予定だ。

〔前の記事〕 宗教改革500周年。ルターの宗教改革を支えた画期的発明

取材・文・写真/藤村はるな

初出:まなナビ

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